オフ会
★1★小早川瀬那のターン
「5、4、3、2、1!Happy New Year!!」
カウントダウンと共に、5人は再びグラスを合わせて乾杯をした。
セナは生まれて初めて、ネットのオフ会というものに参加していた。
会の名前は「カミツレ恋愛サロン」。
人に言えない恋愛の悩みを相談し合おうというコンセプトだそうだ。
参加資格は片想い、両想いを問わず、現在恋をしていること。
恋愛に不慣れな上に少々マイノリティな恋をしているセナは、迷うことなく参加した。
ネットの住人たちは本名など使わず、ハンドルネームを使う。
セナは「主務」と名乗っていた。
高校時代の部活での役職にちなんでのことだ。
もっともセナでは「主務」は務まらず、結局選手にさせられたが。
主催者は「カミツレ」というハンドルネームを使っていた。
公務員であり、上司に片想いしていると明かしている。
その他によく書き込みをしているのは、3人だ。
群馬在住で遠距離恋愛をしているという「エース」という人物。
10年前に別れた初恋の人と、最近再会したという「エメラルド」という人物。
さらに傍若無人な恋人と同棲しているという「ファントム」という人物だ。
ちなみにセナの悩みは、恋人とのすれ違いの多さだった。
高校、大学とアメフトに明け暮れたセナは、現在社会人リーグで選手をしている。
そして恋人も同じアメフト選手だが、所属チームが違うのだ。
そのせいでなかなか会えないのが、セナの切実な悩みだった。
そんな面々が集まっている「カミツレ恋愛サロン」。
グチともノロケとも聞こえる話題で、掲示板は盛り上がっていた。
そしてその勢いのまま、今日は初めてのオフ会。
しかも12月31日の夜から、1月1日の朝まで。
純情恋愛に悩む者たちは、年またぎで語り合うことになったのだった。
*****
記念すべき初のオフ会会場は、都内某所の居酒屋だった。
大衆向けでリーズナブルだが、そこそこオシャレ。
しかも個室なので、大きな声で言えない恋バナも喋れる。
「『主務』さんも、お酒飲まないんですか?」
ニコニコと話しかけてきたのは「カミツレ」だった。
セナは最初の乾杯はビールだったが、2杯目からはオレンジジュースにしたからだ。
「ボク、少々酒乱気味で」
セナは苦笑しながら、そう答えた。
昔酒を飲んだとき、悪酔いして高速道路を全力疾走し、目覚めたらサファリパークにいたという過去がある。
だから恋人は、セナが酒を飲むことにいい顔をしないのだ。
かくいう「カミツレ」は、乾杯からウーロン茶だった。
本人曰く「すぐに寝落ちするから」だそうだ。
今回集まった5人のうち、何と女性は「カミツレ」だけだった。
「エース」も「エメラルド」も「ファントム」も男だったのだ。
自己紹介では誰も男とも女とも言っていないから、別に嘘をついたわけでもない。
だが掲示板を見る限り、みんな女性っぽい雰囲気だった。
セナはもしかして男は自分だけかなと思いながら、やって来たのだ。
「え~『主務』さんも酒乱?オレも!」
さっそく手を挙げたのは「エメラルド」だった。
今回の参加者の中では、群を抜く美貌の持ち主だ。
セナは思わず「え~!?うっそぉ!」と声を上げた。
こんな美人が酒乱とは、にわかに信じがたい。
「うん。オレ、からみ酒グチ派だから。」
「エメラルド」は明るくカミングアウトした。
セナは「そうなんだ」と相槌を打ちながら、どこまで本気なんだと首を傾げた。
人当たりがよさそうな美青年が酔ってからむ姿は、想像しにくい。
とりあえずセナは、自分の身元がバレないことにホッとしていた。
一応アメフトの世界では、日本を代表する選手の1人なのだ。
だがアメフトは日本ではマイナースポーツだし、プレイ中はヘルメットで顔も見えない。
興味がない人には、まったくわからないだろう。
何よりセナはアメフトをやっているとは思えないほど、小柄で細身。
アイシールド21の名は知れているかもしれないが、本名さえ名乗らなければ結びつけないはずだ。
*****
「『エース』さんは群馬在住でしたよね。わざわざオフ会のために東京に?」
「オ、オレ、今は、帰省、してて。さ、埼玉。」
「恋人の方って埼玉にお住まいって書いてましたよね?じゃあ会えたんですか?」
「・・・仕事、忙しい、って、言われて」
「ファントム」と「エース」が話しているのが聞こえる。
セナはそれを聞きながら、ため息をついた。
仕事が忙しくて、すれ違い。
ウンザリするほどよくある話だ。
「あたしは恵まれてるのかなぁ。片想いだけど同じ所属で同じ班で」
「彼氏は班長さんでしたっけ?」
セナは「カミツレ」の呟きを、セナが拾い上げた。
だが「カミツレ」は「彼氏じゃないもん」と肩を落とした。
「でも掲示板を見てると、その班長さん?も『カミツレ』さんを好きって可能性、高そうだけど。」
セナは慌ててフォローした。
だが決して調子がいい出まかせではない。
「カミツレ」は班長が頭を撫でてくれるとか、食堂で定食のセットのデザートをくれるとか書き込んでいる。
それを読む限り「カミツレ」の恋は、絶望的な片想いとは思えない。
そもそも男と女。それだけでも羨ましい。
セナの恋人は正真正銘の男だ。
結婚もできないし、世間的には秘密の恋だ。
セナの恋人はビジュアル的にも女子にモテるし、こうして会えない間に心変わりされないかいつも不安だ。
しかも所属するチームが違う、いわば敵同士。
頻繁に連絡を取ることもはばかられる、ある意味ロミオとジュリエット状態だ。
しかも1月3日、彼はアメフトの日本一を競う大会ライスボウルに出場する。
すでに敗退したセナがこうしている間にも、体調を整えているだろう。
そんな風に考えると、何だか腹が立ってきた。
自分ばっかり好きなんじゃないかって気がする。
その上、アメフトでも負けてるなんて、悔しいじゃないか。
「やっぱりボク、飲みます!」
セナは唐突にそう宣言すると、店員を呼んだ。
そして「ハイボール下さい!」とオーダーする。
「カミツレ」はいきなり態度が変わったセナに驚いたようだが、すぐに「あたしもハイボール!」と叫んだ。
さらに「エメラルド」が「オレも!」と手を上げたところで、そろそろ日付が変わろうとしていた。
「5、4、3、2、1!Happy New Year!!」
カウントダウンと共に、5人は再びグラスを合わせて乾杯をした。
そしてオフ会は新年と共に、荒れ模様に突入しようとしていた。
「5、4、3、2、1!Happy New Year!!」
カウントダウンと共に、5人は再びグラスを合わせて乾杯をした。
セナは生まれて初めて、ネットのオフ会というものに参加していた。
会の名前は「カミツレ恋愛サロン」。
人に言えない恋愛の悩みを相談し合おうというコンセプトだそうだ。
参加資格は片想い、両想いを問わず、現在恋をしていること。
恋愛に不慣れな上に少々マイノリティな恋をしているセナは、迷うことなく参加した。
ネットの住人たちは本名など使わず、ハンドルネームを使う。
セナは「主務」と名乗っていた。
高校時代の部活での役職にちなんでのことだ。
もっともセナでは「主務」は務まらず、結局選手にさせられたが。
主催者は「カミツレ」というハンドルネームを使っていた。
公務員であり、上司に片想いしていると明かしている。
その他によく書き込みをしているのは、3人だ。
群馬在住で遠距離恋愛をしているという「エース」という人物。
10年前に別れた初恋の人と、最近再会したという「エメラルド」という人物。
さらに傍若無人な恋人と同棲しているという「ファントム」という人物だ。
ちなみにセナの悩みは、恋人とのすれ違いの多さだった。
高校、大学とアメフトに明け暮れたセナは、現在社会人リーグで選手をしている。
そして恋人も同じアメフト選手だが、所属チームが違うのだ。
そのせいでなかなか会えないのが、セナの切実な悩みだった。
そんな面々が集まっている「カミツレ恋愛サロン」。
グチともノロケとも聞こえる話題で、掲示板は盛り上がっていた。
そしてその勢いのまま、今日は初めてのオフ会。
しかも12月31日の夜から、1月1日の朝まで。
純情恋愛に悩む者たちは、年またぎで語り合うことになったのだった。
*****
記念すべき初のオフ会会場は、都内某所の居酒屋だった。
大衆向けでリーズナブルだが、そこそこオシャレ。
しかも個室なので、大きな声で言えない恋バナも喋れる。
「『主務』さんも、お酒飲まないんですか?」
ニコニコと話しかけてきたのは「カミツレ」だった。
セナは最初の乾杯はビールだったが、2杯目からはオレンジジュースにしたからだ。
「ボク、少々酒乱気味で」
セナは苦笑しながら、そう答えた。
昔酒を飲んだとき、悪酔いして高速道路を全力疾走し、目覚めたらサファリパークにいたという過去がある。
だから恋人は、セナが酒を飲むことにいい顔をしないのだ。
かくいう「カミツレ」は、乾杯からウーロン茶だった。
本人曰く「すぐに寝落ちするから」だそうだ。
今回集まった5人のうち、何と女性は「カミツレ」だけだった。
「エース」も「エメラルド」も「ファントム」も男だったのだ。
自己紹介では誰も男とも女とも言っていないから、別に嘘をついたわけでもない。
だが掲示板を見る限り、みんな女性っぽい雰囲気だった。
セナはもしかして男は自分だけかなと思いながら、やって来たのだ。
「え~『主務』さんも酒乱?オレも!」
さっそく手を挙げたのは「エメラルド」だった。
今回の参加者の中では、群を抜く美貌の持ち主だ。
セナは思わず「え~!?うっそぉ!」と声を上げた。
こんな美人が酒乱とは、にわかに信じがたい。
「うん。オレ、からみ酒グチ派だから。」
「エメラルド」は明るくカミングアウトした。
セナは「そうなんだ」と相槌を打ちながら、どこまで本気なんだと首を傾げた。
人当たりがよさそうな美青年が酔ってからむ姿は、想像しにくい。
とりあえずセナは、自分の身元がバレないことにホッとしていた。
一応アメフトの世界では、日本を代表する選手の1人なのだ。
だがアメフトは日本ではマイナースポーツだし、プレイ中はヘルメットで顔も見えない。
興味がない人には、まったくわからないだろう。
何よりセナはアメフトをやっているとは思えないほど、小柄で細身。
アイシールド21の名は知れているかもしれないが、本名さえ名乗らなければ結びつけないはずだ。
*****
「『エース』さんは群馬在住でしたよね。わざわざオフ会のために東京に?」
「オ、オレ、今は、帰省、してて。さ、埼玉。」
「恋人の方って埼玉にお住まいって書いてましたよね?じゃあ会えたんですか?」
「・・・仕事、忙しい、って、言われて」
「ファントム」と「エース」が話しているのが聞こえる。
セナはそれを聞きながら、ため息をついた。
仕事が忙しくて、すれ違い。
ウンザリするほどよくある話だ。
「あたしは恵まれてるのかなぁ。片想いだけど同じ所属で同じ班で」
「彼氏は班長さんでしたっけ?」
セナは「カミツレ」の呟きを、セナが拾い上げた。
だが「カミツレ」は「彼氏じゃないもん」と肩を落とした。
「でも掲示板を見てると、その班長さん?も『カミツレ』さんを好きって可能性、高そうだけど。」
セナは慌ててフォローした。
だが決して調子がいい出まかせではない。
「カミツレ」は班長が頭を撫でてくれるとか、食堂で定食のセットのデザートをくれるとか書き込んでいる。
それを読む限り「カミツレ」の恋は、絶望的な片想いとは思えない。
そもそも男と女。それだけでも羨ましい。
セナの恋人は正真正銘の男だ。
結婚もできないし、世間的には秘密の恋だ。
セナの恋人はビジュアル的にも女子にモテるし、こうして会えない間に心変わりされないかいつも不安だ。
しかも所属するチームが違う、いわば敵同士。
頻繁に連絡を取ることもはばかられる、ある意味ロミオとジュリエット状態だ。
しかも1月3日、彼はアメフトの日本一を競う大会ライスボウルに出場する。
すでに敗退したセナがこうしている間にも、体調を整えているだろう。
そんな風に考えると、何だか腹が立ってきた。
自分ばっかり好きなんじゃないかって気がする。
その上、アメフトでも負けてるなんて、悔しいじゃないか。
「やっぱりボク、飲みます!」
セナは唐突にそう宣言すると、店員を呼んだ。
そして「ハイボール下さい!」とオーダーする。
「カミツレ」はいきなり態度が変わったセナに驚いたようだが、すぐに「あたしもハイボール!」と叫んだ。
さらに「エメラルド」が「オレも!」と手を上げたところで、そろそろ日付が変わろうとしていた。
「5、4、3、2、1!Happy New Year!!」
カウントダウンと共に、5人は再びグラスを合わせて乾杯をした。
そしてオフ会は新年と共に、荒れ模様に突入しようとしていた。
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