BurningX'mas

「なんでよりによって、クリスマスに」
火神はため息をつきながら、ホールを見回す。
そこには男が3人と女が1人、所在無げに座っていた。

火神大我は少し前までは、バスケットボールの選手だった。
才能にも体格にも恵まれ、NBAでプレイした経験もある。
だが故障して選手を引退、今は小さなレストランのオーナーシェフだ。
高校生の頃から親元を離れ、自炊していた火神のバスケ以外の特技は料理。
それを生かして、思い切り第二の人生を踏み出したのだった。

そのレストラン「ファントム」は、1日限定4組の完全予約制だ。
シェフ1人、ウエイター1人で回すには、それが限界なのだ。
人からはよくもっと手広くやった方がもうかるのにと言われる。
料理は美味いし、店の雰囲気もよく、今や予約は半年先まで埋まるほどの盛況ぶりだからだ。
だが火神はそのつもりはない。
食べていければそれでいいし、そもそも自分に人を使う資質がないことはわかっている。

そして今日はクリスマス。
2名での予約が4組、カップルたちに甘い夜を過ごしてもらおうと張り切っていたのだが。
来店したのは4名、いずれもカップルの片割れだった。
4人とも「後から連れが来るので、食事は揃ってから始めます」と言う。
だがその連れが1人も来ないまま、1時間が経過していた。

「どうしましょうか?火神君」
不意に耳元で声をかけられ、火神は「うわぁ!」と声を上げた。
彼、黒子テツヤは影が薄い上、視線誘導という技も持っていて、店にいながら完全に気配を消せる。
ときどき火神さえその姿を見失うほどで、こんな風に声をかけられ驚いた回数は数知れない。
だがそのウェイターとしては優秀だ。
客にその存在を意識させずに、サービスを提供できるのだから。

「とりあえず4人で始めちまおう!」
火神は半ば自棄になりながら、そう宣言した。
せっかくの料理、早く食べてもらいたい。
そもそも客が気まずそうにしているこの状況は、早々に終わらせたかった。
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