GAME

えーと、蛭魔妖一くんと阿部隆也くんね?
2人の青年は、名を呼ばれて小さく頷く。
そしてお互いに顔を見合わせて、どちらからともなく目だけで挨拶を交わした。
アルバイト面接のときに顔を合わせており、相手の顔は憶えている。
だが話すこともなかったので、ほとんど初対面と言っていい。

蛭魔と阿部は2人とも大学生だ。
とある有名ゲームソフト会社にアルバイトに応募した。
その内容は新しい体感型ゲームのテストをするというものだった。
アルバイト料は1日4時間、午後1時から5時までで日給1万円。
それが週に2回のペースで、1ヶ月だ。
大学生にしてはかなり割のいいバイトだった。
しかも人気のゲームソフト会社の新作を誰よりも早く体験できる。
このバイトへの応募は殺到した。
そしてめでたく合格したのが蛭魔と阿部だ。

そして今日は、そのアルバイトの初日。
2人は指定された日時に、ゲームソフト会社へ出向いてきた。
会社の大きな自社ビルの1階入口の受付で名前を言う。
すぐに通されたのは、地下3階。
綺麗なビルからは想像もつかない、薄汚れた倉庫のような場所だった。

彼らを出迎えたのは、20代半ばくらいに見える1人の女性だった。
化粧気もなく、長い髪を無造作に束ねて、年季が入っている様子のくたびれたジャージを着ている。
美人なのに、もったいない。
そんな彼らの心の声がわかったのだろう。
ごめんなさいね、こんな格好で。
プログラムテストでもう何日も泊り込みなの、と笑う。

蛭魔と阿部はまずガランとした倉庫の隅にあるテーブルに案内された。
すぐに1枚の紙とボールペンを渡される。
それは簡単な契約書だった。

ここでバイトしていること、見聞きしたことを誰にも話さないこと。
そしてゲームが発売されるまでは、蛭魔と阿部は2人で会ったり、連絡をとったりしないこと。
何かの事情で途中でアルバイトをやめる場合も、会社が許可するまでは上記の条件を守ること。
破った場合はバイト料を支払わないだけでなく、逆に違約金を支払うこと。

発売前のゲームなのだから、守秘義務があるのは不思議ではない。
蛭魔も阿部も特に疑念を持つことなく、決められた場所に了承のサインをした。
百枝はサインした2枚の契約書を見て、にっこりと笑う。
そして改めて2人に向き合うと、大きな声でこう宣言した。

2人にはチームを組んで、ゲームをしてもらいます。
私はこのゲームの開発責任者やってます、百枝まりあです!
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