タイムリープ・ゼロ 【結】の章 ~その2~
「何でこんなところにいるかなぁ?」
五条は眉を寄せながら、不機嫌に文句を言う。
乙骨は「何でと言われても」と困ったように首を傾げた。
大事件があった1年が終わり、年が変わった。
五条としては後悔ばかりが残る、不本意な年明けだった。
自分の生徒が呪詛師になった親友に誘拐された。
そして彼らの行方がわからないままだったのだ。
もちろん必死に捜索はした。
アジトを突き止め、急襲までしたのだ。
その結果、夏油に深手を負わせることまでしたのだ。
だけど捕まえることはできなかった。
大量の血痕と残穢を残して、夏油は消えた。
乙骨もその呪力の痕跡は感じ取れたが、そこにはいなかった。
それ以降も彼らを捜したけれど、見つからなかった。
やはり手掛かりは盤星教だと思ったが、空振りだった。
施設は閉鎖され、呪いどころか人の気配さえない。
五条はもう打つ手がなくなり、落胆の日々を送っていた。
だが年が明けて早々、事件は起こった。
ずっと閉鎖されていた盤星教の施設に動きがあったのだ。
何と会員制のサロンと称して、活動を再開するらしい。
これにはさすがの五条も唖然とするしかなかった。
そもそも会員制のサロンって何だ?
「とにかく内情を探るから、少し待て」
すぐに乗り込もうとする五条だったが、夜蛾に止められた。
何が起こっているのかわからな過ぎて、不気味だからだ。
そこで呪術師や窓が何名か選抜され、サロン(?)に潜入。
会員制と謳ってはいるが、初めての客も入れるらしい。
そして彼らは大満足して、帰ってきた。
「ごく普通のカフェでした。」
「コーヒーが絶品でした。」
「スイーツも何だかホッとする味で」
「軽食もメニューにありました。エスニック系でしたね。」
「希望すれば占いもしてもらえるらしいです。」
「占ってもらいました。すごく当たってました。」
「アロマですかね?すごく良い香りがしました。」
「パワーストーンを売っていました。ネックレスやブレスレットで」
「え?詐欺?でも学生が買えるような金額でしたよ?」
「帰ってきたら、ずっと悩まされていた肩こりがなくなってました!」
通販のCMか?
サロンに潜入してきた呪術師たちの報告を見た五条はツッコミを入れた。
まるで健康食品とか健康器具の宣伝文句ではないか。
そしてまさかの、顧客満足度100パーセント。
任務として警戒しながら潜入した呪術師が、全員楽しんで帰ってきている。
「これはもう僕も行くしかないよね。」
五条はニンマリと笑いながら、ひとりごちた。
手には潜入した呪術師が買ってきた、パワーストーンのブレスレット。
触れただけで、知っている呪力を感じた。
高専で思いつめた目をして、ひとりで何かと戦っていたあの少年のものだ。
ブレスレットには彼の呪力が練り込まれ、所有者を守ってくれる効果があった。
こんなシロモノが1000円、子供のこづかいで手が届く値段で売られているらしい。
かくして五条は単身、かつて盤星教と呼ばれていた施設の前に立った。
今の名前は「サロンはさば」。
建物はそのままなのに、漂ってくる雰囲気は暖かい。
意を決して中に入った五条は唖然とすることになった。
「いらっしゃいませ」
シンプルな白シャツに黒のパンツ、そしてオシャレなカフェ風のエプロン。
おそらくここの制服であろう衣装で現れた少年は、ずっと捜していた彼だった。
かつて顔を隠すようにしていた前髪を横に分け、綺麗な額を晒して艶やかに笑っている。
「何でこんなところにいるかなぁ?」
「何でと言われても」
乙骨憂太は困ったようにへにゃりと眉を下げた。
だがすぐに「とりあえずご案内します」と先に立って歩き出す。
その背中には敵意も戦意も感じない。
ただ五条を歓迎するように、穏やかな呪力が流れている。
「こちらへどうぞ」
通されたのは個室だった。
オシャレなカフェ風のインテリアは、居心地の良いものだ。
示されたテーブルは木のぬくもりを感じ、椅子も座り心地が良さそうだ。
乙骨は笑顔で「甘さたっぷりのスイーツ、お持ちしますね」と告げて、出ていく。
残された五条は「ま、いいか」と椅子にどっかり座り、長い足を組んだ。
「お待たせいたしました」
待つことしばし、スイーツを持って現れたのは乙骨ではなかった。
短く刈り上げた髪は明るい茶色で、整った顔立ちにうっすらメイクも施している。
恵まれた長身も相まって、モデルかイケメン俳優のように仕上がっていた。
だけどいくら雰囲気を変えたって、五条の目は誤魔化せない。
「何やってんだ?傑」
冷ややかに言い切った五条に、彼は「やっぱりバレた?」と苦笑する。
まるで学生時代に戻ったかのように毒気のない夏油傑だ。
押してきたワゴンから慣れた動作で、コーヒーや皿を置いていく。
「どうぞ。憂太特製のミルクレープだよ。」
ドドンと中央に置かれたのは、クレープを重ねたミルクレープだ。
生クリームやチョコレートをたっぷり重ねて、切らずにホールケーキサイズのまま。
夏油はわざとらしく「お切りしますか?」と聞いてくるが、五条は首を振った。
胸焼けしそうなこのサイズだが、五条ならば簡単に食べきれる。
五条は無言でミルクレープにフォークを入れ、一口にしては大きめに切り出した。
そして襲撃も毒も警戒することなく、大きな口を開けてパクリと頬張る。
おそらく通常より甘さを増しているであろうそれは、間違いなく美味。
そしてどこか乙骨の優しさがこもっている気がして、五条は笑みを深くした。
五条は眉を寄せながら、不機嫌に文句を言う。
乙骨は「何でと言われても」と困ったように首を傾げた。
大事件があった1年が終わり、年が変わった。
五条としては後悔ばかりが残る、不本意な年明けだった。
自分の生徒が呪詛師になった親友に誘拐された。
そして彼らの行方がわからないままだったのだ。
もちろん必死に捜索はした。
アジトを突き止め、急襲までしたのだ。
その結果、夏油に深手を負わせることまでしたのだ。
だけど捕まえることはできなかった。
大量の血痕と残穢を残して、夏油は消えた。
乙骨もその呪力の痕跡は感じ取れたが、そこにはいなかった。
それ以降も彼らを捜したけれど、見つからなかった。
やはり手掛かりは盤星教だと思ったが、空振りだった。
施設は閉鎖され、呪いどころか人の気配さえない。
五条はもう打つ手がなくなり、落胆の日々を送っていた。
だが年が明けて早々、事件は起こった。
ずっと閉鎖されていた盤星教の施設に動きがあったのだ。
何と会員制のサロンと称して、活動を再開するらしい。
これにはさすがの五条も唖然とするしかなかった。
そもそも会員制のサロンって何だ?
「とにかく内情を探るから、少し待て」
すぐに乗り込もうとする五条だったが、夜蛾に止められた。
何が起こっているのかわからな過ぎて、不気味だからだ。
そこで呪術師や窓が何名か選抜され、サロン(?)に潜入。
会員制と謳ってはいるが、初めての客も入れるらしい。
そして彼らは大満足して、帰ってきた。
「ごく普通のカフェでした。」
「コーヒーが絶品でした。」
「スイーツも何だかホッとする味で」
「軽食もメニューにありました。エスニック系でしたね。」
「希望すれば占いもしてもらえるらしいです。」
「占ってもらいました。すごく当たってました。」
「アロマですかね?すごく良い香りがしました。」
「パワーストーンを売っていました。ネックレスやブレスレットで」
「え?詐欺?でも学生が買えるような金額でしたよ?」
「帰ってきたら、ずっと悩まされていた肩こりがなくなってました!」
通販のCMか?
サロンに潜入してきた呪術師たちの報告を見た五条はツッコミを入れた。
まるで健康食品とか健康器具の宣伝文句ではないか。
そしてまさかの、顧客満足度100パーセント。
任務として警戒しながら潜入した呪術師が、全員楽しんで帰ってきている。
「これはもう僕も行くしかないよね。」
五条はニンマリと笑いながら、ひとりごちた。
手には潜入した呪術師が買ってきた、パワーストーンのブレスレット。
触れただけで、知っている呪力を感じた。
高専で思いつめた目をして、ひとりで何かと戦っていたあの少年のものだ。
ブレスレットには彼の呪力が練り込まれ、所有者を守ってくれる効果があった。
こんなシロモノが1000円、子供のこづかいで手が届く値段で売られているらしい。
かくして五条は単身、かつて盤星教と呼ばれていた施設の前に立った。
今の名前は「サロンはさば」。
建物はそのままなのに、漂ってくる雰囲気は暖かい。
意を決して中に入った五条は唖然とすることになった。
「いらっしゃいませ」
シンプルな白シャツに黒のパンツ、そしてオシャレなカフェ風のエプロン。
おそらくここの制服であろう衣装で現れた少年は、ずっと捜していた彼だった。
かつて顔を隠すようにしていた前髪を横に分け、綺麗な額を晒して艶やかに笑っている。
「何でこんなところにいるかなぁ?」
「何でと言われても」
乙骨憂太は困ったようにへにゃりと眉を下げた。
だがすぐに「とりあえずご案内します」と先に立って歩き出す。
その背中には敵意も戦意も感じない。
ただ五条を歓迎するように、穏やかな呪力が流れている。
「こちらへどうぞ」
通されたのは個室だった。
オシャレなカフェ風のインテリアは、居心地の良いものだ。
示されたテーブルは木のぬくもりを感じ、椅子も座り心地が良さそうだ。
乙骨は笑顔で「甘さたっぷりのスイーツ、お持ちしますね」と告げて、出ていく。
残された五条は「ま、いいか」と椅子にどっかり座り、長い足を組んだ。
「お待たせいたしました」
待つことしばし、スイーツを持って現れたのは乙骨ではなかった。
短く刈り上げた髪は明るい茶色で、整った顔立ちにうっすらメイクも施している。
恵まれた長身も相まって、モデルかイケメン俳優のように仕上がっていた。
だけどいくら雰囲気を変えたって、五条の目は誤魔化せない。
「何やってんだ?傑」
冷ややかに言い切った五条に、彼は「やっぱりバレた?」と苦笑する。
まるで学生時代に戻ったかのように毒気のない夏油傑だ。
押してきたワゴンから慣れた動作で、コーヒーや皿を置いていく。
「どうぞ。憂太特製のミルクレープだよ。」
ドドンと中央に置かれたのは、クレープを重ねたミルクレープだ。
生クリームやチョコレートをたっぷり重ねて、切らずにホールケーキサイズのまま。
夏油はわざとらしく「お切りしますか?」と聞いてくるが、五条は首を振った。
胸焼けしそうなこのサイズだが、五条ならば簡単に食べきれる。
五条は無言でミルクレープにフォークを入れ、一口にしては大きめに切り出した。
そして襲撃も毒も警戒することなく、大きな口を開けてパクリと頬張る。
おそらく通常より甘さを増しているであろうそれは、間違いなく美味。
そしてどこか乙骨の優しさがこもっている気がして、五条は笑みを深くした。
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