第4話「自主トレ」
「サイン、下さい!」
いきなりそんなことを言われ、三橋はオロオロと挙動不審に陥る。
それを見た郁が「え!?」と驚き、三橋はさらに混乱した。
三橋は図書館公共等の会議室に、出前に来ていた。
発端は武蔵野第一図書館の前庭で行われた集会だった。
市内のPTA団体が主催する「子供の健全な成長を考える会」。
これを妨害すべく、ロケット花火を打ち込んだ中学生がいたのだ。
郁と手塚によって取り押さえられた彼らは、玄田らの「説諭」を受けた。
そして「考える会」と図書館のフォーラムに出ることになったのだった。
もちろん三橋はそんな事情は知らない。
ただただ10数名分の軽食と飲み物を出前しろと注文を受けただけだ。
運よくこの日、士官食堂の日替わりメニューに炊き込みご飯があった。
それをおにぎりにして、さらに野菜たっぷりの味噌汁も用意した。
台車におにぎりと寸胴鍋、そして保温プレートとお椀を載せて、三橋は会議室にやって来た。
「協力してもいいけど、めんどくさいってのがあんのよ。」
会議室では郁が中学生を相手に熱弁をふるっていた。
中学生たちは興味深そうに、郁に注目している。
なんだが面白そう。
三橋はそんなことを思いながら、コンセントを捜して保温プレートのスイッチを入れた。
その上に寸胴鍋を起き、その横におにぎりやお椀を置く。
そして「出前、です!」と声を張ると、一礼して会議室を出て行こうとする。
だがその前に中学生の1人に「あの」と声をかけられた。
「も、もしかして、三橋廉選手ですか?」
三橋は驚き「うお!」と声を上げたが、すぐにコクコクと頷いた。
高校時代、甲子園に出場した時にはよくそんな風に声をかけられたものだ。
だがまさか今の三橋を見て、気付く人物がいるなんて思わなかった。
だが中学生は三橋の動揺などお構いなしに「サイン、下さい!」などと言う。
三橋はオロオロと挙動不審に陥り「え!?」と驚く郁の声にますます混乱したのだが。
「レンちゃんって三橋って名前だったの?」
郁の素の発言に、三橋はドッと脱力した。
はっきり言って「今さら、そこ?」と言いたい気分だ。
だが同時にそんなものなのだなとも思ったりする。
隊員たちは食堂で名前で呼び合ったり、噂話をしている。
だから三橋やおばちゃんたちも結構顔と名前は一致しているのだ。
だが隊員側からすれば、食堂スタッフの本名など知る機会はないのだろう。
「大河、よく知ってたね~!」
「っていうか、逆に何で知らないんですか?こんな有名人を!」
「え?そうなの?」
「そうですよ!県立高校が甲子園出場って話題になって!」
「えええっ!すっご~い!」
大声ではしゃぐ郁と中学生に、三橋は居たたまれない気分になった。
なんとか三橋にしては声を張って「21世紀、枠、だから」などと言い訳してみる。
だが興奮した2人には届かないようだ。
それどころか他の中学生も加わり「すごい」と「カッコいい」が連発される。
「す、すみ、ません!食器、あとで、取りに、来ます!」
過剰な賛辞の嵐に耐えかねた三橋は、慌ててその場を逃げ出した。
単に気恥ずかしいだけではない。
今の自分はただひたむきに野球に打ち込んでいたあの頃とはもう違う。
それが無性に寂しくて、悔しかったのだ。
いきなりそんなことを言われ、三橋はオロオロと挙動不審に陥る。
それを見た郁が「え!?」と驚き、三橋はさらに混乱した。
三橋は図書館公共等の会議室に、出前に来ていた。
発端は武蔵野第一図書館の前庭で行われた集会だった。
市内のPTA団体が主催する「子供の健全な成長を考える会」。
これを妨害すべく、ロケット花火を打ち込んだ中学生がいたのだ。
郁と手塚によって取り押さえられた彼らは、玄田らの「説諭」を受けた。
そして「考える会」と図書館のフォーラムに出ることになったのだった。
もちろん三橋はそんな事情は知らない。
ただただ10数名分の軽食と飲み物を出前しろと注文を受けただけだ。
運よくこの日、士官食堂の日替わりメニューに炊き込みご飯があった。
それをおにぎりにして、さらに野菜たっぷりの味噌汁も用意した。
台車におにぎりと寸胴鍋、そして保温プレートとお椀を載せて、三橋は会議室にやって来た。
「協力してもいいけど、めんどくさいってのがあんのよ。」
会議室では郁が中学生を相手に熱弁をふるっていた。
中学生たちは興味深そうに、郁に注目している。
なんだが面白そう。
三橋はそんなことを思いながら、コンセントを捜して保温プレートのスイッチを入れた。
その上に寸胴鍋を起き、その横におにぎりやお椀を置く。
そして「出前、です!」と声を張ると、一礼して会議室を出て行こうとする。
だがその前に中学生の1人に「あの」と声をかけられた。
「も、もしかして、三橋廉選手ですか?」
三橋は驚き「うお!」と声を上げたが、すぐにコクコクと頷いた。
高校時代、甲子園に出場した時にはよくそんな風に声をかけられたものだ。
だがまさか今の三橋を見て、気付く人物がいるなんて思わなかった。
だが中学生は三橋の動揺などお構いなしに「サイン、下さい!」などと言う。
三橋はオロオロと挙動不審に陥り「え!?」と驚く郁の声にますます混乱したのだが。
「レンちゃんって三橋って名前だったの?」
郁の素の発言に、三橋はドッと脱力した。
はっきり言って「今さら、そこ?」と言いたい気分だ。
だが同時にそんなものなのだなとも思ったりする。
隊員たちは食堂で名前で呼び合ったり、噂話をしている。
だから三橋やおばちゃんたちも結構顔と名前は一致しているのだ。
だが隊員側からすれば、食堂スタッフの本名など知る機会はないのだろう。
「大河、よく知ってたね~!」
「っていうか、逆に何で知らないんですか?こんな有名人を!」
「え?そうなの?」
「そうですよ!県立高校が甲子園出場って話題になって!」
「えええっ!すっご~い!」
大声ではしゃぐ郁と中学生に、三橋は居たたまれない気分になった。
なんとか三橋にしては声を張って「21世紀、枠、だから」などと言い訳してみる。
だが興奮した2人には届かないようだ。
それどころか他の中学生も加わり「すごい」と「カッコいい」が連発される。
「す、すみ、ません!食器、あとで、取りに、来ます!」
過剰な賛辞の嵐に耐えかねた三橋は、慌ててその場を逃げ出した。
単に気恥ずかしいだけではない。
今の自分はただひたむきに野球に打ち込んでいたあの頃とはもう違う。
それが無性に寂しくて、悔しかったのだ。
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