第26話「反良化法」
「はいはい。よかったわね。」
柴崎は半ば呆れながら、からかうようにそう言った。
そして「本当に美味しかったんだよ~」とうっとりと目を閉じた郁を見て、苦笑した。
三橋に会いに行く。
最初にその計画を聞いた柴崎は「ハァ!?」と図書隊の華らしからぬ声を上げてしまった。
なんでわざわざそんな危ないことをするのか。
しかも埼玉の三橋の家まで、訪ねて行くのだという。
「当麻先生の希望だからね。」
だが郁は事もなげにそう言った。
そして堂上班はあっさりとそれを受け入れたようだった。
冗談じゃない。なんでそんなノリノリ?
だが郁は「やっぱり気分転換も必要でしょ?」と笑った。
まぁそれはそうかも。
柴崎も結局、納得した。
確かに稲嶺邸から図書基地に移って以来、当麻はずっと基地内にいる。
それどころか図書館や庭など、人目に触れるところも避けている。
図書館の本は読み放題ではあるが、いちいち誰かに頼んで借りてきてもらう状況だ。
食事のメニューもリクエストなどせず、隊員が部屋に運んできたものを食べている。
自由にしているようで、これはなかなかストレスが溜まるだろう。
かくして当麻は堂上班に護衛されながら、三橋の家に向かった。
本当は柴崎も行きたかったのだが、今回は無理だ。
万が一にも戦闘になれば、柴崎は足手まといにしかならない。
せめて録音でもして欲しかったが、これは当麻が嫌がった。
勝手に押しかけていくのに、そんなことをするのはフェアじゃないと。
「鶏カレー、すごく美味しかった!」
無事に帰還した郁の第一声はそれだった。
心配して待っていた柴崎は、盛大にズッコケる。
だが事の顛末を聞いて、ただただ驚いた。
突然現れた5人を、三橋と阿部はあっさり家に上げた。
そして夕食にとカレーを振る舞ったというのだ。
「鶏と野菜がゴロゴロ入っててさぁ」
「はいはい。よかったわね。」
「本当に美味しかったんだよ~」
「わかったわよ。」
柴崎はうっとりと目を閉じた郁を見て、苦笑した。
三橋邸を訪れてから、もう数日経つ。
時刻は夜、食事と入浴も終わり、郁と柴崎は部屋で寛いでいた。
郁はズズッと茶を啜りながら、三橋のカレーを反芻している。
「それにしても安上がりね~」
柴崎はノートパソコンを操作しながら、茶化した。
数日前のカレーを思い出すだけで、ここまで幸せな顔が出来るとは。
食い意地もここまで来ると、もはや才能だ。
「あら?」
ニュースをチェックしていた柴崎は、キーを叩く手を止めた。
それはわかりやすい芸能ゴシップ記事だった。
世間ではいわゆる大御所と呼ばれる熟年俳優の不倫。
人格者で女優である妻とも仲の良いおしどり夫婦だと思われていたのに。
しかも密会がしっかりと写真に撮られており、言い逃れもできない状況だ。
「え~ショック!この俳優さん、結構好きだったのに。」
「そうなの?」
「だって誠実ってイメージじゃない。最近メディア良化法に反対って発言していたし」
「・・・そうね。」
柴崎が気になったのは、そこだった。
彼はここ最近のパス報道の最中、メディア良化法に反対であると表明したのだ。
好感度の高い俳優の発言に、賛同は多く集まった。
芸能界でも彼に同調する声が多く上がり、反良化法の流れの後押しをしてくれると踏んでいた。
だが今やネットにはバッシングの書き込みが並び、とても反良化法どころではないだろう。
このタイミングで不倫発覚。偶然じゃないかも。
柴崎は嫌な予感に眉をひそめながら、パソコンの電源を落とした。
そして隣でなおも「鶏カレー」と呟く郁が、心底羨ましくなったのだった。
柴崎は半ば呆れながら、からかうようにそう言った。
そして「本当に美味しかったんだよ~」とうっとりと目を閉じた郁を見て、苦笑した。
三橋に会いに行く。
最初にその計画を聞いた柴崎は「ハァ!?」と図書隊の華らしからぬ声を上げてしまった。
なんでわざわざそんな危ないことをするのか。
しかも埼玉の三橋の家まで、訪ねて行くのだという。
「当麻先生の希望だからね。」
だが郁は事もなげにそう言った。
そして堂上班はあっさりとそれを受け入れたようだった。
冗談じゃない。なんでそんなノリノリ?
だが郁は「やっぱり気分転換も必要でしょ?」と笑った。
まぁそれはそうかも。
柴崎も結局、納得した。
確かに稲嶺邸から図書基地に移って以来、当麻はずっと基地内にいる。
それどころか図書館や庭など、人目に触れるところも避けている。
図書館の本は読み放題ではあるが、いちいち誰かに頼んで借りてきてもらう状況だ。
食事のメニューもリクエストなどせず、隊員が部屋に運んできたものを食べている。
自由にしているようで、これはなかなかストレスが溜まるだろう。
かくして当麻は堂上班に護衛されながら、三橋の家に向かった。
本当は柴崎も行きたかったのだが、今回は無理だ。
万が一にも戦闘になれば、柴崎は足手まといにしかならない。
せめて録音でもして欲しかったが、これは当麻が嫌がった。
勝手に押しかけていくのに、そんなことをするのはフェアじゃないと。
「鶏カレー、すごく美味しかった!」
無事に帰還した郁の第一声はそれだった。
心配して待っていた柴崎は、盛大にズッコケる。
だが事の顛末を聞いて、ただただ驚いた。
突然現れた5人を、三橋と阿部はあっさり家に上げた。
そして夕食にとカレーを振る舞ったというのだ。
「鶏と野菜がゴロゴロ入っててさぁ」
「はいはい。よかったわね。」
「本当に美味しかったんだよ~」
「わかったわよ。」
柴崎はうっとりと目を閉じた郁を見て、苦笑した。
三橋邸を訪れてから、もう数日経つ。
時刻は夜、食事と入浴も終わり、郁と柴崎は部屋で寛いでいた。
郁はズズッと茶を啜りながら、三橋のカレーを反芻している。
「それにしても安上がりね~」
柴崎はノートパソコンを操作しながら、茶化した。
数日前のカレーを思い出すだけで、ここまで幸せな顔が出来るとは。
食い意地もここまで来ると、もはや才能だ。
「あら?」
ニュースをチェックしていた柴崎は、キーを叩く手を止めた。
それはわかりやすい芸能ゴシップ記事だった。
世間ではいわゆる大御所と呼ばれる熟年俳優の不倫。
人格者で女優である妻とも仲の良いおしどり夫婦だと思われていたのに。
しかも密会がしっかりと写真に撮られており、言い逃れもできない状況だ。
「え~ショック!この俳優さん、結構好きだったのに。」
「そうなの?」
「だって誠実ってイメージじゃない。最近メディア良化法に反対って発言していたし」
「・・・そうね。」
柴崎が気になったのは、そこだった。
彼はここ最近のパス報道の最中、メディア良化法に反対であると表明したのだ。
好感度の高い俳優の発言に、賛同は多く集まった。
芸能界でも彼に同調する声が多く上がり、反良化法の流れの後押しをしてくれると踏んでいた。
だが今やネットにはバッシングの書き込みが並び、とても反良化法どころではないだろう。
このタイミングで不倫発覚。偶然じゃないかも。
柴崎は嫌な予感に眉をひそめながら、パソコンの電源を落とした。
そして隣でなおも「鶏カレー」と呟く郁が、心底羨ましくなったのだった。
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