第2話「サードランナー」

「柴崎、それで足りるのぉ!?」
郁が頓狂な声を上げながら、柴崎の皿を覗き込む。
柴崎はその音量のデカさに顔をしかめながら「充分よ」と答えた。

そろそろ季節が初夏からはっきりと夏に変わり始めたある日の昼休み。
結成間もない堂上班と柴崎は隊員食堂にいた。
戦闘職種の4人は、本当によく食べる。
日替わり定食の大盛りをトレイに乗せた4人を見て、柴崎はこっそりとため息をついた。
柴崎が注文していたのは、同じ日替わり定食でも少な目バージョンだ。
通常の7割程度の盛りであり、大盛りの半分程度の量になっている。

「あたしだったら、絶対に足りない!」
「あんたたちと同じ基準で考えないでよ。」
柴崎は顔をしかめて見せながらも、内心では笑っていた。
郁は単純に柴崎の少ない食事量を心配しているのだ。
柴崎と郁とでは運動量も体格も、そしておそらく胃袋の容量も違う。
つまりある意味的外れなのだが、郁が真剣に柴崎を心配してくれているのが素直に嬉しかった。

「それにしても新メニューは意外と好評なんだね。」
柴崎と郁のやり取りを聞きながら、おっとりと会話に入って来たのは小牧だ。
隊員食堂の新メニューとは、今柴崎の前にある食事のことだ。
従来の全てのメニューに「少な目」が追加されたのだ。
しかもごはんの少な目、おかずの少な目、さらにその両方を少な目にすることができる。

今までだって、料理を受け取るときに申告すればその場で盛りを少なくしてもらうことはできた。
だが混雑した食堂でそれを言うのは面倒だったり、小心で口に出せない者は少なからずいる。
その結果、女子や小食の隊員の中には食事を残す者が多かったのだ。
だがしっかりと少量でメニューを分けて、しかも料金も下げた。
その結果、少な目を頼む隊員、特に業務部女子が激増したのだ。

ちなみに大盛りは従来と変わらない。
その場で大盛りと告げるだけで、ごはんやおかずを多めにしてくれるシステムだ。
また食堂スタッフも隊員の顔を覚えており、防衛員には「大盛り?」と聞いてくれる。
普通盛りと料金は同じ、若い男性隊員にはありがたいことだ。

「防衛員をターゲットにしたメニューは女子には重すぎるんですよ。」
柴崎は優雅に箸を使いながら、微笑した。
実は柴崎にとっては、少な目は色々な意味でありがたい。
値段が安いといってもたかが知れているが、毎食となるとかなり違う。
それに堂上班はみな食べるのが早いので、いつも待たせてしまうことになる。
だが最初から量が少なければ、自分のペースで食べても同じくらいに食事が終わるのだ。

「そんなものか?」
堂上がかすかに眉を寄せながら、郁を見た。
釣られるようにして、柴崎、小牧、手塚までも郁を見る。
こと食欲に関して女子という範疇に入らない郁は、パクパクと豪快に食べていた。

「え?何かありました?」
微妙な空気をまったく読まない郁が、視線に戸惑い箸を止める。
柴崎は「いいのよ。あんたはそのままで」としたり顔で言い放ち、ふくれっ面の郁を軽くいなした。
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