第15話「囮捜査」

「な~んか、複雑だなぁ」
郁はダンボール箱の中をのぞきながら、ため息をつく。
堂上も小牧も手塚も微妙な表情で、頷いていた。

郁が不当な査問にかけられ、隊内でも理不尽な扱いを受けたことが週刊誌に載った。
そのことで図書隊は世間から批判を浴び、記事で取り上げられた隊員も処分された。
これは郁にとって、納得のいかないものだった。
確かに査問はつらかったし、終わってホッとしている。
だが早く元の日常を取り戻したい郁にとっては、事を荒立てて欲しくないのだ。

それなのに、である。
図書館内を歩けば、顔見知りの利用者に「よく頑張ったね」などと声をかけられる。
また郁宛てに手紙やプレゼントなどが届くのだ。
もちろん郁の名前は、週刊誌でも公表されていない。
だが常連の利用者には、しっかりバレているらしい。

ちなみに手紙などは「笠原郁様」と書かれているのは、ほとんどない。
「無実の罪で査問にかけられた隊員の方へ」とか「いじめに負けず頑張っている隊員さんへ」とか。
とにかく長ったらしい説明書きの宛名のものが多かった。
それだけで今の図書隊内では、誰宛てなのかわかってしまうのだ。

「手紙も結構分厚いのがあるんですよね。わざわざ買ってくれたプレゼントなんかもあるし」
今、特殊部隊の事務所に運ばれてきたのも、そんなものがぎっしり詰まったダンボールだ。
そこそこ大きな箱にたくさんのハガキや封筒、そしてプレゼントらしい箱もちらほら。
しかもこれがもう3回目だ。
郁は届けられたばかりのダンボール箱を見ながら、ため息をついていたのである。

「ありがたいんですけど」
郁はまたため息をつきながらと付け加える。
こんな風に騒がれることに、困惑しているのだ。
それでもこれを迷惑とは思わず、逆に気を使ってしまうのが郁の郁たる所以だ。

郁は手紙の全てを開封し、差出人の住所があるものには返事を書いている。
プレゼントは申し訳ないけれど、返送だ。
公務員であるので、こういうものは受け取れないとメッセージもつける。
問題は差出人のないプレゼントだ。
返しようもないので仕方なく開封し、中身を確認している。

「うわ、可愛い。時計だ!」
今回唯一の差出人不明のプレゼントは、電池式の置時計だった。
片手に乗るくらいの小さなもので、さほど高価なものには見えない。
ただ黒い文字盤に、白い花があしらわれているのが可愛かった。
そえられたメッセージカードには「がんばってください」とクレヨンで書かれている。
小さな子供が贈ってくれたものだろうと想像できた。

「なんか本当に申し訳ないなぁ。」
郁はもう何度目かわからないため息をつく。
すると堂上が「ちょっとそれ、よこせ!」と声を上げた。
手塚が「なるほど」と同意し、小牧が「確かに」と頷く。
情報漏れが疑われる今の状況で、この上なく怪しい贈り物だ。

「え?堂上教官、これ欲しいんですか?」
郁だけが訳がわからず、見当違いのことを言う。
それもやはり素直で優しい郁ならではのコメントだ。
小牧は床に崩れ落ち、手塚は大きなため息をつき、堂上は眉間にしわを寄せる。
だがこの郁のキャラクターを誰もが好ましく思っているのも、間違いない事実だった。
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