第13話「未来企画」
「やぁ。こんにちは。」
手塚慧は目指す人物が現れたところで車を降り、にこやかに手を上げた。
彼はかなり驚いた様子だったが「こ、こに、ちは」と挨拶を返してくれた。
「どぞ。お茶、です。」
この武蔵野でよくぞここまでと言いたくなるほど、古いアパート。
手塚慧が手に入れたかった人物は、ここに住んでいる。
何度か面会を申し込んだが、それがかなわなかった。
だから手塚はアパートの前で、待ち伏せすることにしたのだった。
その人物、三橋廉は事前情報通りの人物のようだ。
少々自分を卑下する傾向は強いが、誰かを嫌うことはない素直な性格。
母親の件がなければ、検閲に関わることなどなかっただろう。
その証拠に三橋は勝手に待っていた手塚を、あっさりと部屋に入れてくれた。
三橋の部屋は古くて狭くて、質素な部屋だった。
家具の類も必要最低限、生活感もあまり感じられない。
それでも何の気なしに一口啜った茶は、信じられないほど美味かった。
さすが隊員食堂で働くだけあって、味覚は確かなようだ。
「す、すみま、せん。お茶菓子、なくて」
「かまわないよ。約束もなく勝手に来たんだから。」
「あ、はい」
「阿部君もここに住んでいるの?」
「いえ。でも、よく、泊まりに、来ます。」
思った以上に御しやすいかもしれない。
手塚は表面上は穏やかな笑顔のまま、そんなことを思った。
恋人であり、後方支援部に潜入している阿部隆也。
三橋は阿部との関係を隠す素振りも見せず、むしろ頬を赤らめているのだから。
「うちの研究会のことは知ってるよね。」
「み、未来、企画、ですか?」
「そう。三橋廉君、君を是非ともうちに迎え入れたい。」
「・・・なんで、オレを?」
「お母さんのために良化隊のスパイにまでなる。その心意気に惹かれたんだ。」
「そ、なん、ですか」
「ああ。君のような人が同志になってくれたら、嬉しいと思ってね。」
手塚は完結に無難な言葉を並べながら、しっかりと三橋を見据えた。
普段のの勧誘なら、心にもない美辞麗句をもっと盛大に並べ立てる。
だが三橋に関しては、それは無駄だ。
良化隊でスパイをしているなら、未来企画の実態も知っているはずだからだ。
だからひたすら三橋の人の良さにつけ込む作戦を取ることにした。
三橋と阿部は手塚にとって、魅力的な駒だった。
関東図書基地には未来企画の息がかかった隊員は何人もいる。
だがその全てが行政派か無派閥だ。
その点三橋と阿部は、公にされない原則派の情報も知れる立場にある。
手塚が欲して止まない弟の光が所属している特殊部隊の情報にも、手が届くのだ。
「砂川、さんは?」
「え?」
「砂川、さんは、同志?それとも、捨て駒、ですか?」
「もちろん同志に決まっている。」
「同志、に、笠原さん、陥れろって、命令した、ですか?」
三橋は真っ直ぐに手塚を見ながら、質問を重ねる。
その瞳の鋭さに、手塚は内心舌を巻いた。
吃音気味な口調とのアンバランスが、むしろ恐ろしい。
そこから伝わるのは手塚への怒りであり、それは未来企画への反感に繋がっている。
御しやすいなんて、とんだ見込み違いだ。
手塚は舌打ちしたい気分を押し隠して、営業用の笑みを続けた。
まだまだ交渉は始まったばかり、諦める場面ではない。
やはり三橋と阿部は弟を知り、手に入れるために、どうしても欲しい駒なのだ。
手塚慧は目指す人物が現れたところで車を降り、にこやかに手を上げた。
彼はかなり驚いた様子だったが「こ、こに、ちは」と挨拶を返してくれた。
「どぞ。お茶、です。」
この武蔵野でよくぞここまでと言いたくなるほど、古いアパート。
手塚慧が手に入れたかった人物は、ここに住んでいる。
何度か面会を申し込んだが、それがかなわなかった。
だから手塚はアパートの前で、待ち伏せすることにしたのだった。
その人物、三橋廉は事前情報通りの人物のようだ。
少々自分を卑下する傾向は強いが、誰かを嫌うことはない素直な性格。
母親の件がなければ、検閲に関わることなどなかっただろう。
その証拠に三橋は勝手に待っていた手塚を、あっさりと部屋に入れてくれた。
三橋の部屋は古くて狭くて、質素な部屋だった。
家具の類も必要最低限、生活感もあまり感じられない。
それでも何の気なしに一口啜った茶は、信じられないほど美味かった。
さすが隊員食堂で働くだけあって、味覚は確かなようだ。
「す、すみま、せん。お茶菓子、なくて」
「かまわないよ。約束もなく勝手に来たんだから。」
「あ、はい」
「阿部君もここに住んでいるの?」
「いえ。でも、よく、泊まりに、来ます。」
思った以上に御しやすいかもしれない。
手塚は表面上は穏やかな笑顔のまま、そんなことを思った。
恋人であり、後方支援部に潜入している阿部隆也。
三橋は阿部との関係を隠す素振りも見せず、むしろ頬を赤らめているのだから。
「うちの研究会のことは知ってるよね。」
「み、未来、企画、ですか?」
「そう。三橋廉君、君を是非ともうちに迎え入れたい。」
「・・・なんで、オレを?」
「お母さんのために良化隊のスパイにまでなる。その心意気に惹かれたんだ。」
「そ、なん、ですか」
「ああ。君のような人が同志になってくれたら、嬉しいと思ってね。」
手塚は完結に無難な言葉を並べながら、しっかりと三橋を見据えた。
普段のの勧誘なら、心にもない美辞麗句をもっと盛大に並べ立てる。
だが三橋に関しては、それは無駄だ。
良化隊でスパイをしているなら、未来企画の実態も知っているはずだからだ。
だからひたすら三橋の人の良さにつけ込む作戦を取ることにした。
三橋と阿部は手塚にとって、魅力的な駒だった。
関東図書基地には未来企画の息がかかった隊員は何人もいる。
だがその全てが行政派か無派閥だ。
その点三橋と阿部は、公にされない原則派の情報も知れる立場にある。
手塚が欲して止まない弟の光が所属している特殊部隊の情報にも、手が届くのだ。
「砂川、さんは?」
「え?」
「砂川、さんは、同志?それとも、捨て駒、ですか?」
「もちろん同志に決まっている。」
「同志、に、笠原さん、陥れろって、命令した、ですか?」
三橋は真っ直ぐに手塚を見ながら、質問を重ねる。
その瞳の鋭さに、手塚は内心舌を巻いた。
吃音気味な口調とのアンバランスが、むしろ恐ろしい。
そこから伝わるのは手塚への怒りであり、それは未来企画への反感に繋がっている。
御しやすいなんて、とんだ見込み違いだ。
手塚は舌打ちしたい気分を押し隠して、営業用の笑みを続けた。
まだまだ交渉は始まったばかり、諦める場面ではない。
やはり三橋と阿部は弟を知り、手に入れるために、どうしても欲しい駒なのだ。
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