第12話「過保護」
「痛!」
いきなり背中に激痛を感じ、郁は思わず足を止めた。
その足元には白いボールが1つ、転がっていた。
査問が始まり、郁は針の筵状態にいた。
図書館内でも寮内でも冷やかな視線が突き刺さる。
中にはあからさまに侮蔑や誹謗中傷の類の言葉を吐く者もいる。
郁は次第に精神的に追い詰められていた。
食欲は落ちるし、夜もなかなか眠れない。
査問が1ヶ月を過ぎる頃から、郁は夜にランニングをするのが日課になった。
訓練用のグラウンドを、ただただ黙々と走るのだ。
そしてヘトヘトに疲れ果てて、ベットに倒れ込む。
そうすれば余計なことを考えずに、ぐっすりと眠れる。
この日も走り終えた郁は、仕上げのストレッチを始めた。
屈伸をして、足首を回す。
こうすることで、翌日にダメージを残さない。
丁寧に身体を動かしていたところで、背中に衝撃を感じたのだ。
「痛!」
何が起きたかわからない郁は、思わず声を上げる。
驚いてキョロキョロと見回すと、足元には白いボールが転がっている。
大きさからして、野球のボールだろう。
しかもゴムの柔らかいものではなく、硬式野球用の硬いボールだ。
「悪いな。当たっちまった。」
郁の数メートル先には、先輩の防衛員が2人立っていた。
2人とも左手に野球のグローブをはめており、どうやらキャッチボールをしに来たという感じだ。
だが郁は嫌な予感がした。
なぜなら彼らは郁が特殊部隊に配属されてから、露骨に敵意を示してきた2人なのだ。
顔を合わせれば視線で威嚇し、隙あらば嫌味を言う。
査問が始まってからも、共同ロビーなどで聞こえよがしな悪口を浴びせられていた。
「ボール、取ってくれよ。」
防衛員の1人がパンパンとグローブを叩くのを見て、郁はボールを拾い上げた。
そして緩いボールを投げ返し、相手がキャッチするのを見届けると、一礼して踵を返す。
だがもう1人が「ちょっと待てよ」と、立ち去ろうとする郁を制止した。
「一緒にキャッチボール、やんねぇ?」
「いえ、失礼します。」
唐突な誘いに、郁は薄気味悪さを感じながらも固辞した。
ほぼ悪口以外の会話はしたこともない相手と、一緒にいたくない。
査問で弱ったメンタルの今は、なおさらだ。
郁はもう一度一礼すると、今度こそ立ち去ろうとする。
だがその郁に向かって、先程ボールを受け取った防衛員が勢いよく振りかぶった。
ボールをぶつけるつもりだ。
郁はその意図を理解したものの、どうしていいかわからず固まる。
そしてボールは男の手を離れ、郁に向かって飛んできたのだが。
パシンと郁の前で小気味のよい音がした。
郁は驚きボールを、正確にはボールを受け止めた手の主を見た。
いつの間にか現れた三橋が手を伸ばして、郁に投げつけられたボールを素手でキャッチしたのだ。
「こういうの、キライ」
三橋はポツリとそう漏らすと、大きく振りかぶった。
そして華麗なフォームから繰り出されたボールが、レーザービームのように走る。
郁はその光景をただ呆然と見ていた。
レンちゃん、カッコいい。
このとき郁はこんな場面にも関わらす、そんなことを考えていた。
三橋のフォームは圧倒的に美しく、防衛員と比べて迫力も段違いだったのだ。
いきなり背中に激痛を感じ、郁は思わず足を止めた。
その足元には白いボールが1つ、転がっていた。
査問が始まり、郁は針の筵状態にいた。
図書館内でも寮内でも冷やかな視線が突き刺さる。
中にはあからさまに侮蔑や誹謗中傷の類の言葉を吐く者もいる。
郁は次第に精神的に追い詰められていた。
食欲は落ちるし、夜もなかなか眠れない。
査問が1ヶ月を過ぎる頃から、郁は夜にランニングをするのが日課になった。
訓練用のグラウンドを、ただただ黙々と走るのだ。
そしてヘトヘトに疲れ果てて、ベットに倒れ込む。
そうすれば余計なことを考えずに、ぐっすりと眠れる。
この日も走り終えた郁は、仕上げのストレッチを始めた。
屈伸をして、足首を回す。
こうすることで、翌日にダメージを残さない。
丁寧に身体を動かしていたところで、背中に衝撃を感じたのだ。
「痛!」
何が起きたかわからない郁は、思わず声を上げる。
驚いてキョロキョロと見回すと、足元には白いボールが転がっている。
大きさからして、野球のボールだろう。
しかもゴムの柔らかいものではなく、硬式野球用の硬いボールだ。
「悪いな。当たっちまった。」
郁の数メートル先には、先輩の防衛員が2人立っていた。
2人とも左手に野球のグローブをはめており、どうやらキャッチボールをしに来たという感じだ。
だが郁は嫌な予感がした。
なぜなら彼らは郁が特殊部隊に配属されてから、露骨に敵意を示してきた2人なのだ。
顔を合わせれば視線で威嚇し、隙あらば嫌味を言う。
査問が始まってからも、共同ロビーなどで聞こえよがしな悪口を浴びせられていた。
「ボール、取ってくれよ。」
防衛員の1人がパンパンとグローブを叩くのを見て、郁はボールを拾い上げた。
そして緩いボールを投げ返し、相手がキャッチするのを見届けると、一礼して踵を返す。
だがもう1人が「ちょっと待てよ」と、立ち去ろうとする郁を制止した。
「一緒にキャッチボール、やんねぇ?」
「いえ、失礼します。」
唐突な誘いに、郁は薄気味悪さを感じながらも固辞した。
ほぼ悪口以外の会話はしたこともない相手と、一緒にいたくない。
査問で弱ったメンタルの今は、なおさらだ。
郁はもう一度一礼すると、今度こそ立ち去ろうとする。
だがその郁に向かって、先程ボールを受け取った防衛員が勢いよく振りかぶった。
ボールをぶつけるつもりだ。
郁はその意図を理解したものの、どうしていいかわからず固まる。
そしてボールは男の手を離れ、郁に向かって飛んできたのだが。
パシンと郁の前で小気味のよい音がした。
郁は驚きボールを、正確にはボールを受け止めた手の主を見た。
いつの間にか現れた三橋が手を伸ばして、郁に投げつけられたボールを素手でキャッチしたのだ。
「こういうの、キライ」
三橋はポツリとそう漏らすと、大きく振りかぶった。
そして華麗なフォームから繰り出されたボールが、レーザービームのように走る。
郁はその光景をただ呆然と見ていた。
レンちゃん、カッコいい。
このとき郁はこんな場面にも関わらす、そんなことを考えていた。
三橋のフォームは圧倒的に美しく、防衛員と比べて迫力も段違いだったのだ。
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