ミハシチャーハン
大丈夫かよ、三橋。
阿部は汗だくで中華鍋を振る三橋に、声をかける。
三橋は少々疲れた表情ではあるが、元気よく「うん!」と答えた。
埼玉県某所にある、とある店。
一見するとラーメン店であり、それは間違っていない。
だがラーメンは醤油1種類のみ。
そしてなぜか大きな肉と野菜がゴロゴロ入った鶏カレーと、具が日替わりのおにぎり。
メニューはこの3つだけという、実に風変わりな店だった。
駅からのアクセスも悪く、立地的には恵まれていない。
だがラーメンもカレーもおにぎりも実に美味だ。
だから店は繁盛しており、昼時には必ず行列ができる。
料理を担当するのは、三橋廉。
高級料亭のオーナーの孫であり、料理の腕も確かだ。
だが原価だとか採算などという飲食店経理に必要不可欠な能力が欠けている。
この男に帳簿管理までまかせたら、店はすぐにつぶれてしまうだろう。
だが心配ご無用、三橋には頼もしい相棒がいる。
ひょんなことから三橋のラーメンを食すことになった男、阿部隆也だ。
肩書きは経理担当、だが実際は雑用。
接客もするし、皿洗いもするし、基本は調理以外なら何でもこなす。
2人でスタートした店だったが、今ではスタッフの数も増え、経営は概ね順調だった。
そして最近、店に新しいメニューが加わった。
それが今、三橋が懸命に鍋を振って作っているチャーハンだ。
米飯に卵とネギ、そして細かく刻んだラーメン用のチャーシューを一緒に炒める。
そしてラーメンのスープで味を付けて、出来上がり。
シンプルだが美味で、すぐに人気メニューになった。
実は開店当初から、この店には1つだけ問題があった。
それは炊いた米飯が余ってしまうことだ。
メニューにカレーとおにぎりがある以上、米飯は当然欠かすことができない。
オーダーが入ってから炊いていたのでは当然間に合わないので、ある程度見込みで炊く。
それがどうしてもいつも多すぎて、余ってしまうのだ。
では炊く量を少なくすればいいのだが、三橋はこれを嫌がった。
注文を受けた時「すみません、今切らしてまして」とは言いたくないのだそうだ。
残ったご飯は、最初は賄い飯になった。
だがある時、三橋が思いつきでチャーハンを作ったら、これが思いのほか美味かったのだ。
細いくせに腕力は強い三橋は、力いっぱい中華鍋を振る。
舞い上がった米が直に火に炙られて、パラパラのチャーハンができた。
阿部も、他のスタッフも絶賛した。
かくしてチャーハンはメニューに加わった。
これは最初から「売り切れ御免」つまり「数に限りがあります」と銘打っている。
三橋はそれを嫌がったが、阿部の一喝で折れた。
元々残りご飯をなくすためのメニューなのに、このために飯を炊くのは本末転倒だ。
これで問題を1つ解決、無駄を省いて、売上につなげた。
だが阿部の心は晴れない。心配だからだ。
このチャーハンはコストこそかかっていないが、とにかく大変そうなのだ。
何しろ1枚ずつ、火の前で重い中華鍋を振るのだから。
これは地味に、三橋の体力を奪うような気がしてならない。
心なしかチャーハンがメニューに加わってから、三橋がつかれているようにさえ見える。
このままではまずいかもしれない。
阿部は客席でラーメンを運びながら、チラリと厨房で鍋を振る三橋を見た。
この店の要はやはり三橋なのだから、倒れでもしたら営業できない。
いや、それ以前にこんなに疲れさせたくないと思うのだ。
でも少しでも三橋を楽にするためには、いったいどうしたらいいのだろう?
阿部は汗だくで中華鍋を振る三橋に、声をかける。
三橋は少々疲れた表情ではあるが、元気よく「うん!」と答えた。
埼玉県某所にある、とある店。
一見するとラーメン店であり、それは間違っていない。
だがラーメンは醤油1種類のみ。
そしてなぜか大きな肉と野菜がゴロゴロ入った鶏カレーと、具が日替わりのおにぎり。
メニューはこの3つだけという、実に風変わりな店だった。
駅からのアクセスも悪く、立地的には恵まれていない。
だがラーメンもカレーもおにぎりも実に美味だ。
だから店は繁盛しており、昼時には必ず行列ができる。
料理を担当するのは、三橋廉。
高級料亭のオーナーの孫であり、料理の腕も確かだ。
だが原価だとか採算などという飲食店経理に必要不可欠な能力が欠けている。
この男に帳簿管理までまかせたら、店はすぐにつぶれてしまうだろう。
だが心配ご無用、三橋には頼もしい相棒がいる。
ひょんなことから三橋のラーメンを食すことになった男、阿部隆也だ。
肩書きは経理担当、だが実際は雑用。
接客もするし、皿洗いもするし、基本は調理以外なら何でもこなす。
2人でスタートした店だったが、今ではスタッフの数も増え、経営は概ね順調だった。
そして最近、店に新しいメニューが加わった。
それが今、三橋が懸命に鍋を振って作っているチャーハンだ。
米飯に卵とネギ、そして細かく刻んだラーメン用のチャーシューを一緒に炒める。
そしてラーメンのスープで味を付けて、出来上がり。
シンプルだが美味で、すぐに人気メニューになった。
実は開店当初から、この店には1つだけ問題があった。
それは炊いた米飯が余ってしまうことだ。
メニューにカレーとおにぎりがある以上、米飯は当然欠かすことができない。
オーダーが入ってから炊いていたのでは当然間に合わないので、ある程度見込みで炊く。
それがどうしてもいつも多すぎて、余ってしまうのだ。
では炊く量を少なくすればいいのだが、三橋はこれを嫌がった。
注文を受けた時「すみません、今切らしてまして」とは言いたくないのだそうだ。
残ったご飯は、最初は賄い飯になった。
だがある時、三橋が思いつきでチャーハンを作ったら、これが思いのほか美味かったのだ。
細いくせに腕力は強い三橋は、力いっぱい中華鍋を振る。
舞い上がった米が直に火に炙られて、パラパラのチャーハンができた。
阿部も、他のスタッフも絶賛した。
かくしてチャーハンはメニューに加わった。
これは最初から「売り切れ御免」つまり「数に限りがあります」と銘打っている。
三橋はそれを嫌がったが、阿部の一喝で折れた。
元々残りご飯をなくすためのメニューなのに、このために飯を炊くのは本末転倒だ。
これで問題を1つ解決、無駄を省いて、売上につなげた。
だが阿部の心は晴れない。心配だからだ。
このチャーハンはコストこそかかっていないが、とにかく大変そうなのだ。
何しろ1枚ずつ、火の前で重い中華鍋を振るのだから。
これは地味に、三橋の体力を奪うような気がしてならない。
心なしかチャーハンがメニューに加わってから、三橋がつかれているようにさえ見える。
このままではまずいかもしれない。
阿部は客席でラーメンを運びながら、チラリと厨房で鍋を振る三橋を見た。
この店の要はやはり三橋なのだから、倒れでもしたら営業できない。
いや、それ以前にこんなに疲れさせたくないと思うのだ。
でも少しでも三橋を楽にするためには、いったいどうしたらいいのだろう?
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