P/xiv
あたしなんて戦闘職種の大女で、少しも女らしくないし、かわいくないし!
身長170センチの女が、大きな瞳に涙を浮かべながら、そう叫んだ。
すると彼女より5センチほど背が低い男が「アホゥ!」と怒鳴りつける。
その怒りの勢いで「俺の惚れた女を貶めるヤツは許さない!」と言い放つが、一転して優しい瞳で彼女を見た。
彼女は背が高いくせに器用な上目遣いで「堂上教官」とすがるような声を上げる。
すると男は彼女を抱き寄せて、ごくごく自然に唇を重ねた。
タカヤ、君。読ん、だ?
朝、賑やかな教室で、廉は隆也の耳元でそっと囁く。
隆也は「ああ、面白かった!」と笑顔で答えた。
三橋廉と阿部隆也は高校2年生。
同じ高校で同じ学年だが、クラスも違うし、出身中学も違うし、性格も違う。
2人の周辺の者たちは「どこで知り合ったの?」と首を傾げている。
だが廉も隆也も「まぁひょんなことからね」と答えていた。
およそ接点がない2人は、本当にひょんなことから親しくなったのだ。
きっかけは放課後、学校の駐輪場でのことだった。
廉も隆也も自転車通学で、ここに自転車をとめている。
そして帰宅しようとしていた隆也は、自転車の前かごにカバンを置いたまま、スマホを見ていた。
たまたまその後ろを通って、自分の自転車のところに行こうとしていた廉は「う、そぉ!」と声を上げた。
あろうことか隆也が見ていたのは、廉があるサイトに投稿した漫画だったのだ。
え?「鶏カレー」って、お前?
廉が自分の作品であることをカミングアウトすると、隆也は「世の中、狭いな」と感心している。
隆也が見ていたのは、とある大手のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。
自分のイラストや漫画、小説をアップロードする。
またアップされた作品をチェックすることで、同じ嗜好の人々がつながることができるサイトだ。
ちなみに「鶏カレー」とは、廉がSNSに登録しているハンドルネームだ。
そして廉が描いているのは、女子に人気の小説の二次創作作品。
本が検閲される時代、図書館が武器を持って戦い、本を守るという物語だ。
それだけ聞くとハードな戦闘モノのようだが、実際は女子が好みそうなラブロマンス要素が強い。
現に廉も「甘く切なく、萌える漫画」を目指して、描いている。
そしてサイトの中では廉は「三橋廉」ではなく「鶏カレー」。
本名でなければなんでもよかったのだが、面倒なので大好物の食べ物にした。
作品の性質上、男と正直に表記すればドン引きされそうな気がしたので、女性で登録していた。
実は、オレもなんだ。
隆也は廉の正体(?)を知ると、自分のことを明かした。
スマホ画面を操作すると「これがオレ」と見せてくれる。
またしても廉は「う、そぉ!」と声を上げることになった。
何と隆也も、同じSNSで同じ作品の二次小説を書いていたのだ。
隆也のハンドルネームは「美佐枝」。
廉同様、面倒なので母親の名前を使い、廉同様女性として登録していた。
違うのは、隆也が投稿しているのは漫画ではなく小説である。
み、美佐枝、さん!オレ、小説、読んだ、よ!
オレも。鶏カレーの漫画は全部読んだ。
かろうじて顔と名前が一致する程度、一度も喋ったこともない2人の距離が一気に縮まった瞬間だった。
しかも2人とも、SNSに作品を投稿していることは秘密にしている。
同じ秘密を共有することになった廉と隆也は、一気に他人から無二の親友になったのである。
だが廉も隆也も知らない。
いきなり急接近した2人の距離の近さに、さまざまな噂が飛んでいることを。
クラスが違うので、さすがに授業とそのの合間の休み時間は別々だ。
だがそれ以外の朝、昼休み、放課後は、とにかく一緒にいた。
仲良く寄り添い、スマホの画面を2人で覗いている様子は、まるでカップルのようだ。
硬派な雰囲気の隆也と、中性的でかわいい系の廉。
BL好きの腐女子の萌え要素が、そこはかとなく漂っているのだ。
だが当の2人は、そんなことなど気付かない。
気付いていても、おかまいなしだろう。
ずっと誰にも言わずに、秘かに作品を投稿していた。
それが急に仲間ができたことで、テンションが上がりまくっているのだ。
聞い、て!昨日、いい、ネタ、思いついた!
廉は隆也の顔を見るなり、勢い込んで叫んだ。
これもまた同じ趣味を持つ者があるからこそ、できる楽しみだ。
思いついたネタを喋って、もっとこうしたらいいよねと膨らませて、磨いていく。
そうして作品を仕上げていくのが、楽しくてたまらない。
腐男子?ネカマ?何とでも言え!
今の2人は平凡な学校生活の合間に、萌えの世界を楽しむことに夢中なのだ。
身長170センチの女が、大きな瞳に涙を浮かべながら、そう叫んだ。
すると彼女より5センチほど背が低い男が「アホゥ!」と怒鳴りつける。
その怒りの勢いで「俺の惚れた女を貶めるヤツは許さない!」と言い放つが、一転して優しい瞳で彼女を見た。
彼女は背が高いくせに器用な上目遣いで「堂上教官」とすがるような声を上げる。
すると男は彼女を抱き寄せて、ごくごく自然に唇を重ねた。
タカヤ、君。読ん、だ?
朝、賑やかな教室で、廉は隆也の耳元でそっと囁く。
隆也は「ああ、面白かった!」と笑顔で答えた。
三橋廉と阿部隆也は高校2年生。
同じ高校で同じ学年だが、クラスも違うし、出身中学も違うし、性格も違う。
2人の周辺の者たちは「どこで知り合ったの?」と首を傾げている。
だが廉も隆也も「まぁひょんなことからね」と答えていた。
およそ接点がない2人は、本当にひょんなことから親しくなったのだ。
きっかけは放課後、学校の駐輪場でのことだった。
廉も隆也も自転車通学で、ここに自転車をとめている。
そして帰宅しようとしていた隆也は、自転車の前かごにカバンを置いたまま、スマホを見ていた。
たまたまその後ろを通って、自分の自転車のところに行こうとしていた廉は「う、そぉ!」と声を上げた。
あろうことか隆也が見ていたのは、廉があるサイトに投稿した漫画だったのだ。
え?「鶏カレー」って、お前?
廉が自分の作品であることをカミングアウトすると、隆也は「世の中、狭いな」と感心している。
隆也が見ていたのは、とある大手のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。
自分のイラストや漫画、小説をアップロードする。
またアップされた作品をチェックすることで、同じ嗜好の人々がつながることができるサイトだ。
ちなみに「鶏カレー」とは、廉がSNSに登録しているハンドルネームだ。
そして廉が描いているのは、女子に人気の小説の二次創作作品。
本が検閲される時代、図書館が武器を持って戦い、本を守るという物語だ。
それだけ聞くとハードな戦闘モノのようだが、実際は女子が好みそうなラブロマンス要素が強い。
現に廉も「甘く切なく、萌える漫画」を目指して、描いている。
そしてサイトの中では廉は「三橋廉」ではなく「鶏カレー」。
本名でなければなんでもよかったのだが、面倒なので大好物の食べ物にした。
作品の性質上、男と正直に表記すればドン引きされそうな気がしたので、女性で登録していた。
実は、オレもなんだ。
隆也は廉の正体(?)を知ると、自分のことを明かした。
スマホ画面を操作すると「これがオレ」と見せてくれる。
またしても廉は「う、そぉ!」と声を上げることになった。
何と隆也も、同じSNSで同じ作品の二次小説を書いていたのだ。
隆也のハンドルネームは「美佐枝」。
廉同様、面倒なので母親の名前を使い、廉同様女性として登録していた。
違うのは、隆也が投稿しているのは漫画ではなく小説である。
み、美佐枝、さん!オレ、小説、読んだ、よ!
オレも。鶏カレーの漫画は全部読んだ。
かろうじて顔と名前が一致する程度、一度も喋ったこともない2人の距離が一気に縮まった瞬間だった。
しかも2人とも、SNSに作品を投稿していることは秘密にしている。
同じ秘密を共有することになった廉と隆也は、一気に他人から無二の親友になったのである。
だが廉も隆也も知らない。
いきなり急接近した2人の距離の近さに、さまざまな噂が飛んでいることを。
クラスが違うので、さすがに授業とそのの合間の休み時間は別々だ。
だがそれ以外の朝、昼休み、放課後は、とにかく一緒にいた。
仲良く寄り添い、スマホの画面を2人で覗いている様子は、まるでカップルのようだ。
硬派な雰囲気の隆也と、中性的でかわいい系の廉。
BL好きの腐女子の萌え要素が、そこはかとなく漂っているのだ。
だが当の2人は、そんなことなど気付かない。
気付いていても、おかまいなしだろう。
ずっと誰にも言わずに、秘かに作品を投稿していた。
それが急に仲間ができたことで、テンションが上がりまくっているのだ。
聞い、て!昨日、いい、ネタ、思いついた!
廉は隆也の顔を見るなり、勢い込んで叫んだ。
これもまた同じ趣味を持つ者があるからこそ、できる楽しみだ。
思いついたネタを喋って、もっとこうしたらいいよねと膨らませて、磨いていく。
そうして作品を仕上げていくのが、楽しくてたまらない。
腐男子?ネカマ?何とでも言え!
今の2人は平凡な学校生活の合間に、萌えの世界を楽しむことに夢中なのだ。
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