Scoop
おなか、へった。帰り、たい。
助手席の三橋が、ブツブツと文句を言う。
阿部は「うるせぇ!黙って見とけ」と言いながら、イライラとハンドルを叩いた。
阿部隆也はフリーのジャーナリストだ。
大手の出版社系の週刊誌と契約しており、日々特ダネを追いかけている。
相棒は恋人兼カメラマンの三橋廉。
基本的には2人で組んで、ターゲットをマークする。
ちなみに今追いかけているのは、大物政治家の疑惑だ。
ある企業の依頼を受けて別の企業へ「口利き」をして、報酬をもらっている。
それを記事にするために、裏付け取材を続けている。
だからこうして車の中で、張り込みをしているのだ。
ああ、おなか、へった、よぉぉ。
三橋は情けない声で、重ねて訴えた。
阿部は「わかったから!もう少し待て!」と宥めた。
すると盛大に三橋の腹が鳴った。
阿部はハァァと大きくため息をついた。
わかっている。
阿部だって空腹なのだ。
今日は朝食こそ普通だったが、その後は昼過ぎにコンビニのおにぎりを2個食べただけで、夜まで動き回った。
ただでさえ人の嘘や裏側をうんざりするほど見なければならない仕事だ。
その上空腹では、ストレスも溜まるというものだ。
でも今は動けない。
内通者の情報によれば、今日問題の政治家と企業の担当者が会うことになっている。
だからこうして落ち合う予定の政治家の事務所前で張り込んでいるのだ。
内通者は企業側の人間で、今日の「会合」にも同席することになっている。
そしてその様子を録音してくれる手はずになっていた。
もちろん高額な報酬を約束しており、それば阿部のポケットマネーだ。
だがこの特ダネをモノにできるなら、編集部持ちにしてもらえるだろう。
三橋が事務所前でツーショット写真を押さえて、阿部が記事を書ければ、こちらの勝ちだ。
でも、やな、仕事、だよね。
三橋が空腹をまぎらわすように腹をさすりながら、そう言った。
阿部も「そうだな」と苦笑する。
人が隠していることを、白日の下にさらす仕事。
その結果、記事に書かれた人間はいろいろなものを失う。
下手をすれば何もかもなくして、社会復帰さえできなくなる。
報道の自由と、プライバシーの保護。
阿部も三橋もその境目にいつも迷いながら、特ダネを追い続けるのだ。
あ、来た!
三橋が声を上げると、すかさずリアウィンドウを下げた。
そしてスタンバイしていたデジタル一眼レフカメラを、構える。
フォーカスするのはもちろん、件の政治家と企業の担当者だ。
親し気に挨拶している様子を、バシャバシャと何枚も撮影した。
撮れたか?
政治家と担当者が車で去った後、阿部は三橋にそう聞いた。
三橋が「バッチリ!」と答えると、クセのあるやわらかい髪をグシャグシャとなでた。
後は内通者から密談の録音データをもらって、金を支払えば取材は終わりだ。
それを記事に起こして、編集部へ持って行く。
ちなみに政治家は、現職の大臣だ。
さぞかし世間をさわがせることになるに違いない。
阿部、君、ごはん。
仕事を終えた三橋が、すがるような目で阿部を見た。
阿部は「わかった、わかった」と笑いながら、車を発進させた。
助手席の三橋が、ブツブツと文句を言う。
阿部は「うるせぇ!黙って見とけ」と言いながら、イライラとハンドルを叩いた。
阿部隆也はフリーのジャーナリストだ。
大手の出版社系の週刊誌と契約しており、日々特ダネを追いかけている。
相棒は恋人兼カメラマンの三橋廉。
基本的には2人で組んで、ターゲットをマークする。
ちなみに今追いかけているのは、大物政治家の疑惑だ。
ある企業の依頼を受けて別の企業へ「口利き」をして、報酬をもらっている。
それを記事にするために、裏付け取材を続けている。
だからこうして車の中で、張り込みをしているのだ。
ああ、おなか、へった、よぉぉ。
三橋は情けない声で、重ねて訴えた。
阿部は「わかったから!もう少し待て!」と宥めた。
すると盛大に三橋の腹が鳴った。
阿部はハァァと大きくため息をついた。
わかっている。
阿部だって空腹なのだ。
今日は朝食こそ普通だったが、その後は昼過ぎにコンビニのおにぎりを2個食べただけで、夜まで動き回った。
ただでさえ人の嘘や裏側をうんざりするほど見なければならない仕事だ。
その上空腹では、ストレスも溜まるというものだ。
でも今は動けない。
内通者の情報によれば、今日問題の政治家と企業の担当者が会うことになっている。
だからこうして落ち合う予定の政治家の事務所前で張り込んでいるのだ。
内通者は企業側の人間で、今日の「会合」にも同席することになっている。
そしてその様子を録音してくれる手はずになっていた。
もちろん高額な報酬を約束しており、それば阿部のポケットマネーだ。
だがこの特ダネをモノにできるなら、編集部持ちにしてもらえるだろう。
三橋が事務所前でツーショット写真を押さえて、阿部が記事を書ければ、こちらの勝ちだ。
でも、やな、仕事、だよね。
三橋が空腹をまぎらわすように腹をさすりながら、そう言った。
阿部も「そうだな」と苦笑する。
人が隠していることを、白日の下にさらす仕事。
その結果、記事に書かれた人間はいろいろなものを失う。
下手をすれば何もかもなくして、社会復帰さえできなくなる。
報道の自由と、プライバシーの保護。
阿部も三橋もその境目にいつも迷いながら、特ダネを追い続けるのだ。
あ、来た!
三橋が声を上げると、すかさずリアウィンドウを下げた。
そしてスタンバイしていたデジタル一眼レフカメラを、構える。
フォーカスするのはもちろん、件の政治家と企業の担当者だ。
親し気に挨拶している様子を、バシャバシャと何枚も撮影した。
撮れたか?
政治家と担当者が車で去った後、阿部は三橋にそう聞いた。
三橋が「バッチリ!」と答えると、クセのあるやわらかい髪をグシャグシャとなでた。
後は内通者から密談の録音データをもらって、金を支払えば取材は終わりだ。
それを記事に起こして、編集部へ持って行く。
ちなみに政治家は、現職の大臣だ。
さぞかし世間をさわがせることになるに違いない。
阿部、君、ごはん。
仕事を終えた三橋が、すがるような目で阿部を見た。
阿部は「わかった、わかった」と笑いながら、車を発進させた。
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