Spy Hunter
どっからやられてんだよ!?
榛名の不機嫌な怒声が、会議室に響き渡る。
阿部は肩をすくめながら「現在、調査中です」と答えた。
阿部隆也は、大学時代の先輩が立ち上げた会社に勤めている。
今はやりのスマホやタブレット端末向けのアプリを開発する会社だ。
社長であり、阿部を会社に誘ってくれた先輩、榛名元希は業界では有名人だ。
大学時代から画期的なアイディアで、いくつものアプリを作り、ヒットさせた。
そんな榛名を支えるために、阿部は榛名の会社に呼ばれたのだ。
ところがここ数ヶ月の間に、奇妙なことが起こった。
企画から設計、開発まで社員たちが精魂込めて作ったゲームアプリ。
それとほとんど同じ内容のものが、他社から発売されたのだ。
発売日はそちらの方が2週間早い。
結果として阿部たちが発売したアプリは、パクリ扱いされることになった。
もしそれが1度だけであるなら、奇妙な偶然と片づけることができたかもしれない。
だが2作、3作となると、そうはいかない。
何らかの方法で、アプリが盗まれていると考えるのが妥当だった。
そこで緊急会議が招集された。
いったいどうやって盗まれたのかを明らかにしなければならない。
盗まれた分のアプリ開発は完全な赤字だ。
このままでは会社の存続さえ、怪しくなってしまう。
どっからやられてんだよ!?
榛名の不機嫌な怒声が、会議室に響き渡る。
阿部は肩をすくめながら「現在、調査中です」と答えた。
この会議に集められているのは、5名。
社長である榛名元希と、その秘書の秋丸恭平。
企画担当のチーフ花井梓と、開発担当のチーフ栄口勇人。
そして営業担当兼副社長の阿部だ。
ちなみにこの会社の主要人物5名全員が20代半ば、それほど若い会社である。
新しいアプリの情報は、全部社外秘扱いにしています。
社員が会社を出る時には、カバンやポケットなどを念入りにチェックしています。
また御存知の通り、社内のパソコンは社内ネット以外には繋がりません。
だから企画段階の資料が、社外に出ることはあり得ません。
キビキビと報告したのは花井だった。
企画段階の資料には、どんなアプリかという説明が書かれている。
いわば設計書のようなものだ。
開発はそれを見て、実際のアプリを作り上げる。
また営業は、これを元に顧客への販売戦略を作るのだ。
開発中のアプリが出ることだってあり得ません。
企画資料と同じように、社員が持ち出さないように厳重にチェックしてますから。
栄口がそう告げる。
阿部も「営業だって、同じです」と付け加えた。
だったらどうして、盗まれたんだよ!
榛名は声を荒げると、秋丸が「まぁまぁ」と宥めた。
正直言って、こんな小規模な会社に社長秘書など必要ない。
だが秋丸には、大事な役目が1つある。
元々榛名はアプリ開発にセンスがあるが、社長業には向いていない。
気分屋で好きなことしかしたがらず、そもそも人をまとめようという気があまりない。
たびたび癇癪を起こす榛名を宥めて仕事をさせるのが、秘書の秋丸の仕事だった。
だが今回は、単なる癇癪ではない。
おそらく会社のドル箱になるはずだったアプリが、ことごとく盗まれたのだ。
とにかく一刻も早く、原因を突き止めなければならなかった。
1人だけ、可能性がある人物がいます。
阿部はカッカと熱くなる榛名と対照的に、冷静な声でそう言った。
そして「証拠はありませんが」と付け加える。
すると榛名だけでなく、秋丸も花井も栄口も身を乗り出して来た。
何となくいい気分になった阿部は、勿体つけた動作でプロジェクターのスイッチを入れた。
そしてスクリーンに映し出された人物に、全員が「あ」と声を上げた。
彼はうちの社員以外で、唯一開発スペースに入れる人物です。
阿部は1人1人と目を合わせながら、そう言った。
この会社は、来訪する他社の人間と打ち合わせなどをする場合は、接客用の部屋を使う。
つまり社員以外は、開発スペースに入ることはできない。
だがプロジェクターに映った人物は、唯一の例外だった。
彼は西浦メンテナンス所属の、ビルメンテ担当者です。
うちのフロアで、雑用をしてくれています。
定期的に行うのは、掃除やゴミ捨て、ウォーターサーバーの交換。
あとは電球が切れるとか、不定期なアクシデントの対応。
阿部はそう告げると、軽く深呼吸をして間合いを取った。
緩急をつけて、効果的に。
営業のプレゼンテーションと同じだ。
同じ言葉でも、言い方1つで説得力が変わる。
プロジェクターに移されたのは、開発フロアで掃除機をかけている彼の映像だった。
ビル内の防犯カメラから起こした画像だ。
ニコニコと鼻唄でも歌っているような笑顔。
事実彼が「ムッフ、フ~ン」と妙な歌を口ずさんでいるのは、有名だった。
とりあえずビル内に防犯カメラを増やします。
そして彼が開発スペースで妙な動きをしていないかどうか、監視します。
阿部がそう告げると、全員がホッとしたような表情になった。
犯人らしき人物が特定されたことに、安心したのだろう。
こうして榛名社長以下、一同はこの一件が解決に向かうものだと思った。
だがそのまますんなりと一件落着とはならなかった。
再びアプリは盗まれ、いよいよ辞退は会社の存続を揺るがしつつあったのだ。
榛名の不機嫌な怒声が、会議室に響き渡る。
阿部は肩をすくめながら「現在、調査中です」と答えた。
阿部隆也は、大学時代の先輩が立ち上げた会社に勤めている。
今はやりのスマホやタブレット端末向けのアプリを開発する会社だ。
社長であり、阿部を会社に誘ってくれた先輩、榛名元希は業界では有名人だ。
大学時代から画期的なアイディアで、いくつものアプリを作り、ヒットさせた。
そんな榛名を支えるために、阿部は榛名の会社に呼ばれたのだ。
ところがここ数ヶ月の間に、奇妙なことが起こった。
企画から設計、開発まで社員たちが精魂込めて作ったゲームアプリ。
それとほとんど同じ内容のものが、他社から発売されたのだ。
発売日はそちらの方が2週間早い。
結果として阿部たちが発売したアプリは、パクリ扱いされることになった。
もしそれが1度だけであるなら、奇妙な偶然と片づけることができたかもしれない。
だが2作、3作となると、そうはいかない。
何らかの方法で、アプリが盗まれていると考えるのが妥当だった。
そこで緊急会議が招集された。
いったいどうやって盗まれたのかを明らかにしなければならない。
盗まれた分のアプリ開発は完全な赤字だ。
このままでは会社の存続さえ、怪しくなってしまう。
どっからやられてんだよ!?
榛名の不機嫌な怒声が、会議室に響き渡る。
阿部は肩をすくめながら「現在、調査中です」と答えた。
この会議に集められているのは、5名。
社長である榛名元希と、その秘書の秋丸恭平。
企画担当のチーフ花井梓と、開発担当のチーフ栄口勇人。
そして営業担当兼副社長の阿部だ。
ちなみにこの会社の主要人物5名全員が20代半ば、それほど若い会社である。
新しいアプリの情報は、全部社外秘扱いにしています。
社員が会社を出る時には、カバンやポケットなどを念入りにチェックしています。
また御存知の通り、社内のパソコンは社内ネット以外には繋がりません。
だから企画段階の資料が、社外に出ることはあり得ません。
キビキビと報告したのは花井だった。
企画段階の資料には、どんなアプリかという説明が書かれている。
いわば設計書のようなものだ。
開発はそれを見て、実際のアプリを作り上げる。
また営業は、これを元に顧客への販売戦略を作るのだ。
開発中のアプリが出ることだってあり得ません。
企画資料と同じように、社員が持ち出さないように厳重にチェックしてますから。
栄口がそう告げる。
阿部も「営業だって、同じです」と付け加えた。
だったらどうして、盗まれたんだよ!
榛名は声を荒げると、秋丸が「まぁまぁ」と宥めた。
正直言って、こんな小規模な会社に社長秘書など必要ない。
だが秋丸には、大事な役目が1つある。
元々榛名はアプリ開発にセンスがあるが、社長業には向いていない。
気分屋で好きなことしかしたがらず、そもそも人をまとめようという気があまりない。
たびたび癇癪を起こす榛名を宥めて仕事をさせるのが、秘書の秋丸の仕事だった。
だが今回は、単なる癇癪ではない。
おそらく会社のドル箱になるはずだったアプリが、ことごとく盗まれたのだ。
とにかく一刻も早く、原因を突き止めなければならなかった。
1人だけ、可能性がある人物がいます。
阿部はカッカと熱くなる榛名と対照的に、冷静な声でそう言った。
そして「証拠はありませんが」と付け加える。
すると榛名だけでなく、秋丸も花井も栄口も身を乗り出して来た。
何となくいい気分になった阿部は、勿体つけた動作でプロジェクターのスイッチを入れた。
そしてスクリーンに映し出された人物に、全員が「あ」と声を上げた。
彼はうちの社員以外で、唯一開発スペースに入れる人物です。
阿部は1人1人と目を合わせながら、そう言った。
この会社は、来訪する他社の人間と打ち合わせなどをする場合は、接客用の部屋を使う。
つまり社員以外は、開発スペースに入ることはできない。
だがプロジェクターに映った人物は、唯一の例外だった。
彼は西浦メンテナンス所属の、ビルメンテ担当者です。
うちのフロアで、雑用をしてくれています。
定期的に行うのは、掃除やゴミ捨て、ウォーターサーバーの交換。
あとは電球が切れるとか、不定期なアクシデントの対応。
阿部はそう告げると、軽く深呼吸をして間合いを取った。
緩急をつけて、効果的に。
営業のプレゼンテーションと同じだ。
同じ言葉でも、言い方1つで説得力が変わる。
プロジェクターに移されたのは、開発フロアで掃除機をかけている彼の映像だった。
ビル内の防犯カメラから起こした画像だ。
ニコニコと鼻唄でも歌っているような笑顔。
事実彼が「ムッフ、フ~ン」と妙な歌を口ずさんでいるのは、有名だった。
とりあえずビル内に防犯カメラを増やします。
そして彼が開発スペースで妙な動きをしていないかどうか、監視します。
阿部がそう告げると、全員がホッとしたような表情になった。
犯人らしき人物が特定されたことに、安心したのだろう。
こうして榛名社長以下、一同はこの一件が解決に向かうものだと思った。
だがそのまますんなりと一件落着とはならなかった。
再びアプリは盗まれ、いよいよ辞退は会社の存続を揺るがしつつあったのだ。
1/10ページ