ゆるキャラヒーロー
さぁ、レンレンを助けよう!
ヒーローたちは拳を突き上げると、悪の手先に取り囲まれた「レンレン」の元に駆けつける。
客席からは、子供たちの声援が響き渡っていた。
阿部隆也は劇団の研究生、つまり俳優の卵だ。
劇団と言っても、学生時代のサークルの延長みたいな素人集団ではない。
多くの有名俳優を輩出した、日本でも有数の一流劇団だ。
そこの入試を受けて、約150倍の難関を突破したのだ。
とはいえ、あくまで立場は研究生。
まだ知名度もなければ、仕事のオファーもない。
だから研究所のレッスンを受けながら、アルバイトをする日々だ。
そして今日のアルバイトは、スーツアクター。
遊園地で、子供たちに人気の特撮ヒーロー「らーぜレンジャー」のショーがある。
阿部はその中の1人としてスーツの中に入り、悪と戦うのだ。
はっきり言って、いい歳をしてバカバカしい気はしないでもない。
だがバイトと割り切ってしまえば、かなり割りがいいのだ。
そこそこアクションをこなさなければならない、つまり誰でも簡単にできるものではないからだろう。
それに少しでも演技に関わる仕事をしていた方が、将来にプラスになると思う。
ちなみに今日のショーには、ゲストがいた。
それは猫のようであり、熊のようであり、タヌキのようであり、でもどれでもない。
彼の名前は「レンレン」。
関東の某県某市の非公認マスコットキャラクター、いわゆるゆるキャラだ。
この手のやつは最近やたらと増殖しており、はっきり言って「もう飽きた」と言いたい。
だけどこの「レンレン」は、そんな中で人気上昇中なのだそうだ。
阿部は「らーぜレンジャー」のリーダー「らーぜレッド」の役だ。
他の4人が「レンレン」を捕まえようとする悪の手下どもを「レンレン」から引き剥がす。
阿部は「レンレン」を背中にかばって、かかって来る敵を薙ぎ払った。
手下を全部倒すと、敵の首領が出てくる。
だがその攻撃をかわして、必殺技「らーぜハリケーン」を繰り出した。
すると敵の首領は「覚えていろ!」と捨てゼリフを吐き捨て、逃げていく。
テレビで放送中の話なので、ここで敵を絶滅させてしまうわけにはいかないのだ。
そして「レンレン」がペコペコとお辞儀をする。
喋らないゆるキャラなので、感謝はこういう動作で表現するしかないのだ。
そしてリーダー「らーぜレッド」と「レンレン」が握手を交わして、ショーは終了だ。
楽屋に戻った「らーぜレンジャー」は、衣装であるヒーロースーツを脱いだ。
中から出てくるのは、ごく普通の青年たち。
もう何度も一緒にショーをやっているので、全員が顔馴染みだ。
だが今日はもう1人、新顔がいる。「レンレン」だ。
彼はまず両手で自分の頭を掴んで、取り外した。
中から現れたのは、びっしょりと汗をかいた童顔の青年だった。
入り時間が違ったので、着替えのときは顔を合わせなかった。
つまり阿部たちは、今はじめて「レンレン」の中身の人間の顔を見たのだ。
大変だなぁ。俺らの衣装よりも暑そうだもんなぁ。
ヒーロー役の中で一番人懐っこい性格の田島が「レンレン」に声をかける。
ちなみに彼の役柄は「らーぜイエロー」だ。
だ、だいじょ、ぶ、です。
「レンレン」役の青年がそう答えると「フ、ヒ!」と妙な声で笑った。
その笑顔に、阿部はドキリとした。
そしてその胸騒ぎのような感覚に、ただただ戸惑った。
あんな着ぐるみに入って、1時間のショーを演じるのはかなりつらい。
実際、阿部たちだって、スーツを脱いだ時にはウンザリとため息が出てしまうのだ。
だけどこの男は、楽しそうに笑ってる。
それを思うだけで、何だか切ないような焦れたような、妙な気分になるのだ。
随分後になって、阿部はこのときに一目惚れをしたのだと理解する。
でもこのときには、わからなかった。
ただゆるキャラの「レンレン」より、この青年の方がずっとかわいいと思ったのだ。
ヒーローたちは拳を突き上げると、悪の手先に取り囲まれた「レンレン」の元に駆けつける。
客席からは、子供たちの声援が響き渡っていた。
阿部隆也は劇団の研究生、つまり俳優の卵だ。
劇団と言っても、学生時代のサークルの延長みたいな素人集団ではない。
多くの有名俳優を輩出した、日本でも有数の一流劇団だ。
そこの入試を受けて、約150倍の難関を突破したのだ。
とはいえ、あくまで立場は研究生。
まだ知名度もなければ、仕事のオファーもない。
だから研究所のレッスンを受けながら、アルバイトをする日々だ。
そして今日のアルバイトは、スーツアクター。
遊園地で、子供たちに人気の特撮ヒーロー「らーぜレンジャー」のショーがある。
阿部はその中の1人としてスーツの中に入り、悪と戦うのだ。
はっきり言って、いい歳をしてバカバカしい気はしないでもない。
だがバイトと割り切ってしまえば、かなり割りがいいのだ。
そこそこアクションをこなさなければならない、つまり誰でも簡単にできるものではないからだろう。
それに少しでも演技に関わる仕事をしていた方が、将来にプラスになると思う。
ちなみに今日のショーには、ゲストがいた。
それは猫のようであり、熊のようであり、タヌキのようであり、でもどれでもない。
彼の名前は「レンレン」。
関東の某県某市の非公認マスコットキャラクター、いわゆるゆるキャラだ。
この手のやつは最近やたらと増殖しており、はっきり言って「もう飽きた」と言いたい。
だけどこの「レンレン」は、そんな中で人気上昇中なのだそうだ。
阿部は「らーぜレンジャー」のリーダー「らーぜレッド」の役だ。
他の4人が「レンレン」を捕まえようとする悪の手下どもを「レンレン」から引き剥がす。
阿部は「レンレン」を背中にかばって、かかって来る敵を薙ぎ払った。
手下を全部倒すと、敵の首領が出てくる。
だがその攻撃をかわして、必殺技「らーぜハリケーン」を繰り出した。
すると敵の首領は「覚えていろ!」と捨てゼリフを吐き捨て、逃げていく。
テレビで放送中の話なので、ここで敵を絶滅させてしまうわけにはいかないのだ。
そして「レンレン」がペコペコとお辞儀をする。
喋らないゆるキャラなので、感謝はこういう動作で表現するしかないのだ。
そしてリーダー「らーぜレッド」と「レンレン」が握手を交わして、ショーは終了だ。
楽屋に戻った「らーぜレンジャー」は、衣装であるヒーロースーツを脱いだ。
中から出てくるのは、ごく普通の青年たち。
もう何度も一緒にショーをやっているので、全員が顔馴染みだ。
だが今日はもう1人、新顔がいる。「レンレン」だ。
彼はまず両手で自分の頭を掴んで、取り外した。
中から現れたのは、びっしょりと汗をかいた童顔の青年だった。
入り時間が違ったので、着替えのときは顔を合わせなかった。
つまり阿部たちは、今はじめて「レンレン」の中身の人間の顔を見たのだ。
大変だなぁ。俺らの衣装よりも暑そうだもんなぁ。
ヒーロー役の中で一番人懐っこい性格の田島が「レンレン」に声をかける。
ちなみに彼の役柄は「らーぜイエロー」だ。
だ、だいじょ、ぶ、です。
「レンレン」役の青年がそう答えると「フ、ヒ!」と妙な声で笑った。
その笑顔に、阿部はドキリとした。
そしてその胸騒ぎのような感覚に、ただただ戸惑った。
あんな着ぐるみに入って、1時間のショーを演じるのはかなりつらい。
実際、阿部たちだって、スーツを脱いだ時にはウンザリとため息が出てしまうのだ。
だけどこの男は、楽しそうに笑ってる。
それを思うだけで、何だか切ないような焦れたような、妙な気分になるのだ。
随分後になって、阿部はこのときに一目惚れをしたのだと理解する。
でもこのときには、わからなかった。
ただゆるキャラの「レンレン」より、この青年の方がずっとかわいいと思ったのだ。
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