ウルル
赤い砂漠。
千代は生まれて初めて目にする大自然を見渡して、そう思った。
篠岡千代は旅先にいた。
場所は日本でも人気の、南半球の国だ。
日本から飛行機で7時間ほどで入国、そしてこの地へは国内線に乗り継いでさらに2時間。
テレビや映画で見たり、この国を旅行したことのある友人に土産話を聞いて、ぜひ来たいと思っていた。
そして今回、念願かなって、この旅行が実現したのだ。
同行しているのは恋人だった。
高校からのクラスメイトで、大学も同じ。
大学の入学式の日、彼に「偶然だね」と大げさに驚いて、それをきっかけに近づいた。
だけど本当は彼が進む大学を知って、同じ大学の同じ学部を選んだのだ。
千代は決して自分から告白はしなかった。
彼は高校の頃から女子には人気があり、告白した者は何人もいる。
だがその全員が「好きな人がいるから」とことわられたと聞いている。
だから千代は慎重に友人という位置をキープしながら、傍で見ていた。
そして時々彼から「好きな人」のことを聞いた。
彼らは付き合っていて、順調に恋を育んでいたのだ。
千代は秘かに嫉妬しながら、慎重に想いを隠していた。
そんな千代と彼が付き合うことができたのは、偶然だった。
彼は「好きな人」と別れたそうで、酷く落ち込んでいたのだ。
ずっと彼に寄り添い、弱った彼の心の隙をついたのだ。。
そして彼と恋人同士になり、こうして一緒に旅行に出るまでの仲になったのだ。
ホテルにチェックインした2人は、散歩に出た。
移民ではなく先住民が住んでいたとされるこの地は、観光地とは思えないほど何もない。
広がるのは赤土の大地ばかりだ。
買い物をするような店も、食事をするようなレストランやカフェもない。
だけど都会で生まれ育った千代には、新鮮な光景だった。
ねぇ日本に帰ったら、両親に会ってくれない?
千代は世界で2番目に大きいといわれる一枚岩を見ながら、そう告げた。
赤茶けた砂漠の中にうかぶ有名な岩に、2人は明日登る予定だ。
彼は一瞬めんどくさそうな表情をしたが、すぐに「いいよ」と答えた。
彼にとっては、ただめんどうなだけのこと。
千代は思わずため息が出そうになり、慌てて飲み込んだ。
両親に会うというのは、家族ぐるみの付き合いをしたいという意思表示。
つまり遠回しに、結婚を促したつもりなのだ。
だが残念ながら、彼には通じなかったようだ。
彼は多分別れた「好きな人」のことをまだ想っている。
千代は彼と付き合いながら、そのことを痛切に感じていた。
どこか心の奥を見せないというか、踏み込ませてくれない感じが彼にはあるのだ。
何とかこの旅行で、2人の間の距離を埋めたい。
千代はこの旅行にかけていた。
だがホテルの部屋に戻って程なくして、千代は身体の異変を感じた。
頭痛、そして悪寒、喉の痛み。
いわゆる風邪の症状だ。
それに何だか眩暈もして、足元がフラフラした。
おい、大丈夫か?
彼もさすがに千代の様子がおかしいことに気付き、声をかけてくれる。
冗談じゃない、この旅行は勝負なのに。
だけど千代はそのままベットに倒れ込み、起き上がることができなくなった。
ここで体調を崩したことで、旅行は思いもよらない結末となる。
千代はそのことを後悔することになるのだが、今は知る由もない。
慣れない旅先での体調不良で、ただただ不安だった。
千代は生まれて初めて目にする大自然を見渡して、そう思った。
篠岡千代は旅先にいた。
場所は日本でも人気の、南半球の国だ。
日本から飛行機で7時間ほどで入国、そしてこの地へは国内線に乗り継いでさらに2時間。
テレビや映画で見たり、この国を旅行したことのある友人に土産話を聞いて、ぜひ来たいと思っていた。
そして今回、念願かなって、この旅行が実現したのだ。
同行しているのは恋人だった。
高校からのクラスメイトで、大学も同じ。
大学の入学式の日、彼に「偶然だね」と大げさに驚いて、それをきっかけに近づいた。
だけど本当は彼が進む大学を知って、同じ大学の同じ学部を選んだのだ。
千代は決して自分から告白はしなかった。
彼は高校の頃から女子には人気があり、告白した者は何人もいる。
だがその全員が「好きな人がいるから」とことわられたと聞いている。
だから千代は慎重に友人という位置をキープしながら、傍で見ていた。
そして時々彼から「好きな人」のことを聞いた。
彼らは付き合っていて、順調に恋を育んでいたのだ。
千代は秘かに嫉妬しながら、慎重に想いを隠していた。
そんな千代と彼が付き合うことができたのは、偶然だった。
彼は「好きな人」と別れたそうで、酷く落ち込んでいたのだ。
ずっと彼に寄り添い、弱った彼の心の隙をついたのだ。。
そして彼と恋人同士になり、こうして一緒に旅行に出るまでの仲になったのだ。
ホテルにチェックインした2人は、散歩に出た。
移民ではなく先住民が住んでいたとされるこの地は、観光地とは思えないほど何もない。
広がるのは赤土の大地ばかりだ。
買い物をするような店も、食事をするようなレストランやカフェもない。
だけど都会で生まれ育った千代には、新鮮な光景だった。
ねぇ日本に帰ったら、両親に会ってくれない?
千代は世界で2番目に大きいといわれる一枚岩を見ながら、そう告げた。
赤茶けた砂漠の中にうかぶ有名な岩に、2人は明日登る予定だ。
彼は一瞬めんどくさそうな表情をしたが、すぐに「いいよ」と答えた。
彼にとっては、ただめんどうなだけのこと。
千代は思わずため息が出そうになり、慌てて飲み込んだ。
両親に会うというのは、家族ぐるみの付き合いをしたいという意思表示。
つまり遠回しに、結婚を促したつもりなのだ。
だが残念ながら、彼には通じなかったようだ。
彼は多分別れた「好きな人」のことをまだ想っている。
千代は彼と付き合いながら、そのことを痛切に感じていた。
どこか心の奥を見せないというか、踏み込ませてくれない感じが彼にはあるのだ。
何とかこの旅行で、2人の間の距離を埋めたい。
千代はこの旅行にかけていた。
だがホテルの部屋に戻って程なくして、千代は身体の異変を感じた。
頭痛、そして悪寒、喉の痛み。
いわゆる風邪の症状だ。
それに何だか眩暈もして、足元がフラフラした。
おい、大丈夫か?
彼もさすがに千代の様子がおかしいことに気付き、声をかけてくれる。
冗談じゃない、この旅行は勝負なのに。
だけど千代はそのままベットに倒れ込み、起き上がることができなくなった。
ここで体調を崩したことで、旅行は思いもよらない結末となる。
千代はそのことを後悔することになるのだが、今は知る由もない。
慣れない旅先での体調不良で、ただただ不安だった。
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