Heart Delivery1

廉は毎週1回のこの作業に悪戦苦闘していた。
彼は宅配便の大手会社「三星運輸」の配送助手だ。
先輩社員である配送運転手とペアを組んで、集荷や配達業務の補助作業を行うのが仕事だった。

昼は交代で休み、食事を摂る。
最近は時間指定の集荷や配達が多く、時間に追われるのだが、人手は常に不足している。
だから1人で配送車両を運転して、業務を行う時間帯があるのだ。
そして廉が毎回苦戦する厄介なその配達は、いつも廉が1人の時間帯だった。
実は配送運転手が面倒な仕事を廉に押し付けるために、その時間に食事休憩を取っていることも気づいている。
だが廉は文句を言うこともなく、その仕事をこなしていた。

その部屋は古いマンションの4階なのだが、もうかなり長い間エレベーターが壊れている。
しかも届ける荷物はいつも大量で、とにかく重い。
品名を見ると「米」とか「野菜」とか書いてあり、受取人も差出人も同じ名字。
そして荷物を受け取る客は、多分廉と同じ年齢くらいの若い男だ。
察するに、実家の親が息子に食料を送っているのだろう。
痩せていて貧弱な体躯の廉と違い、しっかりとした大人の男の身体を持つ彼は、きっと食欲も旺盛だ。

今日も廉は四苦八苦しながら、彼の部屋の前まで荷物を運んだ。
そして部屋のドアチャイムを鳴らして「三星運輸です」と声をかける。
声があまり大きくない廉は、こうして声を出すのがすごく苦手だった。

配達伝票を渡すと、彼が無言で受け取り、ハンコを押す。
そして伝票を廉に差し出すと「いつも悪いな」と言った。
廉は伝票に押された印章を確認すると「いえ、仕事、ですので」と笑った。

今まで何も言わなかった彼が声をかけてくれた。いつも悪いなと。
つまり彼も廉の顔を覚えてくれているのだ。
初めて聞いた彼の優しげな声が、廉の心を暖かく包んでいくような気がする。
そしてさっき返した笑顔がぎこちなく見えていなければいいな、と思う。

阿部、隆也さん。
廉は彼の名前を心の中で何度も繰り返しながら、軽い足取りで配送車両に戻っていった。
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