Momokan's Eye

三橋と阿部の気持ちの変化に最初に気がついたのは監督の百枝だった。
保護者などから見れば、百枝は選手たちとほとんど同年代だ。
だが選手に混ざれば、はるかに大人だった。
そして監督という仕事柄、人間観察は鋭い。
それに何より色恋沙汰は、男よりやはり女の方が詳しい。
野球一筋の純情な少年たちより、彼女が先に気がつくのは当然と言えた。
とにかく誰よりも先に2人の気持ちに気がついた百枝は、少なからず動揺した。

西浦は共学なのだし、誰かが「カノジョ」を持つことは想定範囲内だ。
一番あり得る可能性はマネージャーある篠岡と、部員の誰かだと思っていた。
若い女性の身で、バイトをしながら監督をこなす百枝。
存在自体が型破りな彼女は、物事の考え方などには柔軟性はあるつもりだった。
恋愛についても、余程のことがなければ強制や反対などはしたくない。
だがこの想定外の恋愛の芽には、正直途方にくれていた。

阿部はまだいい。
高校1年生とは思えない、よくいえば大人、悪く言えばヒネた発想をする。
恋をしても、少なくても野球に悪影響を及ぼさないように気持ちを制御できるかもしれない。

問題は三橋だ。
とにかくネガティブで、部員たちとのコミュニケーションすら覚束ない。
野球と恋愛をうまく両立できるタイプとは到底思えなかった。

しかも男同士の恋愛。百枝個人はそれを否定するつもりなどない。
だが他の部員たちはどうだろうか。
これから多くの時間を共有し、同じ夢を追う仲間たちには隠せないだろう。
この関係を嫌悪する者が現れるかもしれない。
その結果、チームワークにヒビが入る可能性は低くない。

どう考えても、答えは1つだ。
どうにも気は進まないが、こうするしかないと思った。
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