遠距離恋愛2

ああ、もう。どいつも、こいつも。
阿部隆也は心の中で悪態をつくと、深い深いため息をついた。

西浦高校硬式野球部が、発足して10年。
阿部は初代監督百枝まりあから、その地位を引き継いだ。
大学を卒業して、会社勤めを3年程経験した。
そして4月からは、父親が経営する給排水設備会社で働き始める。
西浦の監督をしてもらえないかと打診されたのは、その頃だった。

阿部は、かなり迷い、悩んだ。
何らかの形で野球は続けたいと思ったが、せいぜい草野球くらいのつもりだった。
それがまさか母校の監督とは。

でも魅力的な誘いでもあった。
もう1度高校野球に関われるなんて、こんなに嬉しいことはない。
それでもいくら父親の会社とはいえ、仕事をしているのだ。
片手間で監督など務まるのか。
そんな阿部の背中を押したのは、新しい雇用主である父親だった。

やってみればいいじゃねーか。
父がそう言ったのは、別に理解があるというわけではない。
実は父も野球好きであり、面白がっているだけだ。
それでも社長の了解がとれたなら、問題ない。
阿部は2代目監督に就任し、西浦高校硬式野球部を率いることになったのだ。

そして就任してみて、骨身に沁みて、わかったこと。
それは高校野球の監督に1番必要なのは、指導力でも技術でもない。
ただただひたすら忍耐力だということだ。
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