遠距離恋愛1

阿部君、太った、ね。
三橋は容赦なく、そう言った。
阿部はムッとしたものの、否定することができず、深い深いため息をついた。

三橋と阿部が出逢った高校入学から、10年。
阿部は大学を卒業して、都内で3年程、会社勤めした。
その後は、父親が経営する給排水設備会社に就職だ。
最初から父親の下で働いてもよかった。
だが社会勉強という名目で、3年程は他所で働いた。
ゆくゆくは父から会社を受け継ぐことになるだろう。

そして三橋は社会勉強などという期間は持たず、大学卒業後は祖父の経営する三星学園に就職した。
父と同じ、学校職員。事務職だ。
こうして高校、大学と実に7年間もバッテリーを組んだ2人は、別々の道を進むことになった。

彼らが恋人同士だと知っているのは、高校時代のチームメイトら、ごくごく少数だ。
そしてその面々は、大学卒業後に道を分かった2人はいったいどうなるのかと思った。
あれほど濃密な時間を過ごした阿部と三橋は、離れても大丈夫なのか。
しかも埼玉と群馬、そう簡単に会うことはできない距離だ。
2人の絆の強さも、想いの深さもよく知っている彼らは、大いに心配した。

だがその心配は杞憂に終わった。
2人は毎晩のように電話し、メールする。
そして少しでも時間があれば、とにかく会っていた。
なかなか会えない分、2人の時間は以前より大事に思えるようになった。
つまり前にも増して、ラブラブ度は増していたのだ。

そして今日、阿部と三橋は2週間ぶりの逢瀬を楽しんでいた。
都内で待ち合わせて、夕食を食べる。
そして朝まで恋人同士の時間を楽しむ予定だ。
切なくて、甘い遠距離恋愛。
だが再会した三橋の第一声は、何とも情緒のないものだった。

阿部君、太った、ね。
三橋は容赦なく、そう言った。
阿部はムッとしたものの、否定することができず、深い深いため息をついた。
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