メタボリック&ハングオーバー

タカ、しばらく見ない間にちょっと太ったんじゃない?
久しぶりに会う実家の母が、開口一番、そう言った。
太ったんじゃなくて、まだ育ってんだよ!
阿部は即座にそう答えたが、内心ギクリとしていた。

もうすぐ20歳の誕生日を迎える阿部は、日々充実した大学生活を送っている。
大学でも好きな野球を続け、高校の頃から惚れ込んだ大事なエースとバッテリーを組んでいる。
しかもそのエースは実は最愛の恋人で、2人で部屋を借りて、一緒に暮らしているのだ。
ルームシェアだと親や世間を騙しているのは少々心苦しいが、それ以外は特に問題もない。
好きなことに打ち込み、恋人と一緒に眠る生活は、この上なく幸せだ。

そんな阿部の唯一の悩みが、体型だった。
高校の3年間で、身長の成長は止まった。
なのに相変わらず横幅の成長は止まらず、体重も少しずつだが増え続けているのだ。
その正体は残念なことに、筋肉ではなく脂肪だ。
ぶっちゃけて言えば、阿部は少しずつ太り始めているのだった。

そりゃ遺伝だ。
オレも高校を卒業したくらいから、太り始めたからなぁ。
父親は楽しそうに、自らのでっぷりとした身体を揺すって笑う。
だけど阿部からすれば、冗談じゃないと叫びたい気分だった。
この姿が自分の将来像だと思うと、悲しくなってくる。

ちなみに恋人の三橋は、阿部とは真逆な身体を持っている。
とにかくものすごい量を食べるのに、本当に太らないのだ。
むしろ太れないことが悩みだという、日本のほぼ全ての女子の敵。
しかも童顔で、先に二十歳を過ぎているのに、高校生でも通るような容姿なのだ。
まったく不公平だと思う。
この先ずっと一緒にいるつもりなのに、こちらだけ太って歳を取っていくとしたら、あんまりだ。

酒を飲み始めると、一気に太るぞ。気をつけろ!
父親はガハハと笑いながら、気持ちよさそうに酒を飲んでいる。
ああ、そういう心配もあるのかと、阿部はため息をついた。
まったく久しぶりの実家での食事なのに、なぜこんなに憂鬱な気分にならなければならないのか。

実は20歳の誕生日、三橋と2人で酒を飲むことになっている。
まさかその1日で一気に太ることはないだろうけど、注意しなければ。
阿部はそんな決意をしながら、実家を後にしたのだった。
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