かけおち

やっぱり来なければよかった。
阿部はため息をつきながら、前と両隣から攻め込んでくる男たちを見た。

12月に入って間もなく、阿部は少し早い忘年会に参加していた。
かつての仲間である西浦高校野球部の面々が集まる会だ。
卒業してもうすぐ4年、全員が来年の春に社会人になる。
そんな区切りの年のせいか、阿部たちの学年は出席率がよかった。

だが残念ながら、三橋は欠席だった。
本当は直前まで出席の予定だったのだ。
だが今朝、祖父の具合が悪いと連絡があったのだ。
だから三橋は予定をキャンセルして、群馬に向かった。

三橋が行かないなら、オレも行かねぇ。
阿部はそう思ったが、結局この場にいる。
当の三橋に「オレの、分まで、楽しんで、きて!」と言われたからだ。
高校時代の仲間に会うことを楽しみにしていた三橋に、少しでも土産話ができれば。
阿部が参加したのは、そんな思いからだった。

だが会の後半、居酒屋の座敷で、阿部は3人の男に囲まれていた。
右に田島、左に泉、正面には浜田。
いわゆる三橋の「兄ちゃんず」だ。
彼らは急に三橋が来られなくなったことを、ひどく残念がっていた。
だから今は恋人として、三橋と一緒に暮らす阿部に小姑よろしくロックオンしたのだ。
少しでも三橋の近況を聞きたいということなのだろう。

なぁ三橋って最近どうなの?元気なんだろ?
3人の兄ちゃんは酔いの勢いも手伝って、三橋の名を連呼する。
たまりかねた阿部は、スマートフォンに入っていた画像を見せた。
約半年ほど前、三橋の誕生日に撮影したものだ。
2人だけで祝ったささやかなパーティを喜んだ三橋は、可憐な笑顔を見せている。
それを見た途端「三橋、かわいい~!」とまた兄ちゃんずのテンションが上がった。

三橋、ジィちゃんとは上手くやってるんだよな?
浜田が不意に真面目な口調で、阿部にそう聞いた。
阿部は一瞬考えたが、すぐに「ああ」と頷いた。
三橋は群馬の祖父をすごく心配していたし、たまに聞かされる群馬の話にも特に不自然を感じない。

何でそんなことを聞くんだ?
浜田に思わず聞き返した阿部は、少し切ない話を聞かされた。
三橋が浜田と共にギシギシ荘なるアパートに住んでいた頃の思い出だ。
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