銀杏の味

お誕生日、おめでとぉ!
阿部隆也は満面の笑みと共に差し出された「それ」を、マジマジと見た。
透明な袋にギッシリと入っているのは、何かの植物の種子のようだ。
袋の中には、黄色いイチョウの葉や赤いカエデの葉も数枚ほど入れられている。

阿部も三橋も高校を卒業して、現在は大学の2年生。
そして阿部は数日後に20歳の誕生日を迎える。
周りからは「これで大人の仲間入り」なんて言われるけど、正直言ってピンとこない。
20歳になったその日に、急に何かが変わるわけではないだろうに。

残念ながら今年、阿部はかわいい恋人と誕生日を祝うことが出来ない。
阿部は両親から、実家に帰るようにと言い渡されていた。
20歳という節目なのだから誕生日をちゃんと祝おうと言うのだ。
三橋は三橋でバイト先の店長に、この日はシフトに入って欲しいと拝み倒されてしまったそうだ。
仕方がない。誕生日はまた来るし、三橋にだってまた会える。
わざわざ阿部のアパートにプレゼントを持ってきてくれる三橋には感謝するべきだろう。
だが渡された「それ」の正体がわからなくて、阿部はただただ困惑する。

ギンナンだよ!誕生日に食べてね!
三橋はさらにそう言うと、袋をグイっと阿部の前に突き出してきた。
阿部はその勢いに押されるように、銀杏の袋を受け取る。
それは思ったよりもズッシリと重くて、阿部は思わず「うぉ!」と声を上げていた。

何でギンナン?
阿部は思わず聞き返す。
その質問は予想外だったようで、三橋はキョトンと目を見開いた。
だが次の瞬間「そっか。覚えてないよね」と寂しそうな表情になった。
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