落葉デート

阿部が前方の景色を見ながら「微妙だな」と言った。
三橋がまた同じ方向を見ながら「ごめん。。。」と口ごもる。
だけど正直なところ、阿部は景色などどうでもいいのだ。
三橋が隣にいれば、ただそれだけでいい。

阿部の誕生日は、今年は日曜日だ。
三橋は何を思ったか「桜を見に行こう」と言い出した。
この桜並木は、地元では有名なお花見スポットだ。
桜の時期にはたいそう賑わうし、春や秋など陽気がいいときには散歩する人もちらほらといる。
だが今は12月、しかもここ数日は冷え込みが厳しい。
阿部と三橋以外には、人の気配などまったくなかった。

ごめん、ね。1週間、前は、綺麗、だった、んだ。
阿部はしょんぼりと項垂れる三橋に「あ~なるほどな」と答えた。
確かに1週間くらい前は、12月とは思えない程暖かい日が続いていた。
近所の楓などが未だに半分くらい緑を残していたのだ。
阿部は今年は暖冬だといいなと甘い期待をした。

三橋は考えたのだろう。
こんな暖かいのなら、阿部の誕生日は外ですごそうと。
そしてわざわざ三橋の誕生日に葉桜を見に来たこの桜並木を下見したようだ。
きっと桜は葉の色が変わり始めたものの、かなり残っていたはずだ。
だからそういう桜見物も悪くないと思ったのだ。

だが残念なことに、急な冷え込みで桜の葉はかなり落ちてしまった。
かろうじて残っている葉は赤く色づいたものもあるが、枯れているものもある。
だが綺麗と言えない事もない。
かろうじて風情がないこともない。 
そんな何とも微妙な景色だったのだ。
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