君が見ている世界

それはあらゆる偶然が悪い方に作用した事故だった。

今日の三橋の投球練習の相手は田島だった。
「一球だけ、とりかえっこしねぇ?」
指定された投球数をこなした三橋に、田島が言った。
田島曰く。
捕手の練習を始めて、三橋たちの投球を受けているうちに1回投げたくなったのだという。
「遊びの1球だけ。全力では投げねぇし、三橋も防具をつけりゃ大丈夫だ。」
田島の言葉に、三橋はコクコクと頷いた。

阿部は控え投手、花井と沖の投球練習の相手をした。
そしてノルマをこなして、三橋の様子を見に行き、それが目に入った。
ワインドアップで投球動作に入った田島。
プロテクターをつけて、腰を落として構える三橋。
冗談ではない。万が一の事故でも起こったら。
「おい、やめろ!」
阿部は大声で叫んだ。

不運がいくつも重なった。
阿部の声に驚いた田島は、軽く投げるつもりが勢いよく投げてしまったこと。
しかもコースも高めになってしまったこと。
三橋もまた声に驚き、ボールから目を離して阿部の方を見てしまったこと。
普段防具などつけ慣れていない三橋が、ヘルメットではなく帽子をかぶっていたこと。

田島の球は三橋の側頭部を直撃した。
三橋は一瞬、首がもぎ取られるような衝撃を感じて、その場に倒れた。
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