寿司職人とタレ目青年

オレの実家は老舗の寿司屋だった。
親父は昔気質で頑固な職人で、店は味にうるさい馴染みの常連客で繁盛していた。
オレはそんな親父に憧れて、同じ寿司職人の道を選んだ。
そして修行を積んで、ついに実家の寿司屋の後を継いだ。

親父の味を守って、老舗の寿司屋を続けるのがオレの夢。
それはさほどむずかしい話ではないと思っていた。
根性には自信がある。
厳しい修行に耐えて腕を磨くことなど、苦労のうちではないと思った。
だがオレのささやかな夢は、思いも寄らない形でくずれることになった。

一言で言うなら、時代の流れに乗れなかったと言うことだろうか。
ファミレスだって、定食屋だって、ワンコイン500円で食事が出来る。
ハンバーガーが100円、牛丼は300円しないこのご時勢。
いくらネタもシャリも最高だと言っても、1貫何千円という寿司を食べる客は減った。
頼みの綱、親父の代からご贔屓の客たちは高齢で、どうしても足が遠のく。

このままでは店を閉めるしかなくなる。
売り上げが落ちたうちの店は、ついにオレの代で苦渋の決断をした。
店を大幅に改装して、店の形態を変えた。
今流行の回転寿司屋として、リニューアルオープンしたのだ。

伝統あるうちの店を、よりによって回転寿司に。
引退したとはいえ、未だに元気な親父は泣いた。
オレも悔しくて、隠れて布団の中で涙をこぼした。
でも大好きな寿司職人を続ける方法を他に思いつけなかった。
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