阿部選手のキャッチャーマスク

阿部、選手の、マスクって。
三橋はテレビの画面を凝視しながら言った。

阿部の誕生日も終わった年末のある日、阿部と三橋は三橋邸のリビングにいた。
三橋のテスト勉強を見てくれた礼として、阿部が夕食に招かれたのだ。
だが三橋の母親が晩餐の支度をしているのを、リビングで待つのは拷問だ。
食欲をそそる香りが、育ち盛りの健康で空腹な胃袋が直撃するからだ。
三橋は今にも涎を垂らしそうな表情で、落ち着きなく身体を揺すっている。
気をまぎわらすために、2人はテレビを見ることにした。

折りしも年末、今年のプロ野球の総集編らしい番組が放送されていた。
ちょうど場面はセリーグのクライマックスシリーズ。
ジャイアンツの捕手である阿部慎之助選手が、ピッチャーの球を捕球するために構えている。
その独特のキャッチャーマスクに、三橋の目が釘付けになったのだ。

ああ、確かにちょっと変わってるな。
三橋の言葉に答えるように、阿部が同意した。
阿部もそうだが、捕手の多くは被ったヘルメットにマスクを引っ掛けるスタイルだ。
だが巨人の阿部捕手のキャッチャーマスクは、ヘルメットと合体したような形。
そのヘルメット自体も、一見バイクのヘルメットのようにごつい。

阿部く、使ってる、やつ、より、安全?
三橋が隣にいる阿部に聞いてくる。
いや、そう見えるけど、あまり変わんねぇと思うぞ。
阿部はそう答えながら、三橋の方をチラリと見た。
三橋は興味津々の様子で、テレビ画面を凝視している。
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