監督と初代主将のお話

いつになったら、この人と対等になれるのだろう。
初代主将である花井梓は、いつもそう思っていた。

大学を卒業して、今年は社会人の1年目のスタートを切ったばかり。
花井は大学までは野球をしていたが、プロの道には進まなかった。
就職したものの、まだ一人前の社会人というには程遠い。
会社では当然一人前には扱ってもらえず、慣れない仕事と人間関係にストレスが溜まる日々だ。

今日は研修を兼ねた外回りで、偶然かつての母校の近くまで来た。
時刻はもう夕方で、会社に戻る前に退社時刻を過ぎてしまう。
花井、今日はもうこのまま直帰でいいぞ。
同行していた先輩社員にそう言われて、花井は心遣いに感謝した。
彼は花井の実家がこの近くであることを知っている。
ありがとうございます、と運動部仕込みの挨拶で、花井が深々と頭を下げる。
先輩社員は「声がデカイよ」と苦笑した。

気分転換をしよう。
あの元気な女性監督の顔を見て、後輩たちの練習を見て。
先輩社員と別れた花井は、そんな事を思いながら母校のグラウンドに足を向けた、のだが。
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