白い軌跡

「元気だな、あいつら!」
数名のクラスメイトが窓から校庭を見下ろしながら、笑っている。
その声につられて視線を追った水谷が「田島と泉と、三橋?」と呟いた。
机に突っ伏して眠りに入る体勢だった阿部は、その言葉にムクリと顔を上げた。

この冬初めての大雪だった。
昨夜から降り始めた雪が積もり、一面を銀世界に変えている。
通常の昼休みなら校庭で過ごす生徒もいるのだが、さすがに今日はいない。
そんな中に現れたのが、9組の野球部員たちだった。

「すげぇな!」
小さな子供のようにはしゃぐ田島が、まだ誰も踏み荒らしていない新雪の中を走っていく。
その後ろをやはり軽やかな足取りで、楽しそうな表情の泉が続く。
三橋はその2人を見守るように、その場に立ち止まっている。
阿部たちからは、校舎に背を向けて立つ三橋の表情は見えない。

三橋はしっかりとコートを着て、手袋とマフラーと耳当てをしている。
それにこの雪なら転倒しても、怪我をすることもないだろう。
西浦高校へ来るまでは、ほとんど友人もいなかった三橋なのだ。
楽しい思い出が出来れば、それもいいだろう。
阿部は渋い顔をしながらも、介入しないことに決めた。

どうやら雪合戦をすることになったらしい。
田島と泉が足元の雪を掬い、雪玉を投げ合っている。
相変わらず同じ位置に立っている三橋に、田島が何かを言った。
次の瞬間、田島に気を取られたらしい三橋の顔面に、泉が放った雪玉が弾けた。
いくら正面から当たったにしろ、たかが雪玉。誰もがそう思った。
だが三橋はその場にパタリと倒れて、そのまま起き上がってこない。
阿部はそのまま教室を飛び出し、階段を駆け下りた。
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