恋する誕生日

ダメかぁ。。。
野球部マネージャーの篠岡千代は、大きく1つため息をついた。

野球部員のパーソナルデータは全て把握している篠岡だ。
そして頑張っている部員たちの誕生日を祝うのは、この上なく嬉しいこと。
ましてや今日12月11日は捕手である阿部隆也の誕生日だ。
皆に気を使わせたり雰囲気を悪くするのが嫌で、懸命に隠している阿部への恋心。
この先も告白するつもりなどないが、せめて誕生日に「おめでとう」と言いたい。
だからずっと阿部にさりげなく近づくタイミングを計っていた。

だが今日は阿部の隣にはずっと三橋が陣取っている。
朝練のときには投球のことで、何かしきりに阿部に話しかけていた。
その上休み時間の度に、数学を教えてくれと阿部の席までやって来る。
昼は9組のメンバーが、教室に押し寄せて来て阿部を連れ出した。
勉強を教えてくれたお礼がしたいと言う三橋に、田島と泉が便乗したらしい。
では放課後!と思っていたら、今度は三橋の体調が悪くなったらしい。
阿部は相変わらずの過保護っぷりで、三橋にかかりっきりだ。

やっぱりマネージャーと部員って少し距離があるなぁ。
篠岡は少し寂しく思う。
実際のプレーヤーではないし、性別も違う。
部員同士の話でも、話題によっては入れないものも少なくない。
越えられない壁に、切ない思いをしたのは今が初めてではない。

まぁいいか。阿部に「おめでとう」と言えないのは残念だけど。
甲子園を目指すみんなを支えたい。それが願いなのだから。
三橋に向かって何やら怒っている阿部を見ながら、篠岡は諦めたように苦笑した。
1/3ページ