あの雨の日に
朝は小雨だったのに、夕方には大雨になった。
三橋廉は、誰もいないマウンドに1人で立っていた。
傘も差さずに、ぼんやりと空を見上げている。
雨はいい。頬を伝う涙も、溶けて流れていくから。
三橋は濡れるのもかまわず、ただただ雨に打たれていた。
雨のせいで、練習内容が大きく変更になった。
強豪校の試合のビデオを百枝の解説付きで見た。
その後簡単なストレッチと室内トレーニングで今日は終了だ。
解散!という掛け声とともに部員たちは帰り支度を始める。
「なぁ、誰か三橋どこ行ったか知らねぇ?」
阿部隆也は着替えている部員たちに、声を掛けた。
え?いねぇの?そう言えばいねぇな。
部員たちが答える声が返ってくる。
あのヤロー、どこ行きやがったとブツブツ呟く阿部を見て、部員たちは苦笑した。
天然系でどこか抜けてる三橋とその世話を焼く阿部。
この部ではすっかりお馴染みになった2人の掛け合いだ。
「どこ行ったかわかんねぇけど、戻ってくるよ。」
キャプテンである花井が、阿部に返事を寄越した。
最後に戸締りするから、鍵を置いといてくれって言ってたもん。
その言葉に阿部は三橋のロッカーに視線を向けた。
なるほど、三橋の鞄はまだ部室にある。
仕方ねぇ、待ってるか。阿部はため息をついた。
阿部は三橋の雨の日の行動が、少し妙なことに気がついていた。
どんなに雨が降ろうと、傘を持ってこないのだ。
どうやら登校する時には、親に車で送ってもらっているらしい。
でも下校時は、雨に濡れながら帰っていくのだ。
季節は春から初夏へ変わろうとしていたが、雨の日はやはりまだ肌寒い。
身体を、そして肩を冷やすのはよくない。特に三橋は投手なのだから。
阿部は再三にわたって注意した。雨の日は傘を持って来い。
忘れてしまうなら、天気に関わらず折り畳み傘を鞄に入れておけ、と。
なぜ小さな子供に言うような注意を、同い年のヤツにしなくてはならない。
そんな馬鹿馬鹿しさを感じながら、雨の日には注意を続けた。
でも三橋は一向に傘を持ってこようとしなかった。
今三橋が姿をくらませたのは、多分阿部から逃れるためだ。
こんな大雨の日に傘がないことを知ったら、阿部は激怒する。
だから部室が空になるのを待って、どこかで時間をつぶしているのだ。
姑息な手を使いやがって。
そっちがその気なら、いくらでも待ってやる。
今日という今日は、ガツンと怒鳴ってやる。
阿部が三橋をガツンと怒鳴るのは、別に今日に限ったことではないのだが。
残念ながらそれを突っ込む他の部員たちが帰ってしまい、部室は阿部1人だけだ。
あいつはどこに行ったんだ。
雨の勢いはますます強くなっているが、三橋は戻らない。
待ちくたびれた阿部は、三橋の携帯にメールを送った。
でもメールの着信音は、すぐ近くの三橋のロッカーから聞こえてきた。
つまり携帯もここに置きっぱなしというわけだ。
まったく、あいつは。
大きくため息をついた阿部は、三橋を捜しに出ることにした。
時間がたつにつれて、阿部は心配になってきた。
校内を捜し歩いても、三橋が見つからないからだ。
三橋の性格からして、上級生の教室などには行かないはずだ。
1年生の教室や、移動教室でいく場所などを見たが、見当たらない。
最後の心当たりは、1箇所だけだ。
まさか。この雨なのに。
阿部は胸騒ぎを感じて、駆け出した。
校舎を出て、野球部の練習場に向かう。
三橋はきっと1人で泣きながら、雨に濡れている。
そう思うだけで、じりじりと急かされるような気分になる。
なぜこんなに焦るのだか、自分でもわからない。
早く行かなければ、三橋が壊れてしまうような気がする。
掬い上げてやらなければ、二度と這い上がれない場所へ落ちてしまう気がする。
三橋廉は、誰もいないマウンドに1人で立っていた。
傘も差さずに、ぼんやりと空を見上げている。
雨はいい。頬を伝う涙も、溶けて流れていくから。
三橋は濡れるのもかまわず、ただただ雨に打たれていた。
雨のせいで、練習内容が大きく変更になった。
強豪校の試合のビデオを百枝の解説付きで見た。
その後簡単なストレッチと室内トレーニングで今日は終了だ。
解散!という掛け声とともに部員たちは帰り支度を始める。
「なぁ、誰か三橋どこ行ったか知らねぇ?」
阿部隆也は着替えている部員たちに、声を掛けた。
え?いねぇの?そう言えばいねぇな。
部員たちが答える声が返ってくる。
あのヤロー、どこ行きやがったとブツブツ呟く阿部を見て、部員たちは苦笑した。
天然系でどこか抜けてる三橋とその世話を焼く阿部。
この部ではすっかりお馴染みになった2人の掛け合いだ。
「どこ行ったかわかんねぇけど、戻ってくるよ。」
キャプテンである花井が、阿部に返事を寄越した。
最後に戸締りするから、鍵を置いといてくれって言ってたもん。
その言葉に阿部は三橋のロッカーに視線を向けた。
なるほど、三橋の鞄はまだ部室にある。
仕方ねぇ、待ってるか。阿部はため息をついた。
阿部は三橋の雨の日の行動が、少し妙なことに気がついていた。
どんなに雨が降ろうと、傘を持ってこないのだ。
どうやら登校する時には、親に車で送ってもらっているらしい。
でも下校時は、雨に濡れながら帰っていくのだ。
季節は春から初夏へ変わろうとしていたが、雨の日はやはりまだ肌寒い。
身体を、そして肩を冷やすのはよくない。特に三橋は投手なのだから。
阿部は再三にわたって注意した。雨の日は傘を持って来い。
忘れてしまうなら、天気に関わらず折り畳み傘を鞄に入れておけ、と。
なぜ小さな子供に言うような注意を、同い年のヤツにしなくてはならない。
そんな馬鹿馬鹿しさを感じながら、雨の日には注意を続けた。
でも三橋は一向に傘を持ってこようとしなかった。
今三橋が姿をくらませたのは、多分阿部から逃れるためだ。
こんな大雨の日に傘がないことを知ったら、阿部は激怒する。
だから部室が空になるのを待って、どこかで時間をつぶしているのだ。
姑息な手を使いやがって。
そっちがその気なら、いくらでも待ってやる。
今日という今日は、ガツンと怒鳴ってやる。
阿部が三橋をガツンと怒鳴るのは、別に今日に限ったことではないのだが。
残念ながらそれを突っ込む他の部員たちが帰ってしまい、部室は阿部1人だけだ。
あいつはどこに行ったんだ。
雨の勢いはますます強くなっているが、三橋は戻らない。
待ちくたびれた阿部は、三橋の携帯にメールを送った。
でもメールの着信音は、すぐ近くの三橋のロッカーから聞こえてきた。
つまり携帯もここに置きっぱなしというわけだ。
まったく、あいつは。
大きくため息をついた阿部は、三橋を捜しに出ることにした。
時間がたつにつれて、阿部は心配になってきた。
校内を捜し歩いても、三橋が見つからないからだ。
三橋の性格からして、上級生の教室などには行かないはずだ。
1年生の教室や、移動教室でいく場所などを見たが、見当たらない。
最後の心当たりは、1箇所だけだ。
まさか。この雨なのに。
阿部は胸騒ぎを感じて、駆け出した。
校舎を出て、野球部の練習場に向かう。
三橋はきっと1人で泣きながら、雨に濡れている。
そう思うだけで、じりじりと急かされるような気分になる。
なぜこんなに焦るのだか、自分でもわからない。
早く行かなければ、三橋が壊れてしまうような気がする。
掬い上げてやらなければ、二度と這い上がれない場所へ落ちてしまう気がする。
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