第9話「模擬戦」

「おおぉぉ~!」
細身のセナから、信じられないような声が出た。
次の瞬間には郁と手塚の腕は空を切り、置いてきぼりにされていた。

合同訓練もいよいよ終盤。
残すところはあと2日となった。
後半に入ってからは、泥門デビルバッツと図書特殊部隊は何度も模擬戦を行なった。
数名ずつでチームを組み、背嚢を奪い合う。
アメフトの試合にも、検閲抗争にも見立てられるゲーム形式のバトルだ。

そしてこの模擬戦は、堂上班対セナ、モン太、小結、十文字組の戦いになった。
セナが本に見立てた紙束を入れた背嚢を持ち、フィールドを走り出す。
モン太がセナのフォローのために追走するが、あまりの速さに追いつけない。
ガード役の小結と十文字を、堂上と小牧が押さえた。
郁と手塚は顔を見合わせて頷き合うと、セナを潰しにかかった。

2対1なら、楽勝だ。
郁も手塚もそう思った。
いくらセナが瞬足でも、郁だって速い。
郁が進路をふさぐ形にして誘導し、方向を変えたところで手塚がセナを押さえる。
そういう作戦で、挑んだのだが。

まず郁がセナの走路をふさいだところで、セナが「おおぉぉ~!」と声を上げた。
そしてセナに飛び掛かる勢いの郁に手を伸ばし、手首と肩を接触させる。
さらに弾いた加速で勢いよく回転して方向転換すると、減速することなくゴールラインへ走った。
手塚は速度こそ落ちていないものの、予想通りのルートを取ったセナを捕まえようと待ち構える。
するとセナは手を伸ばした手塚の前で、勢いよく上に飛んだ。
そしてそのまま手塚を飛び越えると、悠々とゴールへ飛び込んだのだった。

「うっそぉ!何、あのスピン。しかも手塚を飛び越えた!」
郁は体勢を崩した勢いで座り込んだまま、呆然とする。
手塚もまた言葉もなく、セナを見た。
そのセナにモン太が「ハリケーンとダイブはこの合宿中は使わないんじゃなかったのか?」と聞いていた。

郁を交わしたターンと、手塚を飛び越えたジャンプ。
それがデビルライトハリケーンとデビルバットダイブだ。
その前に郁の身体を弾いたデビルスタンガンを含めて、アイシールド21の技だった。

「うん。合宿中はカットとステップだけにするつもりだったんだけど、つい」
セナは困ったように笑う。
それを聞いた手塚の顔は引き攣り、郁は「まだ隠し弾があったのか~!」と声を上げた。
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