第8話「偏見」

こいつ、これで高校生か。
堂上と小牧は思わず顔を見合わせる。
彼の語る内容は合理的かつ実用的、つまり非の打ちどころがまったくなかったのだ。

合同練習も折り返し、後半に差しかかった。
そしてこの日の午前中は、身体を動かす訓練ではない。
講義形式の説明会、図書隊でいうところの座学だ。

「あ~、絶対寝ちゃう!疲れが溜まってきてるっていうのに!」
「だったら朝から、腹一杯ガッツリ食うな。」
「なにおぅ~!?」
「本当のことだろうが」

郁は単純に、身体を動かす訓練でないことが不満なようだ。
すかさずチェックを入れたのは手塚である。
その指摘は最もなものだった。
ここで説明会が開催されるのは、事前にわかっていたはずだ。
疲れていて寝る自信があるなら、飯をどんぶりでおかわりなどしない方がいい。

だが郁の眠気などおかまいなしに、説明会は始まった。
講師役は図書隊員ではなく、泥門デビルバッツのヒル魔だ。
いつも「ケケケ」と高笑いし、練習のときにエアガンで部員を追い回したりしている男。
逆立てた金髪とピアスは、高校生ながら威圧感たっぷりだ。

「まずはアメフトのフォーメーションについて」
ヒル魔は挨拶も前置きもなく、いきなり本題に入った。
そしてアメフトの代表的なフォーメーションについて、淡々と説明していく。
限られた人数で、どうやって相手の陣地に攻め入るか。
または攻めてくる敵を、いかに防ぎ切るか。
ヒル魔の説明は、アメフトのルールを知らない図書隊員にもわかりやすかった。

「次に1対1、または1対複数での突破について」
フォーメーションの後は、個人の動きについて説明した。
相手の目線や呼吸、または重心の移動を察知して先回りする。
つまり捕まえようとする相手を躱すノウハウだ。

こいつ、これで高校生か。
堂上と小牧は思わず顔を見合わせる。
ヒル魔の語る内容は合理的かつ実用的だった。
抗争で銃火器の使用が禁止された今、図書隊でも利用できそうな手段がてんこ盛りだ。
いやむしろ図書隊が使えそうなネタをピックアップしてまとめたのだろう。

「すごぉ~い!わかりやすい!」
結局最後まで眠らなかった郁が、終わるなり声を上げた。
ヒル魔は淡々と説明するのではなく、それなりにメリハリが利いていた。
郁はすっかり夢中になり、眠気を感じる暇がなかったのである。

「彼みたいな人が図書隊にいれば、抗争のときも心強いですよね!」
郁はカラカラと笑いながら、そう言った。
だがその言葉に同意しながら、釈然としない思いだった者もいたのである。
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