第6話「郁さん」
「堂上さんは、教え方が上手いですね。」
セナがタオルで汗を拭きながら、声をかけてきた。
スポーツドリンクで水分補給をしていた郁は、咄嗟に反応できなかった。
合同訓練2日目。
せっかくだから、お互いにないものを吸収し合おうということになった。
そこで郁は泥門デビルバッツのランニングバックの練習に加わった。
セナと1年生2人、郁も入れれば4人での練習になる。
まずは郁が走りの基本を教えることになった。
セナも1年生2人も、足は速い。
だが走りに関しては、完全に我流だ。
だからまず基本に立ち返って、走りの基礎を教えてもらおうということになったのだ。
ここはかつてインハイやインカレで活躍した郁の出番という訳である。
「基本的には、みんな前かがみ過ぎるかなぁ」
それがパッと見たところの第一印象だった。
アメフトでは相手チームのラインマンたちを躱すためには、どうしても身体を屈める必要がある。
だから通常の走りでも、身を低くする癖がついているようだ。
「まずはみんな、仰向けに寝て!」
郁は3人を仰向けに横たわらせる。
そして「それが一番無理なく走る時の基本姿勢だよ」と言う。
背中がまっすぐ伸びた状態だ。
セナたちにとってはこんなに後ろに逸らせていいのかと思うが、郁はその方がいいと請け合った。
「後は。。。アメフトの人は両腕が触れないんだよね。」
郁はそう言いながら、今度は1人1人の走りを細かくチェックした。
身長や足の長さから、それぞれの理想の歩幅が割り出せる。
そこからさらに細かくフォームを修正した。
さらに高校生の彼らは、まだ体幹がしっかりしていない。
それを指摘して、体幹を鍛えるトレーニングをいくつか指導した。
そんなことで早くなるのかとセナたちは、半信半疑だった。
だが実際に2時間程の練習の後にタイムを取ると、全員自己最速を更新していた。
特に1年生2人のタイムは、はっきりと良くなっている。
ここで一度、休憩を入れることになった。
「堂上さんは、教え方が上手いですね。」
セナがタオルで汗を拭きながら、声をかけてきた。
だがスポーツドリンクで水分補給をしていた郁は、咄嗟に反応できなかった。
特殊部隊では夫と区別するために、旧姓呼びなのだ。
堂上と呼ばれるときにはだいたい階級付けであり「堂上さん」などと呼ばれることはほぼない。
「あ~ごめん。堂上さんって呼ばれても反応できなくて」
「じゃあ、なんて呼べばいいですか?」
セナに問い返されて、郁は一瞬答えに詰まった。
呼ばれ慣れた旧姓でもいいのだが、結婚後に知り合った人に「笠原」と呼ばれるのも妙な気がする。
「それじゃ下の名前。郁でいいや。」
郁は何気なくそう答えた。
セナは笑顔で「わかりました。郁さん」と答える。
だがこれが後にちょっとした問題を引き起こすことになるのだが、セナも郁も知る由もなかった。
セナがタオルで汗を拭きながら、声をかけてきた。
スポーツドリンクで水分補給をしていた郁は、咄嗟に反応できなかった。
合同訓練2日目。
せっかくだから、お互いにないものを吸収し合おうということになった。
そこで郁は泥門デビルバッツのランニングバックの練習に加わった。
セナと1年生2人、郁も入れれば4人での練習になる。
まずは郁が走りの基本を教えることになった。
セナも1年生2人も、足は速い。
だが走りに関しては、完全に我流だ。
だからまず基本に立ち返って、走りの基礎を教えてもらおうということになったのだ。
ここはかつてインハイやインカレで活躍した郁の出番という訳である。
「基本的には、みんな前かがみ過ぎるかなぁ」
それがパッと見たところの第一印象だった。
アメフトでは相手チームのラインマンたちを躱すためには、どうしても身体を屈める必要がある。
だから通常の走りでも、身を低くする癖がついているようだ。
「まずはみんな、仰向けに寝て!」
郁は3人を仰向けに横たわらせる。
そして「それが一番無理なく走る時の基本姿勢だよ」と言う。
背中がまっすぐ伸びた状態だ。
セナたちにとってはこんなに後ろに逸らせていいのかと思うが、郁はその方がいいと請け合った。
「後は。。。アメフトの人は両腕が触れないんだよね。」
郁はそう言いながら、今度は1人1人の走りを細かくチェックした。
身長や足の長さから、それぞれの理想の歩幅が割り出せる。
そこからさらに細かくフォームを修正した。
さらに高校生の彼らは、まだ体幹がしっかりしていない。
それを指摘して、体幹を鍛えるトレーニングをいくつか指導した。
そんなことで早くなるのかとセナたちは、半信半疑だった。
だが実際に2時間程の練習の後にタイムを取ると、全員自己最速を更新していた。
特に1年生2人のタイムは、はっきりと良くなっている。
ここで一度、休憩を入れることになった。
「堂上さんは、教え方が上手いですね。」
セナがタオルで汗を拭きながら、声をかけてきた。
だがスポーツドリンクで水分補給をしていた郁は、咄嗟に反応できなかった。
特殊部隊では夫と区別するために、旧姓呼びなのだ。
堂上と呼ばれるときにはだいたい階級付けであり「堂上さん」などと呼ばれることはほぼない。
「あ~ごめん。堂上さんって呼ばれても反応できなくて」
「じゃあ、なんて呼べばいいですか?」
セナに問い返されて、郁は一瞬答えに詰まった。
呼ばれ慣れた旧姓でもいいのだが、結婚後に知り合った人に「笠原」と呼ばれるのも妙な気がする。
「それじゃ下の名前。郁でいいや。」
郁は何気なくそう答えた。
セナは笑顔で「わかりました。郁さん」と答える。
だがこれが後にちょっとした問題を引き起こすことになるのだが、セナも郁も知る由もなかった。
1/3ページ