第9話「撤収」
ランニングバックvsクライマー。
セナと坂道の変則勝負は、まさかの計測不能という結果で、引き分けに終わった。
もう1度やるかという話も出たが、2人とも「無理です!」と即答した。
1分にも満たない短いレースだったが、何だか妙に疲れたというのが2人の感想だ。
いつもと勝手が違う上に、双方の部員たちが異様に盛り上がり、テンションが上がり過ぎたせいだろう。
それにあえて決着をつけない方がいいような気もした。
泥門も総北も、これから大一番の勝負をひかえているのだ。
どちらかが負けとなると、ケチがつくのは間違いない。
そしてセナと坂道が背負う称号、アイシールド21、そして山王。
2人とも時代を代表する選手なのだ。
あえてどちらかを勝ちとするのは、2人のギリギリの戦いを見た後では無粋な気がした。
かくして勝負は引き分けのまま終わった。
合宿の日程も全て終わりだ。
両校の部員たちは携帯を取り出し、番号やアドレスを交換する。
そして撤収開始、練習に使った機材などを車に積み込み始めた。
忙しく動く部員たちをよそに、セナと坂道は食堂のテーブルに座って談笑していた。
勝負の御褒美に、雑用作業が免除になったのだ。
セナも坂道も謙虚な性格であるので、少々申し訳ない気はしている。
だがここは部員たちの厚意に甘えることにした。
もうあと少しでお別れなのだ。
また一緒に合宿をしようと約束はしたが、いつになるかはわからない。
顔を合わせていられる今、もう少し喋りたかった。
あんなとこ、自転車で登れるの!?
坂道たちのインターハイの話になり、セナは感嘆の声を上げた。
今年のインターハイのコースは、日光のいろは坂。
セナは子供の頃、家族旅行で行ったことがあったのだ。
細かいコースは覚えていないが、やたらくねくねと車で登った覚えがある。
去年のコースは箱根だったんだけど、それ以上に坂が多いんだって!
だから嬉しいんだ。
ボク、坂を登るのが大好きだから。
坂道が嬉しそうに破顔する。
セナは「なんたって名前が坂道君だもんねぇ」と苦笑する。
かくいうセナの名前もかつて「音速の貴公子」という異名を持つF1レーサーと同じ名前だ。
セナはそれを坂道に告げ「お互い得意分野にちなんだ名前でよかったね~」と笑った。
よぉ、糞チビと糞メガネ。
2人で他愛もない話を楽しんでいると、ヒル魔が割り込んできた。
坂道は「ファ、ファッキン?」と首を傾げる。
セナは「アメフト関係者じゃない人に、その呼び方はダメですよ」と諭した。
ヒル魔の呼び方は独特だ。
誰のことも「糞(ファッキン)」を頭に付けて、呼ぶ。
坂道のことも、初対面から「糞メガネ」だ。
泥門の面々が誰も驚かないところを見ると、それが彼のスタンスなのだろう。
ちなみに手嶋は「糞パーマ」で、青八木は「糞無口」。
今泉が「糞気取り屋」で鳴子は「糞赤チビ」。
よくよく聞いてみると「糞(ファッキン)」を除けば、鳴子がつけるネーミングとあまり変わらない。
つまりこの短い間に、総北メンバーの特徴を的確に捕えているのだ。
だがセナと2人きりのときに「セナ」と呼んでいるのを聞いた。
坂道はその甘い声に、くすぐったくも羨ましい気分になったのだ。
巻島センパイにあんな風に名前を呼ばれたら、嬉しいだろうな。
甘酸っぱい想像に、坂道はニヤニヤしてしまったものだ。
糞(ファッキン)っていうのは、英語のスラングなんだ。
日本だとよく「チクショウ!」とか、悪態をつくでしょう?そんな意味。
この人、センパイだろうと、敵チームであろうと、それを頭に付けてあだ名をつけちゃうんだよ。
セナが苦笑しながら、解説してくれる。
坂道は「そうなんだ」と、答えながらヒル魔を見た。
よくよく見れば別人だとわかるのに、やはり巻島と重ねてしまう。
坂道はこっそりとため息をつきながら、甘えちゃダメだと気を引き締めた。
さっきの勝負。やっぱりよくよく考えりゃテメーの勝ちだよな。糞メガネ。
ヒル魔はグイと坂道に顔を寄せると、そう言った。
坂道は「えええ~!?」と驚きの声を上げる。
話の内容ではなく、顔が近いことに驚いたのだ。
そして至近距離で見るヒル魔の顔が、すごく整っていることにも。
そうだろうが。糞チビはセンサーを落として、計測不能。
つまり悪いのは、テメーだ。糞チビ。
ヒル魔は今度はセナに顔を寄せた。
セナは坂道と違い慣れているので、今さら声を上げることはない。
だがガックリと肩を落として「やっぱり走って帰れってことですか~?」と情けない声を上げた。
あの勝負の前に、ヒル魔はセナに負けたらここから走って帰れと言っていたのだ。
去年のデスマーチに比べたら、はるかにマシだろ。
ヒル魔の言葉に、セナが「まぁそうですけど」とあっさり答える。
去年?デスマーチ?この人たち、いったい去年は何をやったんだ?
首を傾げる坂道に、再び蛭魔が向き直った。
まぁ走って帰るのもかわいそうだからな。
代わりに、テメーに優勝商品をやるぞ。糞メガネ。
ヒル魔がそう告げると、ポケットからスマホを取り出して、何やら操作する。
すると坂道の携帯電話がメールを受信した。
坂道が携帯電話を取り出して、確認して。。。「うわぁぁぁ!!」と声を上げた。
差出人不明のアドレスから届いたメールに、添付された画像。
それは巻島だった。
どう見ても日本ではないような風景の中、自転車用のジャージに身を包み、立っている。
その傍らに置いてある自転車は「タイム」坂道にも見覚えがある巻島の愛車だ。
ヒル魔のドヤ顔を見る限り、彼が送ってきたのは間違いないようだ。
いったい、どうして、どうやって。
そもそもボ、ボクのアドレスはどうして。。。
混乱する坂道に、ヒル魔は「褒美だ」と笑って、去っていく。
セナは呆れたようにため息をつくと「こうやって人を驚かせるのが大好きな人なんだ」と告げた。
これが巻島さん。確かにインパクトあるビジュアルだね。
セナは坂道の携帯電話を覗き込みながら、率直な感想を述べた。
だが坂道はまだ添付画像の衝撃から立ち直っておらず「どうして、こんなこと」とオロオロしていた。
セナと坂道の変則勝負は、まさかの計測不能という結果で、引き分けに終わった。
もう1度やるかという話も出たが、2人とも「無理です!」と即答した。
1分にも満たない短いレースだったが、何だか妙に疲れたというのが2人の感想だ。
いつもと勝手が違う上に、双方の部員たちが異様に盛り上がり、テンションが上がり過ぎたせいだろう。
それにあえて決着をつけない方がいいような気もした。
泥門も総北も、これから大一番の勝負をひかえているのだ。
どちらかが負けとなると、ケチがつくのは間違いない。
そしてセナと坂道が背負う称号、アイシールド21、そして山王。
2人とも時代を代表する選手なのだ。
あえてどちらかを勝ちとするのは、2人のギリギリの戦いを見た後では無粋な気がした。
かくして勝負は引き分けのまま終わった。
合宿の日程も全て終わりだ。
両校の部員たちは携帯を取り出し、番号やアドレスを交換する。
そして撤収開始、練習に使った機材などを車に積み込み始めた。
忙しく動く部員たちをよそに、セナと坂道は食堂のテーブルに座って談笑していた。
勝負の御褒美に、雑用作業が免除になったのだ。
セナも坂道も謙虚な性格であるので、少々申し訳ない気はしている。
だがここは部員たちの厚意に甘えることにした。
もうあと少しでお別れなのだ。
また一緒に合宿をしようと約束はしたが、いつになるかはわからない。
顔を合わせていられる今、もう少し喋りたかった。
あんなとこ、自転車で登れるの!?
坂道たちのインターハイの話になり、セナは感嘆の声を上げた。
今年のインターハイのコースは、日光のいろは坂。
セナは子供の頃、家族旅行で行ったことがあったのだ。
細かいコースは覚えていないが、やたらくねくねと車で登った覚えがある。
去年のコースは箱根だったんだけど、それ以上に坂が多いんだって!
だから嬉しいんだ。
ボク、坂を登るのが大好きだから。
坂道が嬉しそうに破顔する。
セナは「なんたって名前が坂道君だもんねぇ」と苦笑する。
かくいうセナの名前もかつて「音速の貴公子」という異名を持つF1レーサーと同じ名前だ。
セナはそれを坂道に告げ「お互い得意分野にちなんだ名前でよかったね~」と笑った。
よぉ、糞チビと糞メガネ。
2人で他愛もない話を楽しんでいると、ヒル魔が割り込んできた。
坂道は「ファ、ファッキン?」と首を傾げる。
セナは「アメフト関係者じゃない人に、その呼び方はダメですよ」と諭した。
ヒル魔の呼び方は独特だ。
誰のことも「糞(ファッキン)」を頭に付けて、呼ぶ。
坂道のことも、初対面から「糞メガネ」だ。
泥門の面々が誰も驚かないところを見ると、それが彼のスタンスなのだろう。
ちなみに手嶋は「糞パーマ」で、青八木は「糞無口」。
今泉が「糞気取り屋」で鳴子は「糞赤チビ」。
よくよく聞いてみると「糞(ファッキン)」を除けば、鳴子がつけるネーミングとあまり変わらない。
つまりこの短い間に、総北メンバーの特徴を的確に捕えているのだ。
だがセナと2人きりのときに「セナ」と呼んでいるのを聞いた。
坂道はその甘い声に、くすぐったくも羨ましい気分になったのだ。
巻島センパイにあんな風に名前を呼ばれたら、嬉しいだろうな。
甘酸っぱい想像に、坂道はニヤニヤしてしまったものだ。
糞(ファッキン)っていうのは、英語のスラングなんだ。
日本だとよく「チクショウ!」とか、悪態をつくでしょう?そんな意味。
この人、センパイだろうと、敵チームであろうと、それを頭に付けてあだ名をつけちゃうんだよ。
セナが苦笑しながら、解説してくれる。
坂道は「そうなんだ」と、答えながらヒル魔を見た。
よくよく見れば別人だとわかるのに、やはり巻島と重ねてしまう。
坂道はこっそりとため息をつきながら、甘えちゃダメだと気を引き締めた。
さっきの勝負。やっぱりよくよく考えりゃテメーの勝ちだよな。糞メガネ。
ヒル魔はグイと坂道に顔を寄せると、そう言った。
坂道は「えええ~!?」と驚きの声を上げる。
話の内容ではなく、顔が近いことに驚いたのだ。
そして至近距離で見るヒル魔の顔が、すごく整っていることにも。
そうだろうが。糞チビはセンサーを落として、計測不能。
つまり悪いのは、テメーだ。糞チビ。
ヒル魔は今度はセナに顔を寄せた。
セナは坂道と違い慣れているので、今さら声を上げることはない。
だがガックリと肩を落として「やっぱり走って帰れってことですか~?」と情けない声を上げた。
あの勝負の前に、ヒル魔はセナに負けたらここから走って帰れと言っていたのだ。
去年のデスマーチに比べたら、はるかにマシだろ。
ヒル魔の言葉に、セナが「まぁそうですけど」とあっさり答える。
去年?デスマーチ?この人たち、いったい去年は何をやったんだ?
首を傾げる坂道に、再び蛭魔が向き直った。
まぁ走って帰るのもかわいそうだからな。
代わりに、テメーに優勝商品をやるぞ。糞メガネ。
ヒル魔がそう告げると、ポケットからスマホを取り出して、何やら操作する。
すると坂道の携帯電話がメールを受信した。
坂道が携帯電話を取り出して、確認して。。。「うわぁぁぁ!!」と声を上げた。
差出人不明のアドレスから届いたメールに、添付された画像。
それは巻島だった。
どう見ても日本ではないような風景の中、自転車用のジャージに身を包み、立っている。
その傍らに置いてある自転車は「タイム」坂道にも見覚えがある巻島の愛車だ。
ヒル魔のドヤ顔を見る限り、彼が送ってきたのは間違いないようだ。
いったい、どうして、どうやって。
そもそもボ、ボクのアドレスはどうして。。。
混乱する坂道に、ヒル魔は「褒美だ」と笑って、去っていく。
セナは呆れたようにため息をつくと「こうやって人を驚かせるのが大好きな人なんだ」と告げた。
これが巻島さん。確かにインパクトあるビジュアルだね。
セナは坂道の携帯電話を覗き込みながら、率直な感想を述べた。
だが坂道はまだ添付画像の衝撃から立ち直っておらず「どうして、こんなこと」とオロオロしていた。
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