第7話「山王 vs アイシールド21」
そんな都合よく、行くもんか。
期せずして、ほぼ全員の心の声が見事にハモった。
泥門高校アメフト部と総北高校自転車競技部の合宿は、今日が最終日だ。
両校とも昨日のうちに、日程は終了している。
最終日はそれぞれ、自分の学校に戻る移動がメインだ。
午前中、軽く流す程度の練習をした後、午後に機材を積み込み、それぞれの学校に戻る。
練習の最後、泥門と総北はレースをすることになった。
そもそも種目は違うのだから、いわば異種格闘技だ。
所詮お遊びであるし、勝ったところで、もしくは負けたところで何もない。
それでも勝負事となれば熱くなるのは、高校生とはいえアスリートの性ともいえる。
両校とも異常な盛り上がりを見せていた。
そのルールを決めたのは、もちろんヒル魔である。
いいか、勝負はタイムレースだ。
でもまぁ同じ距離を走れば、自転車の方が早いのは間違いない。
だからスタート地点の位置を変える。
朝、一同が集まった食堂で、ヒル魔は両校の部員たちを前に話している。
全員がやる気満々で頷くのを見て、満足そうに「ケケケ」と笑った。
そして意気揚々と、ルールの説明に移った。
まず泥門の選手は、ゴール地点からスタートする。
100ヤード、つまり91.4メートル走ったところで折り返して、ゴール地点に戻る。
イメージはインターセプトだ。
敵陣から自陣のゴールラインまで一気に走ったところで攻守交替、もう1度敵陣に向かって走ってタッチダウンってとこか。
40ヤードを4秒2で走れれば、理論上は21秒で往復できる。
そんな都合よく、行くもんか。
泥門高校の全員が、そう思った。
40ヤード4秒2はNFLでもトップクラスの数字だ。
そもそもそのペースで200ヤード走り抜けるなんて、不可能だ。
だがヒル魔は素知らぬ顔で説明を続けた。
総北の選手は、ゴールから500メートル先からスタートだ。
自転車レースのトップスピードは、時速70キロ。
これを計算すれば、理論上は約25秒でゴールできる。
泥門の21秒と4秒の誤差はあるが、泥門は半分のところで折り返すからそこで減速する。
それを考えれば、まぁまぁトントンじゃねーか?
そんな都合よく、行くもんか。
今度は総北高校の全員が、そう思った。
時速70キロなんて、プロ選手の最後のゴールスプリント、しかも平坦な道で出すタイムだ。
どこをスタート地点にするかによって変わるが、アップダウンのあるこのサーキットでキープするのは無理だ。
で、誰がやる?
ヒル魔が全員を見回しながら、挑発するようにそう言った。
すると泥門側は間髪入れず、ほぼ全員が「「「セナ(先輩)!」」」と答えた。
セナは「あ~、そうなりますよね」とガックリと肩を落とした。
ポジション的に、走るのに特化したセナが出ずしてどうなるという感じだ。
総北はどうする?
ヒル魔が促すと、手嶋が「スタート位置は?」と聞いた。
泥門と比べれば、総北は全員が走るポジションではある。
だが5キロサーキットはとにかく登りと下りが交互にやってくるのだ。
走る場所によって、スプリンターとクライマー、どちらが有利か変わってくる。
ヒル魔はニヤリと笑うと「ここだ」と指さす。
壁に張られたコース図で、ヒル魔が指し示したのはコース内にある電光掲示板の前だった。
それを見た手嶋が「なるほど」と笑う。
そこからしばらくは200メートルほど緩やかに下った後、残りは上りだ。
泥門側は坂を下った後、折り返して、今下った坂を上っていくことになる。
小野田、行け。
手嶋は坂道を見ながら、そう言った。
坂道は「え?手嶋さんか今泉君じゃないんですか!?」と叫んだ声が裏返る。
主将かエースが出るものと思っていた坂道にとっては、まったくの予想外だったのだ。
お前、インターハイの昨年度個人総合優勝だろうが。
そいつを出さないで、誰を出すってんだ。
手嶋が呆れた声を上げると、青八木と古賀も頷く。
鳴子が「絶対に負けたらアカンで!」と、今泉が「勝て!」と坂道の背中を叩いた。
感極まった坂道が「はい!頑張ります!」と声を張った。
どうでもいいけど、うちはああいう激励、ないのかなぁ。
檄を飛ばされる坂道を横目に見ながら、セナはポツリと愚痴った。
するとヒル魔がセナの肩を叩き、ニンマリと笑った。
テメーはエースで主将なんだ。
ここで負けたらチームの士気にかかわる。
もしも負けたら、テメーだけ走って東京に帰らせるからな!
あんまりな宣告に、セナは「そんなぁぁ」と情けない声を上げた。
しかもこの男はやると言ったら、本気でやるのだ。
案の定というべきか。
なんなら石蹴りしながら戻るか?と笑っている。
1人デスマーチをやれと!?
セナは一瞬で真っ青になった。
だがそれがヒル魔なりのスパルタな愛情なのだ。
できると信じているから、無茶振りする。
そうやってセナは、初代デビルバッツは強くなった。
だったら今回だって、期待に応えるまでだ。
坂道君、よろしく。
何だか変なことになっちゃったけど、お互いにベストを尽くして戦おう!
セナが手を差し出すと、坂道が握り返す。
試合前(?)の握手も終わり、この後いよいよレーススタートだ。
セナは気付かなかった。
負けた時のペナルティを言い渡され悲鳴を上げるセナを、ヒル魔がほんの一瞬だけ優しい目で見ていたこと。
そしてそのヒル魔の表情に気付き、坂道が少しだけ寂しそうな顔をしたことも。
期せずして、ほぼ全員の心の声が見事にハモった。
泥門高校アメフト部と総北高校自転車競技部の合宿は、今日が最終日だ。
両校とも昨日のうちに、日程は終了している。
最終日はそれぞれ、自分の学校に戻る移動がメインだ。
午前中、軽く流す程度の練習をした後、午後に機材を積み込み、それぞれの学校に戻る。
練習の最後、泥門と総北はレースをすることになった。
そもそも種目は違うのだから、いわば異種格闘技だ。
所詮お遊びであるし、勝ったところで、もしくは負けたところで何もない。
それでも勝負事となれば熱くなるのは、高校生とはいえアスリートの性ともいえる。
両校とも異常な盛り上がりを見せていた。
そのルールを決めたのは、もちろんヒル魔である。
いいか、勝負はタイムレースだ。
でもまぁ同じ距離を走れば、自転車の方が早いのは間違いない。
だからスタート地点の位置を変える。
朝、一同が集まった食堂で、ヒル魔は両校の部員たちを前に話している。
全員がやる気満々で頷くのを見て、満足そうに「ケケケ」と笑った。
そして意気揚々と、ルールの説明に移った。
まず泥門の選手は、ゴール地点からスタートする。
100ヤード、つまり91.4メートル走ったところで折り返して、ゴール地点に戻る。
イメージはインターセプトだ。
敵陣から自陣のゴールラインまで一気に走ったところで攻守交替、もう1度敵陣に向かって走ってタッチダウンってとこか。
40ヤードを4秒2で走れれば、理論上は21秒で往復できる。
そんな都合よく、行くもんか。
泥門高校の全員が、そう思った。
40ヤード4秒2はNFLでもトップクラスの数字だ。
そもそもそのペースで200ヤード走り抜けるなんて、不可能だ。
だがヒル魔は素知らぬ顔で説明を続けた。
総北の選手は、ゴールから500メートル先からスタートだ。
自転車レースのトップスピードは、時速70キロ。
これを計算すれば、理論上は約25秒でゴールできる。
泥門の21秒と4秒の誤差はあるが、泥門は半分のところで折り返すからそこで減速する。
それを考えれば、まぁまぁトントンじゃねーか?
そんな都合よく、行くもんか。
今度は総北高校の全員が、そう思った。
時速70キロなんて、プロ選手の最後のゴールスプリント、しかも平坦な道で出すタイムだ。
どこをスタート地点にするかによって変わるが、アップダウンのあるこのサーキットでキープするのは無理だ。
で、誰がやる?
ヒル魔が全員を見回しながら、挑発するようにそう言った。
すると泥門側は間髪入れず、ほぼ全員が「「「セナ(先輩)!」」」と答えた。
セナは「あ~、そうなりますよね」とガックリと肩を落とした。
ポジション的に、走るのに特化したセナが出ずしてどうなるという感じだ。
総北はどうする?
ヒル魔が促すと、手嶋が「スタート位置は?」と聞いた。
泥門と比べれば、総北は全員が走るポジションではある。
だが5キロサーキットはとにかく登りと下りが交互にやってくるのだ。
走る場所によって、スプリンターとクライマー、どちらが有利か変わってくる。
ヒル魔はニヤリと笑うと「ここだ」と指さす。
壁に張られたコース図で、ヒル魔が指し示したのはコース内にある電光掲示板の前だった。
それを見た手嶋が「なるほど」と笑う。
そこからしばらくは200メートルほど緩やかに下った後、残りは上りだ。
泥門側は坂を下った後、折り返して、今下った坂を上っていくことになる。
小野田、行け。
手嶋は坂道を見ながら、そう言った。
坂道は「え?手嶋さんか今泉君じゃないんですか!?」と叫んだ声が裏返る。
主将かエースが出るものと思っていた坂道にとっては、まったくの予想外だったのだ。
お前、インターハイの昨年度個人総合優勝だろうが。
そいつを出さないで、誰を出すってんだ。
手嶋が呆れた声を上げると、青八木と古賀も頷く。
鳴子が「絶対に負けたらアカンで!」と、今泉が「勝て!」と坂道の背中を叩いた。
感極まった坂道が「はい!頑張ります!」と声を張った。
どうでもいいけど、うちはああいう激励、ないのかなぁ。
檄を飛ばされる坂道を横目に見ながら、セナはポツリと愚痴った。
するとヒル魔がセナの肩を叩き、ニンマリと笑った。
テメーはエースで主将なんだ。
ここで負けたらチームの士気にかかわる。
もしも負けたら、テメーだけ走って東京に帰らせるからな!
あんまりな宣告に、セナは「そんなぁぁ」と情けない声を上げた。
しかもこの男はやると言ったら、本気でやるのだ。
案の定というべきか。
なんなら石蹴りしながら戻るか?と笑っている。
1人デスマーチをやれと!?
セナは一瞬で真っ青になった。
だがそれがヒル魔なりのスパルタな愛情なのだ。
できると信じているから、無茶振りする。
そうやってセナは、初代デビルバッツは強くなった。
だったら今回だって、期待に応えるまでだ。
坂道君、よろしく。
何だか変なことになっちゃったけど、お互いにベストを尽くして戦おう!
セナが手を差し出すと、坂道が握り返す。
試合前(?)の握手も終わり、この後いよいよレーススタートだ。
セナは気付かなかった。
負けた時のペナルティを言い渡され悲鳴を上げるセナを、ヒル魔がほんの一瞬だけ優しい目で見ていたこと。
そしてそのヒル魔の表情に気付き、坂道が少しだけ寂しそうな顔をしたことも。
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