第6話「恋人同士」
合宿は4日め、いよいよ大詰めだ。
セナはヒル魔の横顔を盗み見ながら、昨晩のことを思い出していた。
昨夜、自主練の後、坂道と話をした。
ずっと気になっていたのだ。
坂道がチラチラとヒル魔を見ていたことが。
ヒル魔の様子を見ても、事前に坂道と面識があったとは思えない。
この合宿中だって、ほとんど会話なんかしていないはずだ。
それなのに坂道は、まるで恋でもしているような熱い目でヒル魔を見ていた。
まさか、坂道君はヒル魔さんに?
そんな可能性を考えて、セナは少しだけ動揺した。
セナとヒル魔は恋人同士であり、それなりの「お付き合い」をしている。
だからこそ心配だし、不安になるのだ。
坂道がヒル魔に恋をしたところで、おかしくないと。
だが当の坂道から聞かされた話に、セナは拍子抜けした。
実はヒル魔さんって、ボクのすごく尊敬する先輩に少し似てて。
坂道は恥ずかしそうにそう告げた。
それを聞いたセナは、正直ホッとしていた。
仮に坂道がヒル魔を好きだとして、ヒル魔が坂道に気持ちが動くことはないはずだ。
そう思っても、やはり気になる。
こと恋愛方面に関して、セナはまったく自分に自信がなかった。
特別な先輩なんだね。その先輩のこと、教えてよ。
セナは少々の後ろめたさを隠すように、そう言った。
すると坂道が携帯電話を操作して、見せてくれた。
坂道が尊敬する巻島という先輩の写真を。
似てる、かなぁ?
セナは心の中だけで、そう呟いた。
坂道たちも練習中に着ている総北のジャージ姿の男。
はっきり言って、見た目のインパクトはすごかった。
玉虫色とでもいうのだろうか、背中まで伸ばした長い髪の特徴的な色彩。
それに顔立ちもなかなか個性的だ。
そういう意味では、似ていると言えるのかもしれないが。
外見とか、喋り方とかはちょっと怖いかも。
だから最初はすごくとっつきにくかったんだ。
でも一緒に走ったら、すごい走りをする人だってわかって。
それから練習とかレースの時には、さり気なく励ましてくれたり、秘密を教えてくれたりして。
実は優しいのがわかって、ギャップ萌えっていうか!
一気にまくし立てる坂道に、セナは少々引きながらも「なるほど」と思った。
パッと見た目にはとっつきにくそうなのに、実はすごく優しくて、面倒見がいい。
そういうことなら、ヒル魔とよく似ていると言えるだろう。
ギャップ萌えには、大いに共感できる。
合宿は来られないんだね。
でもインターハイは見に来てくれるんでしょう?
セナは何の気なしに、そう聞いた。
何しろ総北高校は、昨年の日本一なのだから。
それを成し遂げた先輩なら、当然今年の後輩たちの活躍も見に来るのだろうと思ったのだ。
だが坂道の表情が曇った。
そしてしょんぼりと肩を落とすと「多分、来ないと思う」と答えた。
いけない。何か地雷を踏んでしまったのか。
セナは「そう、なの?」と言いながら、どう続けていいのか、言葉に詰まった。
巻島さんはイギリスに行っちゃったから。
住所は教えてもらったから、手紙を書いてるけど、1回も返事が来なくて。
俯いてしまった坂道に、セナは苦笑した。
坂道は自覚していないようだが、その巻島という先輩に恋をしているのではないか?
届いてないのかなぁ。
それともボクなんかに、返事を書く気にならないのかなぁ。
坂道の言葉に、セナは「単に筆不精って可能性もあるんじゃない」と応じる。
実はそれが大正解だったことは、かなり後になってわかるのだが。
そしてその翌日の練習。
総北は今日が1000キロ走破の最終日で、サーキットからは熱気を帯びた歓声が聞こえた。
そんな空気のせいか、セナは何回もヒル魔を見てしまった。
もちろん練習中は、集中している。
だがちょっとしたインターバルに、総北の歓声が聞こえると、昨晩のことを思い出してしまうのだ。
それでも泥門高校も濃密な練習をこなした。
あくまで試合形式はミニゲームのみで、基本的には体力強化重視だ。
それでもバリエーションは多くしたので、部員たちは飽きずに集中してくれた。
セナだけでなく部員全員、基礎体力がかなり上がったと思う。
だから夕方、達成した充実感に浸りながら、セナはヒル魔と自主練に出たのだが。
テメー、インターバルのたびに、オレを見てたな?
昨日と同じパターゴルフコースで、ヒル魔は2人きりになるなり、そう言った。
セナは「別に。気のせいじゃないですか?」とかわしたが、ヒル魔は意地悪い笑みを浮かべている。
さぁ白状しろと言わんばかりの悪戯っぽい目で、セナを見つめるのだ。
ああ、その目に弱い。
セナの心が恋愛モードに振れた瞬間、セナの唇を柔らかいものがかすめた。
キスされたとわかり、セナは耳まで真っ赤になってしまう。
だが次の瞬間、少し離れた場所に立っている坂道と目が合った。
坂道は驚愕の表情で、セナと同じくらい真っ赤な顔で立ち竦んでいる。
見られたようだな。
ヒル魔がニンマリと笑った。
セナは「なに余裕かましてるんですか!!」と絶叫した。
セナはヒル魔の横顔を盗み見ながら、昨晩のことを思い出していた。
昨夜、自主練の後、坂道と話をした。
ずっと気になっていたのだ。
坂道がチラチラとヒル魔を見ていたことが。
ヒル魔の様子を見ても、事前に坂道と面識があったとは思えない。
この合宿中だって、ほとんど会話なんかしていないはずだ。
それなのに坂道は、まるで恋でもしているような熱い目でヒル魔を見ていた。
まさか、坂道君はヒル魔さんに?
そんな可能性を考えて、セナは少しだけ動揺した。
セナとヒル魔は恋人同士であり、それなりの「お付き合い」をしている。
だからこそ心配だし、不安になるのだ。
坂道がヒル魔に恋をしたところで、おかしくないと。
だが当の坂道から聞かされた話に、セナは拍子抜けした。
実はヒル魔さんって、ボクのすごく尊敬する先輩に少し似てて。
坂道は恥ずかしそうにそう告げた。
それを聞いたセナは、正直ホッとしていた。
仮に坂道がヒル魔を好きだとして、ヒル魔が坂道に気持ちが動くことはないはずだ。
そう思っても、やはり気になる。
こと恋愛方面に関して、セナはまったく自分に自信がなかった。
特別な先輩なんだね。その先輩のこと、教えてよ。
セナは少々の後ろめたさを隠すように、そう言った。
すると坂道が携帯電話を操作して、見せてくれた。
坂道が尊敬する巻島という先輩の写真を。
似てる、かなぁ?
セナは心の中だけで、そう呟いた。
坂道たちも練習中に着ている総北のジャージ姿の男。
はっきり言って、見た目のインパクトはすごかった。
玉虫色とでもいうのだろうか、背中まで伸ばした長い髪の特徴的な色彩。
それに顔立ちもなかなか個性的だ。
そういう意味では、似ていると言えるのかもしれないが。
外見とか、喋り方とかはちょっと怖いかも。
だから最初はすごくとっつきにくかったんだ。
でも一緒に走ったら、すごい走りをする人だってわかって。
それから練習とかレースの時には、さり気なく励ましてくれたり、秘密を教えてくれたりして。
実は優しいのがわかって、ギャップ萌えっていうか!
一気にまくし立てる坂道に、セナは少々引きながらも「なるほど」と思った。
パッと見た目にはとっつきにくそうなのに、実はすごく優しくて、面倒見がいい。
そういうことなら、ヒル魔とよく似ていると言えるだろう。
ギャップ萌えには、大いに共感できる。
合宿は来られないんだね。
でもインターハイは見に来てくれるんでしょう?
セナは何の気なしに、そう聞いた。
何しろ総北高校は、昨年の日本一なのだから。
それを成し遂げた先輩なら、当然今年の後輩たちの活躍も見に来るのだろうと思ったのだ。
だが坂道の表情が曇った。
そしてしょんぼりと肩を落とすと「多分、来ないと思う」と答えた。
いけない。何か地雷を踏んでしまったのか。
セナは「そう、なの?」と言いながら、どう続けていいのか、言葉に詰まった。
巻島さんはイギリスに行っちゃったから。
住所は教えてもらったから、手紙を書いてるけど、1回も返事が来なくて。
俯いてしまった坂道に、セナは苦笑した。
坂道は自覚していないようだが、その巻島という先輩に恋をしているのではないか?
届いてないのかなぁ。
それともボクなんかに、返事を書く気にならないのかなぁ。
坂道の言葉に、セナは「単に筆不精って可能性もあるんじゃない」と応じる。
実はそれが大正解だったことは、かなり後になってわかるのだが。
そしてその翌日の練習。
総北は今日が1000キロ走破の最終日で、サーキットからは熱気を帯びた歓声が聞こえた。
そんな空気のせいか、セナは何回もヒル魔を見てしまった。
もちろん練習中は、集中している。
だがちょっとしたインターバルに、総北の歓声が聞こえると、昨晩のことを思い出してしまうのだ。
それでも泥門高校も濃密な練習をこなした。
あくまで試合形式はミニゲームのみで、基本的には体力強化重視だ。
それでもバリエーションは多くしたので、部員たちは飽きずに集中してくれた。
セナだけでなく部員全員、基礎体力がかなり上がったと思う。
だから夕方、達成した充実感に浸りながら、セナはヒル魔と自主練に出たのだが。
テメー、インターバルのたびに、オレを見てたな?
昨日と同じパターゴルフコースで、ヒル魔は2人きりになるなり、そう言った。
セナは「別に。気のせいじゃないですか?」とかわしたが、ヒル魔は意地悪い笑みを浮かべている。
さぁ白状しろと言わんばかりの悪戯っぽい目で、セナを見つめるのだ。
ああ、その目に弱い。
セナの心が恋愛モードに振れた瞬間、セナの唇を柔らかいものがかすめた。
キスされたとわかり、セナは耳まで真っ赤になってしまう。
だが次の瞬間、少し離れた場所に立っている坂道と目が合った。
坂道は驚愕の表情で、セナと同じくらい真っ赤な顔で立ち竦んでいる。
見られたようだな。
ヒル魔がニンマリと笑った。
セナは「なに余裕かましてるんですか!!」と絶叫した。
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