第4話「悪魔襲来」
YA-HA-!
静まり返った夜の食堂に、セナには聞き慣れた雄叫びが響いた。
セナはため息をつき「時と場所を考えて下さい!」と肩を落とした。
合宿2日目、練習の後、夕食やら入浴も終えた夜。
食堂の自販機で飲み物を買おうとしていたセナは、同じ目的でやって来た坂道と顔を合わせた。
セナは笑顔で坂道に「今日はお疲れさま」と告げる。
チラリと見ただけだが、主将の手嶋ともう1人、がっしりしたメガネの部員は勝負をしていた。
見守る坂道たちも、真剣な表情だった。
そして夜、総北高校の部員たちは、明らかに昨日より穏やかな表情になっている。
きっと何か大きな山を、全員で乗り越えたのだろう。
セナ君たちこそ。夜、試合?見せてもらった。
坂道にそう言われて、セナはそういえばと思った。
夜、試合形式の練習をしたのだが、総北高校の何人かが見ていたことに気付いた。
その中に坂道もいた。
十文字のタックルにセナが飛ばされた時「うわぁぁ~!痛い!!」と声を上げていたのだ。
セナは「そう言えばいたね」と笑う。
少し話さない?
自販機でペットボトル入りのアイスミルクティを買ったセナは、坂道を誘った。
オレンジジュースを買った坂道は「そうだね」と笑い、2人は誰もいない食堂の椅子に座った。
総北はレースやってたね。レギュラー、決まったの?
うん。最後の1枠を手嶋さんと古賀さんが争ってたんだけど、手嶋さんが勝った。
古賀さんって、あのメガネの人だよね。
そう。ボクとはメガネ仲間なんだ。
なるほど。っていうか、坂道君って走る時もそのメガネなんだね。スポーツグラスとかしないの?
・・・考えたこともなかった。もうこれ顔の一部みたいなもんだから。
顔の一部。
坂道が真面目な顔でそう言ったのが妙にツボで、セナは思いっきり吹き出した。
改めてよくよく見ると、坂道の丸いメガネは似合っているけれどアスリートっぽくはない。
セナはふと初めて出た公式戦で、アメフトのシューズではなく運動靴で出てしまったことを思い出した。
坂道もセナと同様、道具にはあまりこだわりを持たないのだろうか?
そっちもすごかったね。アメフトの試合って生まれて初めて見たよ。
ごめんね。びっくりさせちゃった?
うん。セナ君、吹っ飛ばされちゃってたけど、大丈夫なの?
ああ。ああいうのはしょっちゅうだよ。ボクは小さいし、軽いからね。
うわぁ。ボク、アメフトは絶対無理だぁぁ。
あれもコツがあるから、慣れると平気なんだけどね。
セナが何でもないのだと強調しても、坂道は「やっぱり痛そう」と聞かない。
やはり飛ばされたシーンは強烈だったらしい。
仕方なくセナは「坂道君って、どうして自転車部に入ったの?」と話題を変えた。
するとここでもセナと坂道の共通点が見えた。
アニメファンの坂道は、毎日アキバ通いをしていた。
しかも交通費を浮かせるために、自転車で。
きっと知らないうちに、自転車乗りの才能が開花してしまったんだろう。
そして自転車部にスカウトされたのだという。
セナだって、似たようなものだ。
毎日パシリにされ、やたらと逃げ足が速くなった。
だがそれが武器になるなんて夢にも思わず、スポーツには縁がないと思い込んでいた。
そんなとき、ヒル魔にこの足を見込まれて、アメフト部に入ったのだ。
2人はそんなお互いのエピソードトークをして、笑いあった。
そして意外に共通点が多い相手に、ますます親近感を抱いた。
そもそもアスリートらしからぬ小柄な身体からして似ているのだ。
これはもう仲良くならないでどうするという展開だ。
よかったら、番号交換しない?
合宿終わっても、メールとかしたいし。
できたらインターハイの話とか聞きたいな。
セナはそう言いながら、携帯電話を取り出した。
坂道も「嬉しい。ぜひ!」と携帯を取り出したところで、2人はまた笑った。
今時ガラケーであることも一緒だったからだ。
2人は携帯を近づけ、赤外線通信で情報交換する。
そして「できたね」と笑い合った途端、セナの後ろの人影を見た坂道が固まった。
それは悪魔の襲来だった。
YA-HA-!
静まり返った夜の食堂に、セナには聞き慣れた雄叫びが響いた。
セナはため息をつき「時と場所を考えて下さい!」と肩を落とした。
振り返らなくてもわかる。その声を聴くだけで。
いや声を聞かなくたって、こうやって怯えた表情になっている坂道を見るだけで充分だ。
3日目、つまり明日の昼頃に来ると言っていた。
だがどういうわけか予定を早めて、今到着したらしい。
ヒル魔さん!みんな疲れてるんですよ。
こんな夜に大声は困ります。
それに他校の人を怖がらせないで下さい。
セナはゆっくり振り返ると、静かにヒル魔を諭した。
そして坂道の方を向き直ると「この人はうちの引退した3年生で」と告げる。
だが蛭魔の逆立てた金髪と、インパクトのある顔立ち、尖った耳にピアスというビジュアルにビビっている。
もはやセナの声も聞こえているのかどうかさえ怪しくなってきた。
ヒル魔さんが来る前に、番号交換が終わっててよかった。
セナはホッとため息をついた。
完全にフリーズした今の坂道とは、番号の交換どころか会話もできそうにない。
申し訳ないと思う反面、セナは少し残念に思った。
もしもここに坂道がおらず、セナだけだったら。
きっと思い切り抱き付いて、キスをして、ほんの束の間だけでも恋人の戻れただろう。
静まり返った夜の食堂に、セナには聞き慣れた雄叫びが響いた。
セナはため息をつき「時と場所を考えて下さい!」と肩を落とした。
合宿2日目、練習の後、夕食やら入浴も終えた夜。
食堂の自販機で飲み物を買おうとしていたセナは、同じ目的でやって来た坂道と顔を合わせた。
セナは笑顔で坂道に「今日はお疲れさま」と告げる。
チラリと見ただけだが、主将の手嶋ともう1人、がっしりしたメガネの部員は勝負をしていた。
見守る坂道たちも、真剣な表情だった。
そして夜、総北高校の部員たちは、明らかに昨日より穏やかな表情になっている。
きっと何か大きな山を、全員で乗り越えたのだろう。
セナ君たちこそ。夜、試合?見せてもらった。
坂道にそう言われて、セナはそういえばと思った。
夜、試合形式の練習をしたのだが、総北高校の何人かが見ていたことに気付いた。
その中に坂道もいた。
十文字のタックルにセナが飛ばされた時「うわぁぁ~!痛い!!」と声を上げていたのだ。
セナは「そう言えばいたね」と笑う。
少し話さない?
自販機でペットボトル入りのアイスミルクティを買ったセナは、坂道を誘った。
オレンジジュースを買った坂道は「そうだね」と笑い、2人は誰もいない食堂の椅子に座った。
総北はレースやってたね。レギュラー、決まったの?
うん。最後の1枠を手嶋さんと古賀さんが争ってたんだけど、手嶋さんが勝った。
古賀さんって、あのメガネの人だよね。
そう。ボクとはメガネ仲間なんだ。
なるほど。っていうか、坂道君って走る時もそのメガネなんだね。スポーツグラスとかしないの?
・・・考えたこともなかった。もうこれ顔の一部みたいなもんだから。
顔の一部。
坂道が真面目な顔でそう言ったのが妙にツボで、セナは思いっきり吹き出した。
改めてよくよく見ると、坂道の丸いメガネは似合っているけれどアスリートっぽくはない。
セナはふと初めて出た公式戦で、アメフトのシューズではなく運動靴で出てしまったことを思い出した。
坂道もセナと同様、道具にはあまりこだわりを持たないのだろうか?
そっちもすごかったね。アメフトの試合って生まれて初めて見たよ。
ごめんね。びっくりさせちゃった?
うん。セナ君、吹っ飛ばされちゃってたけど、大丈夫なの?
ああ。ああいうのはしょっちゅうだよ。ボクは小さいし、軽いからね。
うわぁ。ボク、アメフトは絶対無理だぁぁ。
あれもコツがあるから、慣れると平気なんだけどね。
セナが何でもないのだと強調しても、坂道は「やっぱり痛そう」と聞かない。
やはり飛ばされたシーンは強烈だったらしい。
仕方なくセナは「坂道君って、どうして自転車部に入ったの?」と話題を変えた。
するとここでもセナと坂道の共通点が見えた。
アニメファンの坂道は、毎日アキバ通いをしていた。
しかも交通費を浮かせるために、自転車で。
きっと知らないうちに、自転車乗りの才能が開花してしまったんだろう。
そして自転車部にスカウトされたのだという。
セナだって、似たようなものだ。
毎日パシリにされ、やたらと逃げ足が速くなった。
だがそれが武器になるなんて夢にも思わず、スポーツには縁がないと思い込んでいた。
そんなとき、ヒル魔にこの足を見込まれて、アメフト部に入ったのだ。
2人はそんなお互いのエピソードトークをして、笑いあった。
そして意外に共通点が多い相手に、ますます親近感を抱いた。
そもそもアスリートらしからぬ小柄な身体からして似ているのだ。
これはもう仲良くならないでどうするという展開だ。
よかったら、番号交換しない?
合宿終わっても、メールとかしたいし。
できたらインターハイの話とか聞きたいな。
セナはそう言いながら、携帯電話を取り出した。
坂道も「嬉しい。ぜひ!」と携帯を取り出したところで、2人はまた笑った。
今時ガラケーであることも一緒だったからだ。
2人は携帯を近づけ、赤外線通信で情報交換する。
そして「できたね」と笑い合った途端、セナの後ろの人影を見た坂道が固まった。
それは悪魔の襲来だった。
YA-HA-!
静まり返った夜の食堂に、セナには聞き慣れた雄叫びが響いた。
セナはため息をつき「時と場所を考えて下さい!」と肩を落とした。
振り返らなくてもわかる。その声を聴くだけで。
いや声を聞かなくたって、こうやって怯えた表情になっている坂道を見るだけで充分だ。
3日目、つまり明日の昼頃に来ると言っていた。
だがどういうわけか予定を早めて、今到着したらしい。
ヒル魔さん!みんな疲れてるんですよ。
こんな夜に大声は困ります。
それに他校の人を怖がらせないで下さい。
セナはゆっくり振り返ると、静かにヒル魔を諭した。
そして坂道の方を向き直ると「この人はうちの引退した3年生で」と告げる。
だが蛭魔の逆立てた金髪と、インパクトのある顔立ち、尖った耳にピアスというビジュアルにビビっている。
もはやセナの声も聞こえているのかどうかさえ怪しくなってきた。
ヒル魔さんが来る前に、番号交換が終わっててよかった。
セナはホッとため息をついた。
完全にフリーズした今の坂道とは、番号の交換どころか会話もできそうにない。
申し訳ないと思う反面、セナは少し残念に思った。
もしもここに坂道がおらず、セナだけだったら。
きっと思い切り抱き付いて、キスをして、ほんの束の間だけでも恋人の戻れただろう。
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