第2話「泥門高校と総北高校」

何だか殺伐としてる。
それがセナの総北高校を見た第一印象だった。

同じ場所で合宿を張ることになった泥門高校と総北高校。
実際に全員が顔を合わせることになったのは、初日の夕飯時だった。
総北のメンバーはすでに食堂で、夕食を食べている。
その食堂に入ったセナは、まず先程顔を合わせた小野田坂道に「こんばんは」と声をかける。
食事中だった坂道は「ど、ども、小早川、君!」と叫びながら、勢いよく椅子から立ち上がった。

うわ、さっきも思ったけど、この人、緊張しぃなんだ。
まぁボクも人のことは言えないけど。
セナは苦笑しながら「主将さんはどの方ですか?」と聞いた。
あ、あちらが、主将の、手嶋さん、です!
坂道が指さした先には、長めのパーマヘアを後ろに束ねた少年が食事をしていた。
セナは「ありがとう」と礼を言うと、そのまま立ち去ろうとしたのだが。

小早川君って、アイシールド21なの!?
頓狂な声に、セナは思わず振り返った。
すると坂道の異様にキラキラした瞳と、目が合ってしまう。
セナは「え~と、まぁ。そう呼ばれてます」と答えた。
未だにこのたいそうな通り名には、恐縮してしまう。
元々相手をビビらすという、非常につまらない理由のために付けられた名前。
しかも本当は別の選手につけられた名前を、勝手に名乗ったものなのだ。

ええと、小野田君こそ。山王だよね?
セナは慌てて話題の矛先を坂道に移した。
昨年のインターハイで、総合優勝を果たした総北高校の小野田坂道の通り名。
セナは事前に蛭魔から、それを聞かされていたのだ。
だが当の坂道はあろうことか「山、追う?」と聞き返してきた。
あれ、彼は自分の通り名、知らないのかな?

あ~、とりあえずありがとうございます。
これからよろしくお願いしますね。
セナは早々に話を切り上げると、坂道に教えられた主将のテーブルに向かう。
どうやら話は聞こえていたらしく、セナが近づくとパーマヘアの少年は立ち上がった。

総北高校の主将、手嶋純太です。よろしく。
手を差し出されたので、セナも握手に応じる。
そして「泥門アメフト部の主将、小早川瀬那です。よろしくお願いします」と答えた。
確か事前の蛭魔情報では、主将と副主将は3年生だ。
それを思い出したセナは、少しだけ羨ましいと思う。
まだまだ蛭魔たちと一緒にプレイしたかったし、教えてもらいたいこともあったのだ。

お~い、セナ。挨拶は済んだのかぁ?
そのとき泥門高校のメンツがゾロゾロと食堂に入ってきた。
それを見た総北の面々は、一様にギョッとしている。
セナはため息をつくと、無理もないかと思う。

アメフト用に強化した肉体は、やはりゴツいのだ。
総北の面々だって、さすがにインターハイを制覇した高校、みな綺麗に筋肉のついた身体をしている。
だがアメフトの身体に比べれば、総じて細い。
それにハァハァ三兄弟を筆頭に、凄味のある顔をしている者も少なくないのだ。
セナは雰囲気が凍り付いたのを感じて、慌てて「見た目ほど怖くないんで」と付け加えた。

せ、せっかくなんで、親睦を深めるために、何かしませんか?
夜の自由時間とかに、お喋りとか、ゲームとか!
セナはとりなすように、そんな提案をしてみた。
アメフトの対戦相手には「怖がらせてナンボ」と割り切り、十文字たちが相手を威嚇しても放置している。
だがせっかくアメフトと関係のないところで知り合いが増えそうなのだ。
いい印象を持ってもらいたいと思ってしまう。

申し訳ないが、オレたちは今、インターハイメンバーを決めるための合宿中なんだ。
とてもそれ以外のことに、時間を割く余裕がない。
手嶋に素っ気なくそう告げられ、セナは「す、すみません!」と頭を下げた。
そう、蛭魔情報にその項目もあったのだ。
4日間で1000キロ走破、その結果でインハイメンバーを決めると。
よくよく考えれば、夏のインハイ目前の総北と秋の大会への調整を始めた泥門では、今時点での緊張度は違うに決まっている。
しかも今はレギュラー決めの時期、全員がライバル状態なら殺伐としていても仕方がない。

その夜、セナは1人でサーキットに出た。
全長5キロのコースは、昼間は総北高校が使っており、泥門メンバーは立ち入らないことになっている。
だがもう総北の練習は終わっているし、大丈夫だろう。
セナはコースの脇のとある一角で足を止めた。
そこには色とりどりの自転車が数十台ほど置いてある。
もちろん総北高校のものだろう。
メーカーも色もバラバラだが、それがかえってバランスが良かった。
色とりどりの無機質なフォルムが、夜間ライトに照らされて美しく輝いている。

セナはそんな自転車を目で楽しみながら、ストレッチをした。
昼間の練習では、どうしても指示を飛ばす側に回ることになり、微妙に消化不良だった。
だから誰もいないサーキットを走らせてもらおうと思ったのだ。

ストレッチを終えたセナは、サーキットに出た。
そしてゆっくりと深呼吸をすると、静かに走り出した。
特にタイム計測はしない。
脳内では王城の進をイメージしていた。
トップスピードに乗ったところで、進のスピアタックルをかわして、さらにスピードを上げる。
そして空想のエンドゴールを超えたところで、足を止めた。
だがその瞬間「すごぉ~い」と感嘆の声と拍手が聞こえてきた。

アイシールド21の走りですね!!
自転車を押してきた坂道が目をキラキラさせながら、こちらを見ていたのだ。
セナは「すみません!誰もいないと思ってサーキットを使っちゃいました!」と頭を下げる。
だが坂道はセナの言葉をスルーしたようで「カッコいい~♪」と叫び、興奮状態に陥っていた。
1/2ページ