第10話「優勝おめでとう」

あ~~!!
セナは思わず声を上げ、指まで指してしまった。
一方指された男はセナの剣幕に驚き「何?」と不機嫌な声を上げた。

8月某日、セナは日光に来ていた。
泥門デビルバッツは7月に一次合宿を張り、明日からは二次合宿。
その前日で、部活は休みになっている。
そんな貴重な休養日、セナはどうしてもここに来たかった。
だからヒル魔に無理を言って、一緒にここまで来てもらったのだ。

全国高等学校自転車競技大会。
これがわざわざここへ来た目的だ。
7月の一次合宿で、同じ場所で合宿を張っていた総北高校自転車競技部。
彼らの応援をして、優勝する姿が見たかった。
彼らが優勝してくれれば、自分も力がもらえるような気がするのだ。
だからこの最終日、ゴールの近くで観戦するつもりだった。

やっぱりすごい人ですね。
セナはキョロキョロと辺りを見回しながら、興奮状態だ。
自転車レースの観戦なんて、したことがない。
当然のことながら、アメフトの試合のようにスタジアムではない。
アスファルトの匂いや、雑踏の雰囲気の中でのレース。
だからこんなにも雰囲気が違うのだろうか。

坂道君たち、こんなところを走って来るんですね!
すっごい坂。自転車でここを登るんだ。さすがですよね~♪
セナは浮かれながら、コースの沿道を歩いていく。
まだまだゴールまでは時間があるが、何しろこの混雑だ。
早めに行かないと、ゴールが見える場所はなくなってしまう。

ヒル魔さん、早く行きましょう~!
セナは完全に浮かれているけれど、ヒル魔は気付かない振りをしていた。
日頃は主将として、部員たちを率いなければならない立場だ。
チームのエースの役割も担っており、それは大変な重圧だ。
だから2人きりのときくらい、ハメを外したってかまわない。

歩いている最中、人混みの中で、セナは知っている人物を見かけた。
直接面識があるわけではない。
写真を見せてもらっただけだ。
それでも絶対に間違っていないと確信できるのは、彼のビジュアルにあまりにもインパクトがありすぎるからだ。

緑、いや玉虫色とでもいうのだろうか。
こんな色の髪を、しかも背中まで伸ばしている人はそうそういない。
顔立ちだって、一度見たら忘れない顔だ。
セナは一瞬で彼が誰だかわかり「あ~~!!」と叫んで、指さしていた。

何?
その男は不機嫌そうにセナを見た。
その横には坊主頭の老け顔の男と、ガッチリした大きな身体の男がいる。
セナは男に駆け寄ると「巻島さん、ですよね!」と叫んだ。

ボク、坂道君の友達で、小早川瀬那。。。
セナがそこまで告げた時、今度はその男、巻島が「アイシールド21か!」と声を上げた。
何で知っているのかと、セナが不思議そうな顔になる。
すると巻島は「あいつからの手紙に書いてあった」と教えてくれた。

うわ、よかった~~!!
坂道君、巻島さんから手紙の返事がないから、ちゃんと届いてるのかなって心配してたんですよ!
ゴールの後、巻島さんと会えたら、すごい優勝祝いになりますね~!!

巻島は「そうなのか?」と応じながら、セナの剣幕に若干引いている。
だが完全に本日浮かれモードのセナは気付かす「そうだ!」と声を上げた。
そしてヒル魔に「すみません、巻島さんと並んでください!」と半ば命令口調で告げる。
巻島とヒル魔は顔を見合わせながらも、とりあえず並んで立った。
するとセナは携帯電話を取り出して、2人に向けた。

写真、撮るのかよ!?
期せずして、巻島とヒル魔の声がかぶった。
だがセナはおかまいなしに「もっと寄ってください!あと笑って!」と叫んだ。
2人は半歩ずつ距離を詰めて、ニィと少々無理やりな笑みを浮かべる。
その瞬間、セナは携帯の撮影ボタンを押した。

坂道たち総北高校が無事、ゴールしたのは、それから2時間後のことだった。
セナはゴール前で「頑張れ!」「負けるな!」と声を張って、応援した。
そして坂道たちは昨年同様、総合優勝を果たしたのだった。

歓喜の表彰式を終え、帰りの車に乗り込んだ坂道は、携帯電話のメール着信をチェックした。
何通かの優勝おめでとうメール。
その中で坂道はセナからのメールを見つけて、開く。
そして添付された写真を見て「えええ~~~!?」と声を上げた。
少々引き攣った笑みを浮かべた男2人、巻島とヒル魔だ。
なんでこの2人がと驚く。
たまたま観戦に来て偶然会ったとしたら、すごい偶然だ。

優勝おめでとう。
確かにこの2人、ちょっと似てるね。

セナのメールを読んだ坂道は、もう1度添付された写真を見た。
奇抜な髪とインパクトある顔立ちのツーショット。
あまりにも奇跡過ぎて、優勝した喜びさえ霞みそうだ。
坂道は「そうだね。似てる」とひとりごちると、写真が消えないように保護設定をかけた。
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