Prison Without Bars

乱暴だな、おい。
ヒルマは文句を言ったが、男たちは聞く耳を持たないようだ。
彼らは荒々しくヒルマを牢内に突き飛ばすと、さっさと木の格子戸を閉めてしまった。

ヒルマは罪人として捕えられ、たった今、牢に収監されたところだった。
そのことに関しては、異論はない。
ヒルマは物心ついたころから盗みを生業として、食いつないできた。
お前は悪党だと指を差されれば、その通りと答えるだろう。

だがヒルマにも言い分はあるのだ。
この国のほとんどの人間は、髪が黒い。
だがヒルマはどういうわけか、生まれながらにして髪が金色なのだ。
それに彫りも深すぎるし、何よりも耳が異様に尖っている。
おそらくは異国の血が入っているのだろう。
だが確かめたくても、両親はいなくなった。
死んでしまったのか、それともヒルマを捨てたのかさえ覚えていない幼い頃のことだ。

ちゃんと働いて、生きていこうと思っていた時期はあるのだ。
だがほとんどの人間は、ヒルマの容姿を気味悪がった。
働きたいと思っても、使ってくれる場所もない。
結局空腹に耐えかねて、生きていくために食べ物を盗む。
ヒルマが罪を犯したのは、そんなごく自然な欲求からだった。

成人するまで、そして成人してからも、ヒルマは罪を重ねた。
そうしているうちに、だんだん要領もよくなってくる。
毎回毎回、空腹を満たすために食べ物を盗むのは、効率が悪いのだ。
金を盗む、もしくは金目のものを盗んで売り払う。
盗品でも買い取ってくれる連中とも、付き合いができた。
罪人でもそれなりに楽しく暮らしていたのだったが。

ついに年貢の納め時。
盗みに入った屋敷で、ヒルマは捕獲されてしまった。
この村で盗みを働くのは、初めてだ。
1つの場所に落ち着くことなく渡り歩き、決してヘマはしていなかったはず。
なのに屋敷を出たところで取り囲まれ、そのままとある建物へと連行されてしまったのだ。
そこから屈強な男2人に両側を固められ、廊下を進むようにと促される。

ヒルマは果敢に話しかけてみた。
これから自分がどうなるのか、興味があるからだ。
だが2人の男は何も喋らない。
まったく愛想がないと文句をつけたが、それにも答えはなかった。

廊下には木の格子がはめられた小さな部屋が並んでいた。
それを見てようやく、この建物が牢獄なのだとわかった。
そして一番奥の牢まで連れて来られると、2人の男の1人が目だけで入るように威圧する。
その通りにするのが癪でそのまま立っていたら、2人は左右からヒルマの腕を掴んだ。

乱暴だな、おい。
ヒルマは文句を言ったが、男たちは聞く耳を持たないようだ。
彼らは荒々しくヒルマを牢内に突き飛ばすと、さっさと木の格子戸を閉めてしまった。
そして鍵をかけると、とっとと立ち去っていく。
結局最後まで、彼らは一言も声を発さなかった。

ヒルマはどうやらしばらく暮らすことになりそうな独房を観察した。
小さな机と椅子が1客。寝具さえない。
それでもヒルマにとっては、まずまずの部屋だった。
家を持たず、この金の髪では宿でも気味悪がって泊めてくれない。
結果的に野宿が多いヒルマにとっては、雨風がしのげるだけでも充分なのだ。

だが長居するつもりはない。
廊下を歩きながら見てきたが、逃げられそうな場所はいくつもあったからだ。
ここ最近は特に野宿が多かったし、腹も減っている。
しばらくタダ飯を食らって、身体を休めたら、とっとと牢を破ってやろう。

あの、こんばんは。
少年のような声が聞こえて、ヒルマはそちらを見る。
木の格子の外には、小さな少年が立っていた。
ヒルマは「誰だ、お前?」と胡散臭そうに少年を睨む。

牢番のセナと申します。
こちらにいらっしゃる間のお世話をさせていただきます。
丁寧に頭を下げる少年に、ヒルマは「は?」と声を上げた。

こうして捕えられたのは初めてではない。
そのたびに牢番だっていたが、やつらはいつも横柄で、囚人相手に威張り散らしていた。
こんなに小さな少年だったのは初めてだ。
しかも「お世話させていただく」とか、妙に腰が低い。
ヒルマはもう1度、セナと名乗った牢番を見た。
そしてかわいらしい顔立ちをしていることに気付く。

これはしばらく長居をしてもいいかもしれない。
ヒルマは愛らしい牢番にジロジロと無遠慮な視線を送りながら、頬を緩めた。
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