水族館デート
水族館とか動物園とかいう場所が、蛭魔は好きではない。
魚や動物たちを本来生きる場所から引き離して、狭い水槽や檻に閉じ込めて、見世物にして。
目の前を泳ぐこの魚たちは、ここが本物の海ではないことを知っているのだろうか。
そんな風に考えると、なんだかひどく哀れに思えてしまうのだ。
もちろん水族館や動物園の存在自体を否定するつもりは毛頭ない。
生態系を調べるとか、学術的な意味だってあるのだろうから。
だがここへ遊びに来るという感覚は、どうしても理解できなかった。
だが女は上機嫌で「きれい」とか「かわいい」とか言って、1人ではしゃいでいる。
一応、今は蛭魔の恋人ということになっている女。
女から告白されたとき、蛭魔はことわったのだ。
だが女は今好きな人がいないのなら、つきあってほしいと食い下がった。
挙句の果てには、身体だけでもいいとまで。
女は世間一般的には美人といえるほど見てくれもよかったし「まぁありかな」と思った。
そこで初めてのデートなるもので、この水族館に来たのだった。
でもやはりさして好きでもない女と付き合うものではなかったかもしれない。
そもそもここへ誘われた時点で、自分とは感性が違うのだと思っていたが。
もう無理だ。女がはしゃげばはしゃぐほど、醒めてしまう。
女が「待っててね」と化粧室へ消えるのを見て、蛭魔はホッと安堵のため息をついた。
こんな水槽の中に閉じ込められて、魚がかわいそうだ。
女を待つ蛭魔の耳に、ふとそんな声が漏れ聞こえてきた。
蛭魔がそちらの方向を見る。
そこにいるのは高校生くらいのカップルだった。
どうやら声の主である小柄な少年も、蛭魔と同様に水族館があまり好きではないらしい。
もう!せっかく来たのに!そんなこと言わないでよ!
連れの少女が目をつり上げて怒る。
そして「ちょっと待ってて」と、蛭魔の連れ同様、化粧室へと向かった。
蛭魔は残された少年の横顔を見た。
どこか切ない表情で、水槽を見ている可愛らしい少年。
綺麗だと思った。
この水族館の魚たちや、蛭魔が連れている女や、さっきの少女よりも。
なぁこのまま俺とどっか別の場所に行かないか?
蛭魔は思わず少年に声を掛けていた。
少年はひどく驚いた顔で蛭魔を見上げたが、一瞬後には悪戯っぽい表情で笑った。
俺は蛭魔妖一。おまえは?
蛭魔は少年に右手を伸ばしながら、訪ねた。
少年はその手を取りながら「小早川セナです」と答える。
2人は顔を見合わせて笑うと、手を繋いだまま走り出した。
【終】
魚や動物たちを本来生きる場所から引き離して、狭い水槽や檻に閉じ込めて、見世物にして。
目の前を泳ぐこの魚たちは、ここが本物の海ではないことを知っているのだろうか。
そんな風に考えると、なんだかひどく哀れに思えてしまうのだ。
もちろん水族館や動物園の存在自体を否定するつもりは毛頭ない。
生態系を調べるとか、学術的な意味だってあるのだろうから。
だがここへ遊びに来るという感覚は、どうしても理解できなかった。
だが女は上機嫌で「きれい」とか「かわいい」とか言って、1人ではしゃいでいる。
一応、今は蛭魔の恋人ということになっている女。
女から告白されたとき、蛭魔はことわったのだ。
だが女は今好きな人がいないのなら、つきあってほしいと食い下がった。
挙句の果てには、身体だけでもいいとまで。
女は世間一般的には美人といえるほど見てくれもよかったし「まぁありかな」と思った。
そこで初めてのデートなるもので、この水族館に来たのだった。
でもやはりさして好きでもない女と付き合うものではなかったかもしれない。
そもそもここへ誘われた時点で、自分とは感性が違うのだと思っていたが。
もう無理だ。女がはしゃげばはしゃぐほど、醒めてしまう。
女が「待っててね」と化粧室へ消えるのを見て、蛭魔はホッと安堵のため息をついた。
こんな水槽の中に閉じ込められて、魚がかわいそうだ。
女を待つ蛭魔の耳に、ふとそんな声が漏れ聞こえてきた。
蛭魔がそちらの方向を見る。
そこにいるのは高校生くらいのカップルだった。
どうやら声の主である小柄な少年も、蛭魔と同様に水族館があまり好きではないらしい。
もう!せっかく来たのに!そんなこと言わないでよ!
連れの少女が目をつり上げて怒る。
そして「ちょっと待ってて」と、蛭魔の連れ同様、化粧室へと向かった。
蛭魔は残された少年の横顔を見た。
どこか切ない表情で、水槽を見ている可愛らしい少年。
綺麗だと思った。
この水族館の魚たちや、蛭魔が連れている女や、さっきの少女よりも。
なぁこのまま俺とどっか別の場所に行かないか?
蛭魔は思わず少年に声を掛けていた。
少年はひどく驚いた顔で蛭魔を見上げたが、一瞬後には悪戯っぽい表情で笑った。
俺は蛭魔妖一。おまえは?
蛭魔は少年に右手を伸ばしながら、訪ねた。
少年はその手を取りながら「小早川セナです」と答える。
2人は顔を見合わせて笑うと、手を繋いだまま走り出した。
【終】