秘密の恋
今、付き合っている人がいるんですか!?
勢い込んで問いかけてくる女性に、セナは曖昧に笑う。
そして口を開くことはなく、一礼してその場を去った。
光速のランニングバック、アイシールド21。
高校時代にアメフトで大活躍したセナこと小早川瀬那の通り名だ。
本人的には荷が重いと思っている。
だが客観的にはそれにふさわしい活躍をしていた。
そしてその名を引っ提げて、大学でもアメフトを続けている。
入学したのは炎馬大学だった。
この決断は少なからず周囲を驚かせた。
大学アメフトと言えば、やはりナンバーワンは最京大学。
セナは当然そこを選ぶと思われていたからだ。
そしてヒル魔とまたコンビを組むものだと。
だけどセナは敢えてヒル魔と戦う道を選んだのだ。
失礼します!
セナは元気よく挨拶をして、アメフト部の部室に入った。
すでに部員の半数は集まり、練習の準備をしている。
セナも着替えのため、ロッカールームに向かおうとしたところで声をかけられた。
見てたわよ。セナ!また女子に声をかけられていたじゃん!
テンション高くはしゃいだ声を上げたのは、瀧鈴音だった。
高校時代にチアリーダーとして応援してくれた彼女は、大学も一緒だった。
相変わらず元気いっぱいでチアを続けている。
そして今も部員の中にすっかりなじんで、寛いでいた。
見ていたなら助けてよ。困ってたんだから。
セナは肩を落とし、やや咎め立てるような目で鈴音を見た。
大学に入って、セナが一番困惑していること。
それは妙に女子に声をかけられるようになったことだ。
つい先程も知らない女生徒に声をかけられ、上手くスルーできずにいたのだ。
あの子って、この前もセナに声をかけてたよね?
連絡先を渡されてなかった?
鈴音はセナの視線など物ともせずに、そう聞いてきた。
セナはため息まじりに頷き、もう一度肩を落とした。
先程の女子生徒にはかなりウンザリしていたのだ。
以前に待ち伏せされて、メッセージアプリのIDのメモを渡してきた。
そのときは「ライン、やってないから」と受け取らなかったのだ。
それで察してくれると思っていた。
連絡先など受け取るつもりがないことを。
でも今日はラインがダメならと、メールアドレスのメモを渡してきたのだ。
相変わらずの待ち伏せだ。
だからセナは「ごめんなさい」と頭を下げた。
すると「今、付き合っている人がいるんですか!?」と食い下がられた。
何で諦めてくれないのかなぁ。
セナは恨みがましさを込めて、呟いた。
好いてくれているのは嬉しくないとは言わない。
だけど応える気がないのに、グイグイ押されても困るのだ。
なぜならセナには心に秘めた想い人がいる。
セナはアメフトしているときはカッコいいし、普段は可愛いもん。
お付き合いしたいって思う女の子はたくさんいるよ~?
鈴音はカラカラと笑いながら、そう言ってくれる。
セナは「ありがと」と力なく答える。
褒めてくれているのだろうけど、ピンとこないのだ。
アメフトをしている自分がカッコいいとは思わない。
それに大学生にもなって「可愛い」はあんまりだ。
早く想い人に釣り合うような大人になりたい。
失礼しまっす!
セナが鈴音と話し込んでいるうちに、部室のドアが開いた。
現れたのは、高校時代も今もクラスメイトのモン太こと雷門太郎だ。
セナが「お疲れ」と、鈴音が「やー!」と声をかける。
するとモン太が「セナ、これ見たか!?」と自分のスマホを差し出した。
それは1枚の写真だった。
セナたちのライバルとなる最京大学アメフト部の集合写真。
かつてのチームメイトやライバルの顔が並んでいる。
その中央にいるのは、蛭魔妖一。
そしてその横にぴったりと寄り添っているのは姉崎まもりだ。
まもりさんとヒル魔先輩、距離近くないか!?
まさか付き合い始めたとか!?
声を荒げるモン太の言葉に、セナの目が泳いだ。
だけどすぐに「どうかな」と曖昧に笑う。
鈴音が心配そうにセナを見たけれど、気が付かない振りをした。
最京大学アメフト部の集合写真は、すでにセナも見ている。
そしてヒル魔とまもりの距離の近さに動揺したのだ。
なぜならセナの想い人はヒル魔なのだから。
2人はヒル魔が部を引退したときから、付き合っていたのである。
今、付き合っている人がいるんですか!?
名も知らぬ女子生徒に詰め寄られ、心に浮かんだのはもちろんヒル魔だ。
だけど彼らの交際はあまり知られていない。
わざわざ自分から宣伝したりはしていないが、隠してもいなかった。
実際鈴音を含めて、直接聞いてきた者や察していた者は何人もいる。
だけど決定的に知れ渡らないのは、セナとヒル魔がアメフトに徹していたからだ。
部活では先輩と後輩、クォーターバックとランニングバック。
それ以上の感情を表に出すことはしなかった。
チームにとって何の得にもならない。
むしろ勝利のために邪魔だと思ったからだ。
だからチームメイトでさえ気づかなかった者もいた。
そして敵同士となった今も同じだった。
2人が恋愛関係だとわかれば、いろいろやりにくいと思ったからだ。
情報漏えいだ、スパイだと勘ぐる者もいるかもしれない。
こうして2人の関係は知る人ぞ知る秘密の恋となったのだった。
改めて思い返せば、告白の言葉も曖昧だったよな。
セナは2人が付き合い始めた時のことを思い出して、ため息をつく。
するとモン太が「セナ?どうした?」と声をかけてきた。
ちなみにモン太はヒル魔とセナの関係に気付いていない。
何でもないよ。
セナは慌てて笑顔を作って、そう答えた。
今はとにかく練習するのみ。
遠からず敵としてフィールドで相対する想い人に、恥ずかしい姿は見せたくない。
勢い込んで問いかけてくる女性に、セナは曖昧に笑う。
そして口を開くことはなく、一礼してその場を去った。
光速のランニングバック、アイシールド21。
高校時代にアメフトで大活躍したセナこと小早川瀬那の通り名だ。
本人的には荷が重いと思っている。
だが客観的にはそれにふさわしい活躍をしていた。
そしてその名を引っ提げて、大学でもアメフトを続けている。
入学したのは炎馬大学だった。
この決断は少なからず周囲を驚かせた。
大学アメフトと言えば、やはりナンバーワンは最京大学。
セナは当然そこを選ぶと思われていたからだ。
そしてヒル魔とまたコンビを組むものだと。
だけどセナは敢えてヒル魔と戦う道を選んだのだ。
失礼します!
セナは元気よく挨拶をして、アメフト部の部室に入った。
すでに部員の半数は集まり、練習の準備をしている。
セナも着替えのため、ロッカールームに向かおうとしたところで声をかけられた。
見てたわよ。セナ!また女子に声をかけられていたじゃん!
テンション高くはしゃいだ声を上げたのは、瀧鈴音だった。
高校時代にチアリーダーとして応援してくれた彼女は、大学も一緒だった。
相変わらず元気いっぱいでチアを続けている。
そして今も部員の中にすっかりなじんで、寛いでいた。
見ていたなら助けてよ。困ってたんだから。
セナは肩を落とし、やや咎め立てるような目で鈴音を見た。
大学に入って、セナが一番困惑していること。
それは妙に女子に声をかけられるようになったことだ。
つい先程も知らない女生徒に声をかけられ、上手くスルーできずにいたのだ。
あの子って、この前もセナに声をかけてたよね?
連絡先を渡されてなかった?
鈴音はセナの視線など物ともせずに、そう聞いてきた。
セナはため息まじりに頷き、もう一度肩を落とした。
先程の女子生徒にはかなりウンザリしていたのだ。
以前に待ち伏せされて、メッセージアプリのIDのメモを渡してきた。
そのときは「ライン、やってないから」と受け取らなかったのだ。
それで察してくれると思っていた。
連絡先など受け取るつもりがないことを。
でも今日はラインがダメならと、メールアドレスのメモを渡してきたのだ。
相変わらずの待ち伏せだ。
だからセナは「ごめんなさい」と頭を下げた。
すると「今、付き合っている人がいるんですか!?」と食い下がられた。
何で諦めてくれないのかなぁ。
セナは恨みがましさを込めて、呟いた。
好いてくれているのは嬉しくないとは言わない。
だけど応える気がないのに、グイグイ押されても困るのだ。
なぜならセナには心に秘めた想い人がいる。
セナはアメフトしているときはカッコいいし、普段は可愛いもん。
お付き合いしたいって思う女の子はたくさんいるよ~?
鈴音はカラカラと笑いながら、そう言ってくれる。
セナは「ありがと」と力なく答える。
褒めてくれているのだろうけど、ピンとこないのだ。
アメフトをしている自分がカッコいいとは思わない。
それに大学生にもなって「可愛い」はあんまりだ。
早く想い人に釣り合うような大人になりたい。
失礼しまっす!
セナが鈴音と話し込んでいるうちに、部室のドアが開いた。
現れたのは、高校時代も今もクラスメイトのモン太こと雷門太郎だ。
セナが「お疲れ」と、鈴音が「やー!」と声をかける。
するとモン太が「セナ、これ見たか!?」と自分のスマホを差し出した。
それは1枚の写真だった。
セナたちのライバルとなる最京大学アメフト部の集合写真。
かつてのチームメイトやライバルの顔が並んでいる。
その中央にいるのは、蛭魔妖一。
そしてその横にぴったりと寄り添っているのは姉崎まもりだ。
まもりさんとヒル魔先輩、距離近くないか!?
まさか付き合い始めたとか!?
声を荒げるモン太の言葉に、セナの目が泳いだ。
だけどすぐに「どうかな」と曖昧に笑う。
鈴音が心配そうにセナを見たけれど、気が付かない振りをした。
最京大学アメフト部の集合写真は、すでにセナも見ている。
そしてヒル魔とまもりの距離の近さに動揺したのだ。
なぜならセナの想い人はヒル魔なのだから。
2人はヒル魔が部を引退したときから、付き合っていたのである。
今、付き合っている人がいるんですか!?
名も知らぬ女子生徒に詰め寄られ、心に浮かんだのはもちろんヒル魔だ。
だけど彼らの交際はあまり知られていない。
わざわざ自分から宣伝したりはしていないが、隠してもいなかった。
実際鈴音を含めて、直接聞いてきた者や察していた者は何人もいる。
だけど決定的に知れ渡らないのは、セナとヒル魔がアメフトに徹していたからだ。
部活では先輩と後輩、クォーターバックとランニングバック。
それ以上の感情を表に出すことはしなかった。
チームにとって何の得にもならない。
むしろ勝利のために邪魔だと思ったからだ。
だからチームメイトでさえ気づかなかった者もいた。
そして敵同士となった今も同じだった。
2人が恋愛関係だとわかれば、いろいろやりにくいと思ったからだ。
情報漏えいだ、スパイだと勘ぐる者もいるかもしれない。
こうして2人の関係は知る人ぞ知る秘密の恋となったのだった。
改めて思い返せば、告白の言葉も曖昧だったよな。
セナは2人が付き合い始めた時のことを思い出して、ため息をつく。
するとモン太が「セナ?どうした?」と声をかけてきた。
ちなみにモン太はヒル魔とセナの関係に気付いていない。
何でもないよ。
セナは慌てて笑顔を作って、そう答えた。
今はとにかく練習するのみ。
遠からず敵としてフィールドで相対する想い人に、恥ずかしい姿は見せたくない。