Rap Battle
泥門サイファー。
そんな風に呼ばれているそこは、普段は何の変哲もない広場だ。
ただオフィス街の谷間のような場所にあるため、夕方には周辺に人がいなくなる。
だから夜は少々騒いでも、苦情がくることはない。
毎週土曜の夜、その広場にラップ好きの若者が集うようになった。
それが泥門サイファーだ。
腕に覚えがある無名のラッパーたちが、輪になって即興でラップをする。
時には1対1でガチンコのMCバトルになったりする。
そしてその中からメジャーデビューする者も現れ始めた。
曲をリリースしてCDを出したり、ライブハウスで活躍したり。
またMCバトルの大会で好成績を収めたりする者もいる。
そして彼らは高らかに泥門サイファー出身であることを謳う。
それを聞いた無名の才能ある若者がこの場所にやって来るのだ。
ヒル魔はそんな泥門サイファーの先駆者だった。
最初はヒル魔を含む数名のラッパーたちから始まったのだ。
ただただ即興で思いついたリリック(歌詞)を音に乗せる。
時に仲間と声を合わせ、時には戦って。
次第にライムやフロウのテクニックが磨かれ、スキルが上がっていく。
そして今やヒル魔は押しも押されぬ存在となった。
大きな大会で3連覇を果たし、その実力はピカイチの評価だ。
ライブハウスなら即日完売、楽曲のCDやライブのDVDもまずまず売れている。
最近ではテレビドラマの主題歌やCMソングのオファーが来るほどだ。
テレビの仕事も増えており、さながら泥門サイファーの生きる伝説となっていた。
そのヒル魔は久しぶりに泥門サイファーに来ていた。
ヒル魔の容貌はかなり目立つ。
逆立てた金髪と、尖った耳に大きなピアス。
だが裏を返せば、その特徴を隠せば目立たなくなる。
だからニットキャップにサングラスで気配を消して立っていれば、案外気付かれない。
ヒル魔はそのまま少し離れたところから、後輩とも言えるラッパーたちを見た。
オレがナンバーワン~♪必殺のワンパンマン~♪
ラッパーたちの輪の中で、2人の青年が激しくバトルを繰り広げている。
1人は最近MCバトルの大会で上位に残る常連。
短い金髪で顔に十字傷がある男、名前は確か十文字だったか。
いいな。懐かしい。
ヒル魔は若く勢いのあるバトルを見て、サングラスの中で目を細めた。
まだまだ昔を懐かしむ年齢でもない。
それにもっと上に行くつもりだし、立ち止まっている場合ではない。
それでもどうしてもここに来たくなったのだ。
それはヒル魔の気持ちの問題だった。
最近は仕事が忙しくなり、あちこちでチヤホヤされるようになった。
それはそれで悪い気分ではないが、何だかぬるま湯に浸っているような感じがする。
このままでは惰性で流されていくような危惧さえある。
だから初心に帰るべく、始まりの地である泥門サイファーにやって来たのだった。
若いラッパーたちから歓声が上がった。
MCバトルは十文字が勝利したようだ。
そして負けた青年は十文字と腕相撲のような握手を交わしながら、輪に戻る。
すると新たな挑戦者が名乗りを上げたらしい。
ドッと歓声が沸き、前に進み出た青年を見た時、ヒル魔は目を瞠った。
新たな挑戦者は、異様な風体をしていたのだ。
背は低いががっしりとした体躯に黒い長袖のシャツとブラックジーンズ。
その上から赤字に白抜きで「21」と書かれたダブダブのTシャツを着ていた。
そこまではいいが、それだけではない。
黒いヘルメットに緑色のアイシールドを装着して、顔がすっぽり隠れているのだ。
そのせいで彼が若い男のようだということだけしかわからない。
アイシールド21だ!
そこからともなく声が上がり、それがそのうちに「アイシ」コールとなる。
久しぶりにここに来たヒル魔には初見の男だが、今の泥門サイファーでは有名人のようだ。
面白い。アイシールド21とやらの実力を見せてもらおうか。
ヒル魔はニンマリと笑いながら、輪の中のバトルに注目する。
まだ勝負は始まっていないのに、心がワクワクと浮き立つのを感じていた。
そんな風に呼ばれているそこは、普段は何の変哲もない広場だ。
ただオフィス街の谷間のような場所にあるため、夕方には周辺に人がいなくなる。
だから夜は少々騒いでも、苦情がくることはない。
毎週土曜の夜、その広場にラップ好きの若者が集うようになった。
それが泥門サイファーだ。
腕に覚えがある無名のラッパーたちが、輪になって即興でラップをする。
時には1対1でガチンコのMCバトルになったりする。
そしてその中からメジャーデビューする者も現れ始めた。
曲をリリースしてCDを出したり、ライブハウスで活躍したり。
またMCバトルの大会で好成績を収めたりする者もいる。
そして彼らは高らかに泥門サイファー出身であることを謳う。
それを聞いた無名の才能ある若者がこの場所にやって来るのだ。
ヒル魔はそんな泥門サイファーの先駆者だった。
最初はヒル魔を含む数名のラッパーたちから始まったのだ。
ただただ即興で思いついたリリック(歌詞)を音に乗せる。
時に仲間と声を合わせ、時には戦って。
次第にライムやフロウのテクニックが磨かれ、スキルが上がっていく。
そして今やヒル魔は押しも押されぬ存在となった。
大きな大会で3連覇を果たし、その実力はピカイチの評価だ。
ライブハウスなら即日完売、楽曲のCDやライブのDVDもまずまず売れている。
最近ではテレビドラマの主題歌やCMソングのオファーが来るほどだ。
テレビの仕事も増えており、さながら泥門サイファーの生きる伝説となっていた。
そのヒル魔は久しぶりに泥門サイファーに来ていた。
ヒル魔の容貌はかなり目立つ。
逆立てた金髪と、尖った耳に大きなピアス。
だが裏を返せば、その特徴を隠せば目立たなくなる。
だからニットキャップにサングラスで気配を消して立っていれば、案外気付かれない。
ヒル魔はそのまま少し離れたところから、後輩とも言えるラッパーたちを見た。
オレがナンバーワン~♪必殺のワンパンマン~♪
ラッパーたちの輪の中で、2人の青年が激しくバトルを繰り広げている。
1人は最近MCバトルの大会で上位に残る常連。
短い金髪で顔に十字傷がある男、名前は確か十文字だったか。
いいな。懐かしい。
ヒル魔は若く勢いのあるバトルを見て、サングラスの中で目を細めた。
まだまだ昔を懐かしむ年齢でもない。
それにもっと上に行くつもりだし、立ち止まっている場合ではない。
それでもどうしてもここに来たくなったのだ。
それはヒル魔の気持ちの問題だった。
最近は仕事が忙しくなり、あちこちでチヤホヤされるようになった。
それはそれで悪い気分ではないが、何だかぬるま湯に浸っているような感じがする。
このままでは惰性で流されていくような危惧さえある。
だから初心に帰るべく、始まりの地である泥門サイファーにやって来たのだった。
若いラッパーたちから歓声が上がった。
MCバトルは十文字が勝利したようだ。
そして負けた青年は十文字と腕相撲のような握手を交わしながら、輪に戻る。
すると新たな挑戦者が名乗りを上げたらしい。
ドッと歓声が沸き、前に進み出た青年を見た時、ヒル魔は目を瞠った。
新たな挑戦者は、異様な風体をしていたのだ。
背は低いががっしりとした体躯に黒い長袖のシャツとブラックジーンズ。
その上から赤字に白抜きで「21」と書かれたダブダブのTシャツを着ていた。
そこまではいいが、それだけではない。
黒いヘルメットに緑色のアイシールドを装着して、顔がすっぽり隠れているのだ。
そのせいで彼が若い男のようだということだけしかわからない。
アイシールド21だ!
そこからともなく声が上がり、それがそのうちに「アイシ」コールとなる。
久しぶりにここに来たヒル魔には初見の男だが、今の泥門サイファーでは有名人のようだ。
面白い。アイシールド21とやらの実力を見せてもらおうか。
ヒル魔はニンマリと笑いながら、輪の中のバトルに注目する。
まだ勝負は始まっていないのに、心がワクワクと浮き立つのを感じていた。