Teacher and Student

なんて退屈なんだ。
授業中だというのに、盛大に欠伸をする。
蛭魔にとって学校とは、そういう場所だった。

蛭魔妖一の最大の不幸は、頭が良すぎることだった。
生まれつき知能指数が高く、記憶力や洞察力も人よりかなり優れている。
だから成績は常に優秀で、テストと名がつくものはほぼ満点。
順位に至っては、1位以外は取ったことがない。

数学オリンピックなるものに挑んだこともある。
だがあまりにも簡単な試験問題に呆れて、1度きりで終わった。
メンサの入会試験を受けてみたこともある。
人口上位2%の知能指数を有する者が所属できる組織だ。
だがこれまた簡単すぎてお話にならず、入会を辞退した。

そんな蛭魔だから、学校ではわかりやすく浮いていた。
蛭魔の高校は、学力で測るならランクは低い。
都内で普通の高校に入れなかったような者が集まって来るような学校だ。
ここを選んだ理由はたった1つ、校則がゆるいから。
もっというなら、ほぼないに等しい。
だから蛭魔は高校生にして、髪を金色に染めて逆立てている。

どうせどんな優秀な学校に通ったところで、物足りないのだ。
だったら最終学歴の大学さえ、それなりのところを出ておけばいい。
世界中のどんな大学でもほぼ入れる頭脳があるのだ。
高校までは、別にどんな学校だってかまわない。

そんなある日のことだった。
いつもの通り、1時間目の前の短いホームルームの時間。
クラスの担任の女性教師が教壇に上がる。
そしてクラスを見回すと「みなさん」と話し始めた。

英語の三宅先生は体調を崩して、急遽入院することになりました。
担任教師の言葉に、蛭魔は「フン」と鼻で笑った。
英語担当の三宅は、ひどかった。
発音も正しくないし、ちょっとツッコんだ質問をすれば答えられない。
そんなヤツがいなくなったところで、誰も気にしないだろう。

ですので今日からこのクラスの英語は、小早川先生が教えてくれます。
担任教師の言葉に、蛭魔は首を傾げた。
小早川なんて教師、うちにいただろうか?

すると蛭魔の内心の問いに答えるように、ドアが開いた。
入って来たのは小柄で童顔、少年のような外見の男だ。
その男は教壇に上がると、ニコニコと笑顔になる。
クラスのそこここから「可愛い!」という声が上がった。

小早川です。今日からこのクラスの英語を担当します。
よろしくお願いします。
ペコリと頭を下げると、クセの強い黒髪も揺れる。
その仕草さえどこか愛らしく、誰からともなく拍手が沸き起こったのだが。

こんな男が教師?
蛭魔は新任英語教師をマジマジと凝視した。
自分より年下にしか見えない童顔教師に、妙に心が騒ぐ。
だが理由は蛭魔の聡明な頭脳をもってしても、わからなかった。
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