Reunion
お前、セナか?
十文字は昔の面差しをはっきりと残した童顔の少年に声をかけた。
少年は「もしかして一輝君?」と不思議そうに聞き返してきた。
十文字一輝は、東京出身。
ごくごく普通の家庭で育った、イマドキ男子だ。
顔立ちはまずまず整っているけれど、顔に目立つ傷があるおかげでプラマイで言えばマイナスだ。
さらに髪を金色に染めたおかげで、女子からはスルーだ。
どうやらかなり怖いらしい。
ちょっと寂しい気はしないでもないが、気のない女に言い寄られるよりはマシと割り切っている。
そんな十文字も、この4月から大学生だ。
第一志望の大学に晴れて合格し、東京を離れた。
友人たちからは「お前、変わってるな」と言われた。
わざわざ東京という遊ぶのに便利な場所に実家があるのに、わざわざ地方に出ることを言ってのことだ。
だが十文字は気にしていなかった。
学びたいことがあり、どうしても師事したい人物がいるからだ。
学問の道に進めるほど、甘くないことはわかっている。
おそらく卒業後は、まったく関係ない職業に就くだろう。
だけどそれならこの4年間は、好きなことをしたい。
だから4年だけと親に無理を言って、この大学に進んだのだ。
そして入学式の前日、十文字は大学にやって来た。
1人暮らしの準備は整った。
大学近くの小さなワンルームマンションでは引っ越しの荷ほどきも終わっている。
近所のコンビニや定食屋など、差し当たって役に立ちそうな店もチェック済だ。
そこで時間もあることだしと、大学までやって来たのだ。
せっかく時間があることだ。
明日になれば新入生でごった返すだろうが、今はまだ閑散とした構内を見ておこうと思った。
残念ながら、今年の桜の開花は早かった。
少し前は見事であっただろう桜並木は、今はもう葉桜になっている。
だがこれはこれで綺麗だと、十文字は折り合いをつけた。
桜は来年の楽しみに取っておけばいい。
だがそのときだった。
学生にしては小柄な人物が、十文字の前を横切った。
それを見た十文字は思わず「え?」と声を上げた。
数年前に突然姿を消した、だけど片時も忘れたことがなかった少年。
その面影をくっきり残した横顔が通り過ぎたように見えたのだ。
ちょっと待て。お前、セナか?
十文字は昔の面差しをはっきりと残した童顔の少年に声をかけた。
突然会えなくなって、ずっと気になっていたのだ。
もしかして一輝君?東京から来たの?
少年は不思議そうにそう聞いてきた。
十文字は「そうだ」と頷き「ここの考古学研究室で学びたくて」と告げた。
ここには日本の考古学研究の第一人者、蛭魔教授の研究室がある。
考古学に興味がある十文字はここの研究室で学びたくて、わざわざこの大学を選んだのだ
お前もこの大学に。
思わずそう聞きかけた十文字は、少年の身なりを見て言葉に詰まった。
くたびれた作業着を身に着け、清掃用の道具を持っている。
その姿はとても新入生には見えない。
そしてその表情は、固く強張っていた。
入学おめでとう。頑張ってね。
それから構内でボクを見かけても、知らない顔をしてくれると嬉しい。
少年は冷たくそう言い放つと、ツカツカと歩いていく。
十文字はずっと会いたかった少年の、あまりにも素っ気ない態度に呆然としていた。
この数年間、十文字が平凡な中学、そして高校生活を送っている間に何があったのか。
このときの十文字は、まだ知る由もなかったのである。
十文字は昔の面差しをはっきりと残した童顔の少年に声をかけた。
少年は「もしかして一輝君?」と不思議そうに聞き返してきた。
十文字一輝は、東京出身。
ごくごく普通の家庭で育った、イマドキ男子だ。
顔立ちはまずまず整っているけれど、顔に目立つ傷があるおかげでプラマイで言えばマイナスだ。
さらに髪を金色に染めたおかげで、女子からはスルーだ。
どうやらかなり怖いらしい。
ちょっと寂しい気はしないでもないが、気のない女に言い寄られるよりはマシと割り切っている。
そんな十文字も、この4月から大学生だ。
第一志望の大学に晴れて合格し、東京を離れた。
友人たちからは「お前、変わってるな」と言われた。
わざわざ東京という遊ぶのに便利な場所に実家があるのに、わざわざ地方に出ることを言ってのことだ。
だが十文字は気にしていなかった。
学びたいことがあり、どうしても師事したい人物がいるからだ。
学問の道に進めるほど、甘くないことはわかっている。
おそらく卒業後は、まったく関係ない職業に就くだろう。
だけどそれならこの4年間は、好きなことをしたい。
だから4年だけと親に無理を言って、この大学に進んだのだ。
そして入学式の前日、十文字は大学にやって来た。
1人暮らしの準備は整った。
大学近くの小さなワンルームマンションでは引っ越しの荷ほどきも終わっている。
近所のコンビニや定食屋など、差し当たって役に立ちそうな店もチェック済だ。
そこで時間もあることだしと、大学までやって来たのだ。
せっかく時間があることだ。
明日になれば新入生でごった返すだろうが、今はまだ閑散とした構内を見ておこうと思った。
残念ながら、今年の桜の開花は早かった。
少し前は見事であっただろう桜並木は、今はもう葉桜になっている。
だがこれはこれで綺麗だと、十文字は折り合いをつけた。
桜は来年の楽しみに取っておけばいい。
だがそのときだった。
学生にしては小柄な人物が、十文字の前を横切った。
それを見た十文字は思わず「え?」と声を上げた。
数年前に突然姿を消した、だけど片時も忘れたことがなかった少年。
その面影をくっきり残した横顔が通り過ぎたように見えたのだ。
ちょっと待て。お前、セナか?
十文字は昔の面差しをはっきりと残した童顔の少年に声をかけた。
突然会えなくなって、ずっと気になっていたのだ。
もしかして一輝君?東京から来たの?
少年は不思議そうにそう聞いてきた。
十文字は「そうだ」と頷き「ここの考古学研究室で学びたくて」と告げた。
ここには日本の考古学研究の第一人者、蛭魔教授の研究室がある。
考古学に興味がある十文字はここの研究室で学びたくて、わざわざこの大学を選んだのだ
お前もこの大学に。
思わずそう聞きかけた十文字は、少年の身なりを見て言葉に詰まった。
くたびれた作業着を身に着け、清掃用の道具を持っている。
その姿はとても新入生には見えない。
そしてその表情は、固く強張っていた。
入学おめでとう。頑張ってね。
それから構内でボクを見かけても、知らない顔をしてくれると嬉しい。
少年は冷たくそう言い放つと、ツカツカと歩いていく。
十文字はずっと会いたかった少年の、あまりにも素っ気ない態度に呆然としていた。
この数年間、十文字が平凡な中学、そして高校生活を送っている間に何があったのか。
このときの十文字は、まだ知る由もなかったのである。