Omegaverse
この世界には、男性・女性の他に3種類の性がある。
α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)。
いわゆるオメガバースである。
αは生まれつきのエリートであり、人数は少ない。
カリスマ性やリーダースキルを持ち、社会的地位が高い者に多く、全てにおいて優遇される。
βはごく普通の人間で、人口比率的にも最も多い。
いわゆるノーマル。
Ωはαよりも少なく、しばしば絶滅危惧種として扱われることもある。
種の繁殖が仕事とみなされており、社会的地位は低い。
そしてαとΩにだけ「番(ツガイ)」という特殊なつながりが存在する。
フリーのΩはフェロモンでフリーのαを誘い、αがΩの項を噛むことで「番」となることができる。
また「番」を見つけたΩはフェロモンは発さなくなる。
「番」を見つけたことで、今の恋人と別れてしまうなんてケースもあるそうだ。
恋人同士や結婚よりも強い繋がりであり、基本的には一度「番」になるとどちらかが死ぬまで解除されない。
しかしαは一方的に番を解除することができる。
その場合Ωに非常に強いな精神的ストレスを与えることになり、Ωは一生番を作れなくなってしまう。
ヒル魔妖一はわかりやすくαである。
髪を金色に染めて逆立てるなど、奇抜な容姿こそしているが、実は顔立ちは整っている。
さして勉強をしなくても学業は優秀だし、少し学ぶだけで何か国語もの言語を理解した。
部活はアメフト部、ポジションはチームの要のクォーターバック。
そして主将として、個性の強い面々が集まる泥門デビルバッツを率いている。
それぞれの長所や短所を殺さないようにしながらうまくまとめているのも、αであるからかもしれない。
とはいえヒル魔は、普段は自分がαであることなどほとんど意識していない。
必要がないからだ。
ヒル魔が通う泥門高校は、教職員はすべてβ。
そして生徒もほとんどがβだった。
ヒル魔も含めてαは3学年合わせても1桁、そしてΩの生徒はいない。
βの者は、そのほとんどがオメガバースを意識せずに暮らしている。
中には都市伝説だと思っている者や、そもそもオメガバースを知らない者もいる。
それもそのはずαとΩは検査などで発覚した時点で本人に告知され、必要に応じて薬も処方される。
だがβは何も言われないし、何も起こらないのだ。
そんなβばかりの環境にいれば、αであっても気にしなくなる。
世の中にはαを敬い、Ωを蔑むような傾向があるらしい。
だがヒル魔にはそういう差別意識はまったくなかった。
どの性に生まれてくるかは、本人の努力ではどうにもならないからだ。
どういう性格で、どんな風に生きているかの方が余程重要だ。
それでもヒル魔は、Ωの者だけはアメフト部には入れないと決めていた。
チームメイトとの間に、しこりを残すのが嫌だったからだ。
Ωはαをフェロモンで誘う。
事実ヒル魔は、そういう経験を今までも何度かしていた。
だがチームメイトとなれば、簡単にはいかない。
目指しているのは、クリスマスボウル。
そのために余計な火種は最初から排除するに越したことはない。
今のところチームはヒル魔以外全員β、何も問題は起きない。
そんなある日のことだった。
アメフト部の夏合宿は、アメリカで行なうことに決めた。
その名もデスマーチ。
初心者集団のアメフト部を強豪と戦い勝てるレベルまで上げるためには、過酷なメニューが必要だ。
そのための準備に追われていた頃、ヒル魔はアメフト部の1年生、小早川セナの両親に呼び出された。
どうしてもお話したいことがあるんです、と。
それを聞いた瞬間、嫌な予感がした。
夏休みのほとんどをアメリカで過ごすという強行メニューの合宿だ。
部員たちの親の中には反対する者もいるだろう。
うちの子供は不参加でという親がいても、おかしくない。
だがヒル魔としては、セナが参加できないのは困る。
チームのエース。光速のランニングバック、アイシールド21。
泥門デビルバッツが勝つも負けるも、セナがどれだけ通用するかにかかっている。
他の誰を抜いても、セナだけは絶対に合宿に来てもらわなければならないのだ。
ヒル魔はセナの自宅に出向いた。
何としてもセナの両親を説得するつもりだった。
誰かを丸め込むのは、ヒル魔の得意技の1つ。
何とでもなると思っていた。
だが実際、セナの両親は思いもよらないことを言った。
うちの息子は、セナはΩなんです。
セナの父親はそう言った。
そして同席していた母親は、泣き崩れてしまった。
そんなバカな。
衝撃の事実を告げられたヒル魔は、呆然とした。
Ωはチームに入れないつもりだったのに、よりによってエースがΩ。
それ以前にαであるヒル魔が、どうしてセナのオメガバースを見抜けなかったのか。
それでお願いがあるんですが。
セナによく似た父親が、息子と1歳しか違わないヒル魔に頭を下げる。
それほど小早川家にとっては、重大なことなのだ。
ヒル魔はそれを打ち明けられた重みを感じながら「うかがいます」と身を乗り出した。
α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)。
いわゆるオメガバースである。
αは生まれつきのエリートであり、人数は少ない。
カリスマ性やリーダースキルを持ち、社会的地位が高い者に多く、全てにおいて優遇される。
βはごく普通の人間で、人口比率的にも最も多い。
いわゆるノーマル。
Ωはαよりも少なく、しばしば絶滅危惧種として扱われることもある。
種の繁殖が仕事とみなされており、社会的地位は低い。
そしてαとΩにだけ「番(ツガイ)」という特殊なつながりが存在する。
フリーのΩはフェロモンでフリーのαを誘い、αがΩの項を噛むことで「番」となることができる。
また「番」を見つけたΩはフェロモンは発さなくなる。
「番」を見つけたことで、今の恋人と別れてしまうなんてケースもあるそうだ。
恋人同士や結婚よりも強い繋がりであり、基本的には一度「番」になるとどちらかが死ぬまで解除されない。
しかしαは一方的に番を解除することができる。
その場合Ωに非常に強いな精神的ストレスを与えることになり、Ωは一生番を作れなくなってしまう。
ヒル魔妖一はわかりやすくαである。
髪を金色に染めて逆立てるなど、奇抜な容姿こそしているが、実は顔立ちは整っている。
さして勉強をしなくても学業は優秀だし、少し学ぶだけで何か国語もの言語を理解した。
部活はアメフト部、ポジションはチームの要のクォーターバック。
そして主将として、個性の強い面々が集まる泥門デビルバッツを率いている。
それぞれの長所や短所を殺さないようにしながらうまくまとめているのも、αであるからかもしれない。
とはいえヒル魔は、普段は自分がαであることなどほとんど意識していない。
必要がないからだ。
ヒル魔が通う泥門高校は、教職員はすべてβ。
そして生徒もほとんどがβだった。
ヒル魔も含めてαは3学年合わせても1桁、そしてΩの生徒はいない。
βの者は、そのほとんどがオメガバースを意識せずに暮らしている。
中には都市伝説だと思っている者や、そもそもオメガバースを知らない者もいる。
それもそのはずαとΩは検査などで発覚した時点で本人に告知され、必要に応じて薬も処方される。
だがβは何も言われないし、何も起こらないのだ。
そんなβばかりの環境にいれば、αであっても気にしなくなる。
世の中にはαを敬い、Ωを蔑むような傾向があるらしい。
だがヒル魔にはそういう差別意識はまったくなかった。
どの性に生まれてくるかは、本人の努力ではどうにもならないからだ。
どういう性格で、どんな風に生きているかの方が余程重要だ。
それでもヒル魔は、Ωの者だけはアメフト部には入れないと決めていた。
チームメイトとの間に、しこりを残すのが嫌だったからだ。
Ωはαをフェロモンで誘う。
事実ヒル魔は、そういう経験を今までも何度かしていた。
だがチームメイトとなれば、簡単にはいかない。
目指しているのは、クリスマスボウル。
そのために余計な火種は最初から排除するに越したことはない。
今のところチームはヒル魔以外全員β、何も問題は起きない。
そんなある日のことだった。
アメフト部の夏合宿は、アメリカで行なうことに決めた。
その名もデスマーチ。
初心者集団のアメフト部を強豪と戦い勝てるレベルまで上げるためには、過酷なメニューが必要だ。
そのための準備に追われていた頃、ヒル魔はアメフト部の1年生、小早川セナの両親に呼び出された。
どうしてもお話したいことがあるんです、と。
それを聞いた瞬間、嫌な予感がした。
夏休みのほとんどをアメリカで過ごすという強行メニューの合宿だ。
部員たちの親の中には反対する者もいるだろう。
うちの子供は不参加でという親がいても、おかしくない。
だがヒル魔としては、セナが参加できないのは困る。
チームのエース。光速のランニングバック、アイシールド21。
泥門デビルバッツが勝つも負けるも、セナがどれだけ通用するかにかかっている。
他の誰を抜いても、セナだけは絶対に合宿に来てもらわなければならないのだ。
ヒル魔はセナの自宅に出向いた。
何としてもセナの両親を説得するつもりだった。
誰かを丸め込むのは、ヒル魔の得意技の1つ。
何とでもなると思っていた。
だが実際、セナの両親は思いもよらないことを言った。
うちの息子は、セナはΩなんです。
セナの父親はそう言った。
そして同席していた母親は、泣き崩れてしまった。
そんなバカな。
衝撃の事実を告げられたヒル魔は、呆然とした。
Ωはチームに入れないつもりだったのに、よりによってエースがΩ。
それ以前にαであるヒル魔が、どうしてセナのオメガバースを見抜けなかったのか。
それでお願いがあるんですが。
セナによく似た父親が、息子と1歳しか違わないヒル魔に頭を下げる。
それほど小早川家にとっては、重大なことなのだ。
ヒル魔はそれを打ち明けられた重みを感じながら「うかがいます」と身を乗り出した。