Convenience Store
うわ、すごい派手な人だ。
レジに入っていた瀬那は、入ってきた客のあまりにも目立つ風貌に驚く。
それでもそれを顔や態度に出さないほどのプロ意識は身についていた。
瀬那が切り盛りするこの店は、世間で言うところのコンビニエンスストア。
いわゆるコンビニである。
だが有名なチェーン店ではなく、個人経営だ。
瀬那的にはコンビニではなく、昔の「よろず屋」だと思っている。
実際のところは小さなコミュニティを相手にする、少々品揃えが偏った店だ。
例えば弁当の類は、瀬那自身が作るおにぎりとサンドウィッチ、あとは自家製の漬物しかない。
菓子なども、メーカー一押しの新商品などは置かず、定番商品ばかりだ。
理由は簡単、客は顔馴染みばかりであり、しかも高齢者が多い。
彼らはなかなか新しいものに手を出さないので、売れる商品は限られているのだ。
たまに瀬那が気まぐれでいつもと違う品物を仕入れても、だいたい売れ残る。
そんな土地柄の中で、細々と営業する店なのだ。
瀬那はそんな店を、ほぼ1人で営業している。
今時のコンビニのように、24時間営業はできない。
バイトは午前中に1人、夕方に1人来てくれるだけなので、瀬那が寝ている間は閉めなければならないのだ。
だけど朝は最寄り駅の始発電車が動く頃から、夜は終電で帰ってきた客が買い物できるくらいまで開けている。
身体はきついけれど、幼い頃から可愛がってくれているこの街の人たちの役に立てているだけで嬉しかった。
そんなある日のことだ。
やたらド派手な若い男が来店した。
綺麗に整った顔立ち、均整の取れたモデルのような体型、逆立てた金髪、尖った耳に二連のピアス。
身に着けているシャツやジャケットも洒落ていて、ブランドなどに疎いセナでも高級品なのだとわかった。
瀬那は度肝を抜かれながらも、普通の客に接するのと同じように「いらっしゃいませ」と告げた。
だが彼が二度と来店しないだろうことは、予想できた。
何しろチェーン店のコンビニに比べると、品揃えが少ない上に偏っている。
初めての客のほとんどは何も買わず、もしくは申し訳程度にペットボトルの飲み物を1つくらい買って出て行く。
そして通りを挟んで、斜め向かいにあるチェーン店のコンビニ「デビルバッツ」に行ってしまうのだ。
男は店内を1周すると、店内用の買い物かごを使わずに商品を2つ持って、レジにやってきた。
缶入りのブラックコーヒーと、無糖ガムだ。
それを見た瀬那はまたしても心の中で驚きながら、淡々とレジにバーコードを読み込ませる。
この2つは、この店では売れない商品だった。
コーヒーはアメリカのメーカーのもので、日本での認知度はほぼない。
だが缶コーヒーとは思えないほどの香りで、味も甘みがないのにまろやかだ。
コーヒーをブラックでは飲めない瀬那でも飲めるブラックコーヒーだ。
売り込みに来た業者に試供品を飲み、気に入ったので店に置くことにした。
消費期限も長いから、売れなくても自分で飲めばいいと思った。
そして無糖ガムは単純にパッケージが気に入ったので、仕入れてみた。
だがこれは瀬那の口に合わず、どうしたものかと思っていたのだ。
本当に止せばいいのに、たまに衝動買いするようなノリでこういう仕入れをしてしまう。
男はそんな店では邪魔者扱いの商品を2つをレジに置いたのだ。
瀬那は2つをレジに通し、小さな袋に入れようとする。
だが男は「そのままでいい」と告げて、財布からカードを取り出す。
瀬那は慌てて「申し訳ありません。クレジットカードと電子マネーは使えないんです」と告げた。
すると男は黙って1000円札を出した。
カードでいつも払っているから、小銭は持たないのだろうか。
瀬那は「794円のお返しです」と釣銭とレシートを渡すと、男はそれを受け取った。
ジャケットのポケットに無糖ガムと釣銭を無造作に突っ込み、缶コーヒーは手に持ったまま、店を出て行く。
瀬那は「ありがとうございました」と声をかけながら、もう2度と来ないだろうなと思った。
だが男はそれから毎日現れた。
時間帯はまちまちだ。
昼だったり、午前中だったり、早朝だったり、深夜の閉店ギリギリだったりした。
だけど買うものはいつも同じ、無糖ガムとブラックの缶コーヒーだ。
そして毎回男は1000円札を出し、無糖ガムと小銭をポケットに放り込むのだ。
この人、いったい何なんだろう。
瀬那は首を傾げながら、考える。
だが男に聞くようなことはしなかった。
男からはなぜか「話しかけるな」というオーラが出ているような気がするからだ。
レジに入っていた瀬那は、入ってきた客のあまりにも目立つ風貌に驚く。
それでもそれを顔や態度に出さないほどのプロ意識は身についていた。
瀬那が切り盛りするこの店は、世間で言うところのコンビニエンスストア。
いわゆるコンビニである。
だが有名なチェーン店ではなく、個人経営だ。
瀬那的にはコンビニではなく、昔の「よろず屋」だと思っている。
実際のところは小さなコミュニティを相手にする、少々品揃えが偏った店だ。
例えば弁当の類は、瀬那自身が作るおにぎりとサンドウィッチ、あとは自家製の漬物しかない。
菓子なども、メーカー一押しの新商品などは置かず、定番商品ばかりだ。
理由は簡単、客は顔馴染みばかりであり、しかも高齢者が多い。
彼らはなかなか新しいものに手を出さないので、売れる商品は限られているのだ。
たまに瀬那が気まぐれでいつもと違う品物を仕入れても、だいたい売れ残る。
そんな土地柄の中で、細々と営業する店なのだ。
瀬那はそんな店を、ほぼ1人で営業している。
今時のコンビニのように、24時間営業はできない。
バイトは午前中に1人、夕方に1人来てくれるだけなので、瀬那が寝ている間は閉めなければならないのだ。
だけど朝は最寄り駅の始発電車が動く頃から、夜は終電で帰ってきた客が買い物できるくらいまで開けている。
身体はきついけれど、幼い頃から可愛がってくれているこの街の人たちの役に立てているだけで嬉しかった。
そんなある日のことだ。
やたらド派手な若い男が来店した。
綺麗に整った顔立ち、均整の取れたモデルのような体型、逆立てた金髪、尖った耳に二連のピアス。
身に着けているシャツやジャケットも洒落ていて、ブランドなどに疎いセナでも高級品なのだとわかった。
瀬那は度肝を抜かれながらも、普通の客に接するのと同じように「いらっしゃいませ」と告げた。
だが彼が二度と来店しないだろうことは、予想できた。
何しろチェーン店のコンビニに比べると、品揃えが少ない上に偏っている。
初めての客のほとんどは何も買わず、もしくは申し訳程度にペットボトルの飲み物を1つくらい買って出て行く。
そして通りを挟んで、斜め向かいにあるチェーン店のコンビニ「デビルバッツ」に行ってしまうのだ。
男は店内を1周すると、店内用の買い物かごを使わずに商品を2つ持って、レジにやってきた。
缶入りのブラックコーヒーと、無糖ガムだ。
それを見た瀬那はまたしても心の中で驚きながら、淡々とレジにバーコードを読み込ませる。
この2つは、この店では売れない商品だった。
コーヒーはアメリカのメーカーのもので、日本での認知度はほぼない。
だが缶コーヒーとは思えないほどの香りで、味も甘みがないのにまろやかだ。
コーヒーをブラックでは飲めない瀬那でも飲めるブラックコーヒーだ。
売り込みに来た業者に試供品を飲み、気に入ったので店に置くことにした。
消費期限も長いから、売れなくても自分で飲めばいいと思った。
そして無糖ガムは単純にパッケージが気に入ったので、仕入れてみた。
だがこれは瀬那の口に合わず、どうしたものかと思っていたのだ。
本当に止せばいいのに、たまに衝動買いするようなノリでこういう仕入れをしてしまう。
男はそんな店では邪魔者扱いの商品を2つをレジに置いたのだ。
瀬那は2つをレジに通し、小さな袋に入れようとする。
だが男は「そのままでいい」と告げて、財布からカードを取り出す。
瀬那は慌てて「申し訳ありません。クレジットカードと電子マネーは使えないんです」と告げた。
すると男は黙って1000円札を出した。
カードでいつも払っているから、小銭は持たないのだろうか。
瀬那は「794円のお返しです」と釣銭とレシートを渡すと、男はそれを受け取った。
ジャケットのポケットに無糖ガムと釣銭を無造作に突っ込み、缶コーヒーは手に持ったまま、店を出て行く。
瀬那は「ありがとうございました」と声をかけながら、もう2度と来ないだろうなと思った。
だが男はそれから毎日現れた。
時間帯はまちまちだ。
昼だったり、午前中だったり、早朝だったり、深夜の閉店ギリギリだったりした。
だけど買うものはいつも同じ、無糖ガムとブラックの缶コーヒーだ。
そして毎回男は1000円札を出し、無糖ガムと小銭をポケットに放り込むのだ。
この人、いったい何なんだろう。
瀬那は首を傾げながら、考える。
だが男に聞くようなことはしなかった。
男からはなぜか「話しかけるな」というオーラが出ているような気がするからだ。