War of Angels and Demons 2
あの人、なんでこんなの飼ってるの!?
セナは呆然としながら、途方に暮れた。
犬というよりもはや怪獣と呼ぶべきその生き物は、見るからに凶悪そうな顔でセナを見上げていた。
こんにちは。お邪魔します。
セナは囁くように小さく声を上げながら、とあるマンションの部屋を訪ねた。
ここで独り暮らしのある女性が、不慮の事故に巻き込まれたからだ。
このまま部屋に戻れなければ、あの子が死んじゃう。
彼女はまず部屋の残してきたペットの心配をした。
だからセナは彼女の部屋にやって来たのだが。
名前はケルベロスっていうの。
彼女はそう言っていた。
地獄の番犬の名を冠している時点で、違和感はあったのだ。
だが所詮は若い女性が飼っている犬。
せいぜいチワワとかミニチュアダックスなどを連想していた。
だがケルベロスは、見るからに凶暴だった。
おそらくブルドックの血が濃く入っているであろう雑種。
そいつは「ウゥ」と唸りながら、敵意をむき出しにしてセナを睨んでいたのだ。
ちょっと人見知りだけど、根はいい子だから。
彼女はそう言っていたけれど、とてもそうは見えない。
まも姉、いるの~?
不意にドアの外から、そんな声が聞こえた。
どうしたものかと迷った末に、セナはドアを開けた。
ある意味、不法侵入とも言えなくない状況だ。
だが誰もいないはずの部屋から人の気配がするとなったら、通報されるかもしれない。
警察など怖くはないが、余計なトラブルは避けるようにと上からのお達しが出ている。
まも姉、どこに行ってたの?あれ?
部屋の住人が出てくると思っていたのだろう。
中から現れたセナを見て、訪問者は首を傾げる。
世間一般的には10代後半か、せいぜい20歳くらいの若い女性だ。
だがその世間一般がいかに当てにならないか、セナはよく知っている。
セナ本人は一見すれば10代前半にしか見えないが、実年齢はその何十倍にもなるからだ。
姉崎まもりさんのお知り合いですか?
セナがそう聞くと、訪問者は「瀧鈴音。隣の部屋に住んでるの」と答えた。
普通なら隣室に見知らぬ男がいたら、怪しむところだろう。
だがここはどう見ても子供であるセナの外見で、何とか切り抜けたようだ。
昨日の夜、一緒にごはん食べる約束していたの。
だけど帰ってこないし、スマホもつながらなくて心配してたんだ。
まも姉に何があったの?大丈夫なの?
鈴音という隣人は、心配そうにそう聞いてきた。
セナは一瞬、返答に詰まる。
この部屋の住人、姉崎まもりに何が起こったかはすぐにわかることだ。
だけどそれをまもりと親しいであろう鈴音に告げる役目は、したくなかった。
ええ。しばらくは帰れません。
ボクは彼女に頼まれて、ケルベロス君を引き取りに来たんです。
セナはそう告げると、まもりの愛犬を抱き上げようとする。
だが凶暴な犬は「ウウウ」と唸って、セナを威嚇する。
すると鈴音はここで初めて、セナに疑いの目を向けてきた。
あなた、嘘をついてるでしょ。
ケルちゃんはそういうの、ちゃんとわかるのよ!
何があったか、ちゃんと話して!
そうじゃないと大声出すからね!
鈴音が叫び出したのを見て、セナは「もう大声出してるじゃないか」と文句を言った。
そして「ハァァ」とため息をつく。
あとでヒルマに怒られるのは、必至だ。
たかが女性1人と犬1匹、うまくあしらえなかったのだから。
姉崎まもりさんは、昨夜亡くなりました。
彼女は最期の願いの1つに、ケルベロス君の新しい飼い主を見つけて欲しいって言い残したんです。
セナは渋々白状した。
そしてこの部屋の住人の最期の数時間を、静かに語り始めた。
セナは呆然としながら、途方に暮れた。
犬というよりもはや怪獣と呼ぶべきその生き物は、見るからに凶悪そうな顔でセナを見上げていた。
こんにちは。お邪魔します。
セナは囁くように小さく声を上げながら、とあるマンションの部屋を訪ねた。
ここで独り暮らしのある女性が、不慮の事故に巻き込まれたからだ。
このまま部屋に戻れなければ、あの子が死んじゃう。
彼女はまず部屋の残してきたペットの心配をした。
だからセナは彼女の部屋にやって来たのだが。
名前はケルベロスっていうの。
彼女はそう言っていた。
地獄の番犬の名を冠している時点で、違和感はあったのだ。
だが所詮は若い女性が飼っている犬。
せいぜいチワワとかミニチュアダックスなどを連想していた。
だがケルベロスは、見るからに凶暴だった。
おそらくブルドックの血が濃く入っているであろう雑種。
そいつは「ウゥ」と唸りながら、敵意をむき出しにしてセナを睨んでいたのだ。
ちょっと人見知りだけど、根はいい子だから。
彼女はそう言っていたけれど、とてもそうは見えない。
まも姉、いるの~?
不意にドアの外から、そんな声が聞こえた。
どうしたものかと迷った末に、セナはドアを開けた。
ある意味、不法侵入とも言えなくない状況だ。
だが誰もいないはずの部屋から人の気配がするとなったら、通報されるかもしれない。
警察など怖くはないが、余計なトラブルは避けるようにと上からのお達しが出ている。
まも姉、どこに行ってたの?あれ?
部屋の住人が出てくると思っていたのだろう。
中から現れたセナを見て、訪問者は首を傾げる。
世間一般的には10代後半か、せいぜい20歳くらいの若い女性だ。
だがその世間一般がいかに当てにならないか、セナはよく知っている。
セナ本人は一見すれば10代前半にしか見えないが、実年齢はその何十倍にもなるからだ。
姉崎まもりさんのお知り合いですか?
セナがそう聞くと、訪問者は「瀧鈴音。隣の部屋に住んでるの」と答えた。
普通なら隣室に見知らぬ男がいたら、怪しむところだろう。
だがここはどう見ても子供であるセナの外見で、何とか切り抜けたようだ。
昨日の夜、一緒にごはん食べる約束していたの。
だけど帰ってこないし、スマホもつながらなくて心配してたんだ。
まも姉に何があったの?大丈夫なの?
鈴音という隣人は、心配そうにそう聞いてきた。
セナは一瞬、返答に詰まる。
この部屋の住人、姉崎まもりに何が起こったかはすぐにわかることだ。
だけどそれをまもりと親しいであろう鈴音に告げる役目は、したくなかった。
ええ。しばらくは帰れません。
ボクは彼女に頼まれて、ケルベロス君を引き取りに来たんです。
セナはそう告げると、まもりの愛犬を抱き上げようとする。
だが凶暴な犬は「ウウウ」と唸って、セナを威嚇する。
すると鈴音はここで初めて、セナに疑いの目を向けてきた。
あなた、嘘をついてるでしょ。
ケルちゃんはそういうの、ちゃんとわかるのよ!
何があったか、ちゃんと話して!
そうじゃないと大声出すからね!
鈴音が叫び出したのを見て、セナは「もう大声出してるじゃないか」と文句を言った。
そして「ハァァ」とため息をつく。
あとでヒルマに怒られるのは、必至だ。
たかが女性1人と犬1匹、うまくあしらえなかったのだから。
姉崎まもりさんは、昨夜亡くなりました。
彼女は最期の願いの1つに、ケルベロス君の新しい飼い主を見つけて欲しいって言い残したんです。
セナは渋々白状した。
そしてこの部屋の住人の最期の数時間を、静かに語り始めた。