War of Angels and Demons 1

あなたは今、死にました。
目の前に突然現れた小さな少年は、きっぱりとそう告げた。

十文字一輝はゆっくりと目を開けた。
そして自分が固い地面の上に仰向けに横たわっていることに気付く。
どうやら眠っていたらしい。
ではなぜ、こんなところで?
十文字は首を傾げながら、上体を起こす。
すると自分の真横にしゃがみ込んでいる人影に気付き、思わず「うお!」と声を上げた。

誰だ、お前!?
自分の顔を至近距離から覗いていたその人物に、十文字は思わず食ってかかる。
そうしながら辺りを見回し、十文字は自分が通っている高校の校舎裏にいることを思い出した。
そうだ、授業をサボってここでタバコを吸っていたのだ。
そこまで思い出してから、十文字は再び自分を見ている人物に向き直る。
顔だけ見るとまだ中学生、いや下手をすると小学生に見える童顔の少年だ。
それでも十文字と同じこの学校の制服を着ているから、きっと高校生だろう。

ジロジロ見るな。あっち行けよ。
十文字はニコニコと笑いながら自分から視線を逸らせない少年に、そう吐き捨てた。
すると少年は困ったような表情で「そうはいかないんですよね」と答える。
そして言葉を続けようとして、だが躊躇ったように口を閉じた。
焦れた十文字は「さっさと言えよ!」と声を荒げる。
少年はコホンと1つ咳払いをすると、今度こそとばかりに口を開いた。

あなたは今、死にました。
目の前に突然現れた小さな少年は、きっぱりとそう告げた。
十文字は「はぁぁ!?」と、またしても声を荒げる。
だが少年は動じることなく「僕、セナっていいます。天使やってます」と名乗った。
そして情けなさそうに「一応」と付け加える。

ふざけんな!
十文字は立ち上がると、少年に背を向け、歩き出した。
何が天使だ。どう見たって普通のガキじゃねーか。
そして去り際に一言悪態をついてやろうと振り返ったとき、少年はもうそこにいなかった。
驚き、慌てて辺りをキョロキョロ見回すと、少年は十文字の前に立っていた。
さっきまで確かに背後にいたはずなのに、一瞬で移動したのだ。
しかも息1つ乱していない。

ふざけてないんです。あなた死んだんですよ。
屋上からふざけて、あれを落とした生徒がいまして。
それが頭に当たって、死んだんです。

少年は再びニコニコと笑いながら、背後の地面を指さす。
そこには校舎の何ヶ所かに設置されている赤い消火器が落ちていた。
あれが頭に当たった?
十文字は何とはなしに自分の頭に手をやると、なにやらヌメりといやな手触りがする。
慌てて手を確認すると、ベットリと赤い液体がついていた。

何だ、こりゃ!?
十文字は思わず声を上げ、その場にヘナヘナと座り込んだ。
ケンカばかりしているので、血にはそれなりに慣れているつもりだった。
だが出血量が多すぎる気がする。
それに触った感じ、後頭部が妙に陥没しているような気がするのだ。

いや、このセナとかいうヤツは「俺が死んだ」と言わなかったか?
十文字はようやくそのことに思い至ったものの、ブンブンと首を振った。
自分は確かにここにいるし、血だって出ているのだ。
くだらないことを考えている場合じゃない。
とにかく保健室。いや救急車か?
だがその瞬間、頭上から別の声が割り込んできた。

何をチンタラやってやがる!
十文字が慌てて上を見上げると、2階の窓から1人の男がこちらを見下ろしていた。
逆立てた金色の髪と尖った耳の、やたらに派手な青年だ。
やはり同じこの高校の制服を着ているが、果たしてここの生徒なのだろうか?
これほど目立つ容貌なら、見覚えがあってもおかしくないはずだが、十文字の記憶にはない。

次の瞬間、青年の姿が消えた。
十文字が思わず目を瞠ると、青年は十文字の前に現れたのだ。
先程の少年と同じ、いやもっと長い距離を一瞬で移動してしまったことになる。

あ、この人は悪魔で、ヒルマさんです。
一応僕とはペアで仕事してて、プライベートでは恋人だったりします。
うわ、恋人って名乗るの、恥ずかしいですねぇ。

セナと名乗った少年は、あっけらかんと宣言した後、盛大に照れた。
ヒルマという青年は「恋人とか、いちいち言わなくてもいいだろ」と呆れている。
十文字はと言えば、もうただただ混乱し、呆然としていた。
わけがわからないことが多すぎて、もうどうしていいかわからないのだ。

お前が死んだところから、ゲームスタートだ。
これからルールを説明する。
ヒルマはおもむろにそう告げると、十文字を見た。
セナは「僕が説明しようと思ったのに!」と不満そうだ。
だがヒルマは「テメーにまかせてたら、時間がかかる」とバッサリ切り捨てた。

天使と悪魔の戦争ゲーム。
突然死んでしまった高校生、十文字は有無を言わさず参加させられることになったのだ。
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